自社米、醪になりまして2
前回はこちらから。
麹づくり
麹は地元産で慣行栽培の夢山水50%を使用しております。なぜ自社米ではないのかというと、自社での米の生産量が足りていないので、麹にまわす分がないから、というのが理由です(実際は足りないこともなかったのですが、あまり少ない量で精米しようとすると米粒が砕けたりするので)。ただ自社米よりも米粒が均一なので、質としても現時点では麹づくりには向いているのかなと思います。
今年は酛麹以外は3日かけて麹を育てています(酛麹は2日)。昨年よりも三日麹の使用割合が高いです。2回に分けてつくりまして、1回目は通常よりも高温経過で育て、2回目はバランスを整えるために通常経過で育てました。
〜ちょっと小難しい話〜
麹づくりに3日かける、個人的に感じるメリットとしては、麹菌がより米の深いところへ生育を誘導することができるので、より優秀な突きハゼ麹ができることだと思います。この方法であれば麹菌を中心に誘導しづらい飯米(ご飯用のお米)や心白(酒米の特徴で、米粒の中心のデンプン組織が過疎にしか詰まっていない部分)の発現率が低い品種、つまり物性的に硬い米でもしっかり麹菌を育てることが出来るのではと思っています(むしろ2日だけでは、私ではなかなか難しい)。
夢山水という米は後者の心白発現率が低い米にあたり(良くても30%ほど)、加えて特に今年は登熟期の気温が高かったためか、例年よりも硬い米になっていました。この状況で通常通りの時間や乾燥具合で麹をつくってしまうとハゼ込み不足になり、高グルコ菌を使用してもグルコアミラーゼ力価があまり高くなさそうな麹になってしまいました(酛麹ごめん)。一方で三日麹はハゼ込みも理想的で、特に高温経過させた方は高グルコ菌でなくてもしっかりと力価が出ていそうな物に仕上がりました(後々分析して数値を確認してみます)。乾燥のコントロールに頭を悩ませますが、飯米でも良い麹、ひいては良いお酒ができる手法かもしれないので、その可能性にワクワクしています。大変だけど。
酛づくり
今年も昨年同様生酛造りで酵母を育てました。生酛造りは米、米麹、水だけを混ぜた空間で生じる硝酸還元菌や乳酸菌、酵母の生存戦略を利用した、いわば国取り合戦のようなことを起こさせて、雑菌のいない酵母だけの世界を創造する手法です。乳酸菌は自然にやってくるのを待ち、酵母は7号系のものを添加して育てました(余談ですが、酵母だけの世界の行き着く先は、自分の出したアルコールの海に呑まれて酵母は全滅し、どんな菌も繁殖できない死の大地が広がることでしょう。酒に溺れるとはまさにこのこと。盛者必衰)。
先ほど麹のくだりでちょっと述べましたが、酛麹の力が少々弱かったようで、今年の硬めの米はなかなか溶けてくれなかったので、かなり酛担当の方の労力を費やしてもらいました(暖気入れという操作が多かったということ。なかなかに重労働)。さらに今年はなかなか乳酸菌軍勢の戦力が整うまでに時間がかかってしまい(亜硝酸がなぜかダラダラ残ってしまったからか?)、酛が育ち切るまでに39日かかることとなりました(昨年の生酛は33日。ちなみに乳酸菌軍勢が整うまでの過程をすっ飛ばした手法の、だいたいのお酒造りで使われている『速醸酛』という手法は、長くても2週間でできてしまう)。
いくら大変でも、この手法だけは外すことができない。なぜなら美味いから。
醪
11月30日に麹、酛、自社米やらが合わさり、最初の準備をはじめて49日目にして、ようやく醪ができました。
実はこの記事を書いている時は、既に醪の後半戦に突入しており、最高品温11.0℃から徐々に品温を落としてお酒の出来を整える段階にきております。現時点では香りも申し分ない状態ですので、みなさま期待してお待ち下さい。
おしまい。