安西徹雄 『英文翻訳術』

★★★★☆

 1995年にちくま学芸文庫から出た本書は2016年時点で第25刷発行とロングセラーです。前回の『英文の読み方』以上に長く読み継がれていますね(なんと20年以上!)。

 章ごとに英文を日本語に直す(つまり翻訳する)上で引っかかるところを挙げて、その対処法を指南するという構成になっている本書。一文からまとまった分量の文章まで、様々な長さの英文で演習ができます。その点では実にテクニカルな内容といえます。

 例文としてそれほどむずかしい英文が採用されているわけではありませんが、やはり最低限の文法知識は必要でしょう。その点でも、英文和訳から英文翻訳へランクアップしたい人向けだと思います。

 たとえば、名詞を動詞や副詞として訳すといった、品詞を変えるテクニックは実に有効です。日本語と比べると、英語は名詞表現が多いので、品詞にこだわると生硬な訳文から抜け出せなかったりします。意味の総体を捉えて置き換える、というのが翻訳の基本ですが、品詞などの形にこだわりすぎると行き詰まることも多々あるでしょうね。

 正直いうと、読み始めはなんとなく肌に合わないなと僕は感じました。本書の内容がいくぶんマニュアルっぽいためだと思います。訳例が好みではなかったりするのもあります(読みやすくわかりやすいのだけど、ちょっと整理しすぎな気がしました)。

 ですが、最後まで読むと、意図があってのことだとわかりました。あくまで技術に特化した内容なので、これが翻訳のすべてではないということです。
 ここで身につけた技術を用いて、どのような訳文をつくり出すかは当人次第です。一番大切な部分は教わることはできません。自分で身につけるしかないのです。

 自分の訳文をつくりあげるための基礎的なステップとしての一冊として読むと、実に有意義だと思います。

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