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孤独の俳句|金子兜太・又吉直樹

種田山頭火と尾崎放哉のいいとこどりをぎゅっとしたもの。
孤独なのにどこかクスッとしてしまう親近感。
句にまつわる選者の解説も含めてとてもおもしろい。
自由律俳句ならではの切り口と余韻が想像をかき立てる。

つかれて戻る夜の角のいつものポストよ

金子兜太選「山頭火」名句55選

とにかく疲れた。
足を引きずるように歩を進める。
外灯に照らされる陰影の強いいつものポスト。
この角を曲がったらもうすぐだ。
ポストを目印に、あと少し、と踏ん張る。
(ポストがある時代の人だったという驚き)

花火があがる空の方が町だよ

又吉直樹選「放哉」名句55選

人里離れた山に住んでいるのだろう。
遊びに来た友人に「ここは見晴らしがいいんだ」くらいのちょっと誇らしげに教えている光景を思い浮かべた。
しかし又吉の解説に、花火ではなく人々が暮らす町の方角を眺めているという気付きをもらう。
自分の意志で離れたはずなのに完全に断ち切れてはいない、という奥行き。
もし私がその友人だとしたら。
花火ではなく、花火があがる『空』を見ている横顔から、かすかな未練を感じ取れるだろうか。

こんなよい月を一人で見て寝る

又吉直樹選「放哉」名句55選

「今日の月すごい!」とスマホを取り出して家族に写真を送る帰り道。
『こんなよい月』って、誰かと分かち合いたいのだ。
『一人で見て寝る』というリズムがおもしろい。
月の光を堪能したあと、短いため息をちょっとついて、くるっと背中を向けて布団をかぶったのを想像する。
作文のような子供っぽさがおかしい。
「昨日の夜は大きな満月を見て寝ました。」

分け入っても分け入っても青い山

金子兜太選「山頭火」名句55選

一瞬でざっと深い山の中に放り込まれたようだ。
山育ちなので容易に想像ができる。
顔にかかってくる枝やら草やら棘やらを払いながら、早く通り抜けたい一心で歩みを進める。
だいぶ歩いたのに風景は青いまま。
足を止めてまぶしい太陽を見上げる。
とにかくこの先に進む。
無言で突き進むしかないのだ。


付箋の数を数えて、尾崎放哉の句のほうが好みかなと自分では思っていたのだが、最近は種田山頭火をおかわりしている。

日常に俳句をまぎれ込ませることがちょっとだけできてきてうれしい。

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