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哲学とことば、共創と依存でつくるクリエイティブイノベーション

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論の授業の第13回(10月4日)レポートをまとめました。

今回は博報堂 ミライの事業室 室長 吉澤到さんにご講演いただきました。

プロフィール

東京大学文学部社会学専修課程卒業。ロンドン・ビジネス・スクール修士(MSc)。1996年博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクターとして20年以上に渡り国内外の大手企業のマーケティング戦略、ブランディング、ビジョン策定などに従事。その後海外留学、ブランド・イノベーションデザイン局 局長代理を経て、2019年4月、博報堂初の新規事業開発組織「ミライの事業室」室長に就任。クリエイティブグローススタジオ「TEKO」メンバー。著書に「イノベーションデザイン~博報堂流、未来の事業のつくり方」(日経BP社)他

コピーライトのちから

コピーはその本質をすごく端的なことばで示すものであり、個人によって解釈が生まれます。このことばは曖昧さを持っている方が、個人がその意味を考えるきっかけになり、新しい発想を生むことに繋がっていきます。

実際に「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というファーストリテイリングのビジョンについて、柳井さん自らがこのことばが自社の成長の源泉になっているとご講演されたそうで、この事から事業や組織の成長の中心になることばが持つ力を感じられます。

吉澤さんのプロジェクト:あたたかみのある病院

病院はいかにも病棟といった設備で冷たく白い印象の所が多い中、"あたたかみ"を持つホテルのような「HITO病院」のプロジェクトを手掛けました。

「人が真ん中になると、医療が変わる」のことばのもと、ピクトグラムや内装、インテリア等があたたかみのあるデザインに統一されています。

MBAの学びの前提

原点は現代的経営の原点となったフレデリック・テイラーの科学的管理法に基づくものであり、工場の作業工程を細分化し、一つのタスクにかかる時間を標準化し、作業量を「ノルマ」として設定して管理していくことが前提でした。また、計画と執行を分離するために「計画管理部署」と「職能別組織」という組織を考案したものでした。

近年のMBAの捉え方

ケース管理のみでは経営の本質を捉えていく事は難しく、組織行動学やリーダーシップ等のソフトスキルが重視されるようになってきています。VUCAの時代においては従来の経営管理手法ではイノベーションを起こしていく事が難しく、また世代による働き方の捉え方の変遷もその背景にあり、今や経済学やファイナンスの教授よりも心理学者の方が多いと言われます。

経営に必要な算数+心理学+??

経営に必要なものとして、マクロ経済やアカウンティング等の「算数」と組織行動論やモチベーション等の「心理学」に加え、近年ではどう生きるかや価値観などの「哲学」があります。会社組織の運営において、経営者がどうような価値観すなわち「哲学」で経営していく事が求められるようになっています。

「哲学」をどうつくるか?

哲学はその背景に社会課題や人の苦しみがあり、それをどう解決するかを試行錯誤する中で生まれます。よって哲学は時代のコンテクストが重要で、それをふまえた上でどのように振る舞えば良いかを試行錯誤する中で際に様々な哲学に増れ、内省を繰り返す事で生まれるとの事です。

博報堂のイノベーション文化

吉澤さんが所属していたクリエイティブ組織では一人の「天才」がつくるアイデアをもとに提案等を作りあげていた事に対し、現在の新規事業組織において「共創」を重要視している事が特徴的です。そこでは「創造性は誰もが持っている」という前提のもと、それを引き出すことで一人の天才を凌駕する「集合天才」を生み出すことができると考えています。さらに、生活者を共創のプロセスに巻き込むことも始まっています。

生活者発想での解決が、新たなビジネス機会に

コロナ禍でメンタルヘルスや働き方など、様々な社会の"不"が浮き彫りになりました。この解決においても生活者発想を重視していきます。特に行政の絡む課題においては、従来であれば新しい技術を取り入れる等のアプローチがありましたが、最近では市民の声を聞く機会や行政参加の機会を設け、「共創」の促進を大切にされています。

成長の限界とパラダイムシフト

環境資源や人口など、一定の枠の中で繁栄を目指す時代になってきています。この時代においては「市場の独占」による価値の獲得ではなく、「協力と相互依存」による価値の創造が求められています。

感じたこと ---

アート思考と共創の重要性の実感

VUCAの時代や資本主義の成長の限界といった環境下で起こる様々な課題に対しては「単純にこうすれば必ず改善される」という正解がないに等しいと感じます。この時代背景だからこそ、ことばや哲学などの自分ならではの正解を考えるための「アート思考」や、「競争」ではなく「共創」が求められていると講演を通じて改めて実感しました。

参考:「13歳からのアート思考」末永幸歩 著

「アート思考」がビジネスに繋がる実感

私が所属している武蔵美のクリエイティブリーダーシップコースで学ぶまでは、アートやクリエイティブに興味があってもそれ自体を深めることは無く鑑賞するのが中心でした。そんな私ですが、入学してからアートやデザインの考え方に基づいて造形したりそれを構想したりする中で、それらはビジネスにおいて新しい取り組みを発想したり試したりするプロセスと似ている部分があり、実務にも通ずる事が多いと感じています。半年かかってようやく造形とその構想とビジネスの繋がりが自分の言葉で言語化できるようになってきて、これからの造形やプロジェクト、そしてそれらをビジネスと繋げていく事が一層楽しみです。

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