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語学習得には「安心感」が不可欠

パリ市の仏語講座を終えて

2月中旬〜6月下旬、週8時間のC1コース、生徒は各国から集まる20名弱でスタート。担当講師は2人、それぞれ月火・木金と担当する珍しいケースでしたが、この数ヶ月で色々と考えたことがあったので、まとめてみたいと思います。

C1コースが求めるレベル

今までとの明らかな違いは「言葉の裏にある真意を読み取る」「情緒的な表現(小説など)を読む・書く」「日常的な表現(隠語など)に慣れる」という、B2まででひと通りの文法は終えたことを前提とした、実際にネイティブと同じ土俵に上がる内容でした。

言葉の裏の真意を読み取る:ある意味日本人にとっては十八番(?)だけれど、ベースの文章をしっかり理解していないと当然そこまで感じ取れないのと、フランス人にとっては当たり前の感覚(常識や文化)を共有していない為に、比喩が分からなかったり、仏和辞書では対応出来なくなることもしばしば。あまり使い慣れていない仏仏辞書をもっと活用しないといけない。

情緒的な表現を読む・書く:最初の授業で取り組んだのですが、エッセイに近い自由な表現の文章を幾つか読んだ後、教室から見える景色について、10〜15分程かけて即興で書き、発表しました。個人的には型に嵌らなくて良く(普段はやたらと型を重視するのがフランス語)、思い浮かんだことをそのまま書けるのは楽しかったです。

日常的な表現に慣れる:TVドラマや漫画に出て来るような表現、砕けていたり、時に下品だったり(だから使わないようにと言われる)。恋愛映画のワンシーンを観ながら、講師が延々とセリフについて解説する場面もありました。大切さは理解出来ても、今ひとつ興味が持てなかった分野。

正反対な2人の講師

今回、講師は両方とも4-50代のフランス人男性で、テキスト(Édito)をベースに、月火は文法重視(毎回B2以前の文法問題を解かせる)、木金は会話重視(発言しやすい空気を作り、語彙や表現の説明が多い)のスタイルでした。
違いがあると飽きなくて良さそうだけれど、実は、前者は今まで遭遇したことのないタイプの講師でした。

生徒の発言が分かりにくい時に「は?」「何て言ったか分からない」と返す講師を初めて見ました(単に今までが幸運だった可能性も)。言わずもがな、授業開始直後のフリートークでさえ、徐々に発言する生徒は減りました。そして口癖は「C1レベルでは〜(この程度は理解して当然)」。常に「間違えてはいけない」という不安とストレスに晒されます。

更には課題を提出しても戻って来ず、無かったことのようになる時もあり、ますます意欲は減退(事実、後半何度かサボりました。初めて学校をサボる生徒の気持ちを理解した45歳)。極め付けは、期間終了を待たずに突然の辞職。これには皆ビックリ。同様に外国人対象のフランス語講師をしている友人に聞いてみると「他のもっと良い契約があり、期間が重なる場合は(辞職して移ることは)有り得る」とのことでした。日本では考えられない事ですが。

受けたい授業のイメージとは

木金の授業は朗らかな雰囲気で、生徒が自由に質問・発言し、講師も少々の文法や発音の間違いでは止めません(止めるタイミングに困る時もある程)。上手く意味が取れない場合のみ詳しく聞き出し、掘り下げて理解しようとしていました。

この講師の授業を受けて思ったのは、今までのレベルでは自由に発言すること自体がままならなかったけど、今は思いついたことをパッと質問することも可能になって、リラックスした雰囲気の中で、世界各国、様々なバックボーンを持つクラスメイト達の意見を聞きながら学ぶことが出来るって、とても理想的だなということ。読解にしても、文法の説明を聞くのが主だった所から、やっと文章の「中身」について、自分の意見も交えて話し合える所まで来たのだなと。フランス社会や文化を知る為の「入り口」に立てたんだなと感じました。

ちなみに期間の後半、Exposéという発表があり、各自が事前にスライドを準備して、数人ずつ何日間かに分かれて行いました。お題は「自分の国の特徴的で、あまり知られていないこと」。各国の新鮮な話題が溢れていて、これを聞くのがいつも楽しみでした。私が選んだ日本の話題は「花見」。天気予報の桜開花予想なども見せつつ、花見の起源に遡り、日本ではアニミズム的信仰が土着のものとして根付いていることや、諸行無常の思想について、自然災害が酷いことなども引き合いに出して話しました。

語学習得に大切なこと

以前こちらのnoteで知って、とても面白いと思ったのがSteven Krashen教授の言語習得理論。

どの言語も「learn(学習)」ではなく「acquire(習得)」して初めて使えるようになる。この「習得」には、今の自分のレベルで理解できる内容のインプット(Comprehensible Input)が脳の言語習得装置に届かなければならないけれど、その時に、不安・恥ずかしい・間違いたくない・難しすぎる、といった感情(affective filter)があると、浸透の邪魔をする。

こういったAffective Filterが低ければ低いほど、自信とモチベーションを保つことができ、言語を習得しやすい。生徒がよりよく英語を吸収できるように、できる限りAffective Filterを排除することも英語指導者の役割である。

上記noteより

今回の仏語講座での経験は、まさにこの理論の正しさを身をもって証明したようなものだったなと思う訳です。同時に、講座にさえ通えば習得出来る、という思い込みがあったことにも気づきました。自分のモチベーションが大きく作用する以上、漫然と通っていれば講師が引き上げてくれるという他力本願な考え方こそが、遠回りさせるものなのかなと。
グループ授業は中々刺激的でしたが、暫くはまた独学に戻り、自分の興味のある分野を中心に、仏語の勉強を楽しんで行きたいと思っています。

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