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ぼくの2020 -平凡な非日常を振り返る-  言語と文化の旅 編

三月の第一週目、ぼくはモントリオールにいた。

モントリオールはカナダのフランス語圏、ケベック州に位置する都市で、例に漏れず”北米のパリ”とか言われちゃっている文化都市だ。それだけでヨーロッパ大好き人間にとって魅力的な都市なのだが、加えて多くアーティストを世界に輩出しているなんとも素敵な所である。
音楽分野ではArcade FireやBroken Social Scene、前回話したWolf Parade等、そして映画分野でもグザヴィエ・ドランやジャン=マルク・ヴァレなど。
ぼくにとって完全に"ど"ストライクなアーティスト達がどんな環境で生まれたのかにずっと興味があった。

モントリオールにて
そういうわけで語学学校の休暇を使い、1週間の旅に出た。

自慢ではないがお金のないぼくは、今回の旅を全て高速バスで行った。トロントを深夜に出て、翌朝7時頃モントリオールの駅前に到着。カナダの3月はまだ寒い。
予約したドミトリーのチェックインは午後。トロントよりも5°近く寒い見知らぬ地で一人、重いバックパックを背負って、近くのティム・ホートンに逃げ込んだ。

なるほど、確かにモントリオールはヨーロッパの街並みだ。残念ながら、フランスにはリヨンしか行ったことがなかったので、パリとの比較はできなかったが、心なしかヨーロッパの匂いがする。

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さて、モントリオールには5日近く滞在したのだが、それを話すとよく「そんなにモントリオールいて何してたの?」と言われる。
確かにツアーとかで行くと、モントリオールとケベックシティで2日ずつとか、場合によってはオタワとかも付いてきて、モントリオールの滞在が1日くらいのこともあったりする。
しかし、ぼくに言わせると正直5日でも足りなかったくらいだ。
美術館だけでも、モントリオール美術館モントリオール現代美術館があるし、それに加えてカナダ建築センターモントリオールジャズフェス会館とかあったりする。それだけでも丸2日かかった。たぶん見逃した文化施設もまだいっぱいあったと思う。
さらに、前述した通りぼくにとってこの街は、アートが生まれる街だ。昼間は若者のカルチャーの中心地マイルエンドに行ってギャラリーやCDショップを回り、夜はジャズバーに通うと贅沢な滞在をしていたら、あっという間に5日間は過ぎてしまった。
幸い、ドミトリーが旧市街だったので、ノートルダム大聖堂や旧市街観光にはあまり時間を割かなくて良かったのでなんとか5日で足りたくらいだ。

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旅の目的地
だが、実は旅の目的地はここモントリオールではない。モントリオールから南下して、国境を越えた先にあるアメリカのバーモント州だった。

バーモント州には、仲の良い親戚の知人であるティムが住んでいた。その親戚を通して彼の話をよく耳にしていたので、お互い人柄はよく知っていたが、実際に会うのは今回が初めてだった。

バーモント州バーリントンまでももちろんバス。人生二度目の陸路での国境越えはいろいろあったが、なんとかバーリントンまで辿り着いた。待ち合わせまでは少し時間かあったため、バーリントンの街を少し観光することにした。

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バーリントンの街はとてもこぢんまりとしていて、それでいてとても豊かに感じた。大自然に囲まれていて、時間の流れがとてもゆったりしている。
また、今までの都市に比べて大きくないからだろうか、トロントやモントリオールと違って、アジア系の人はほぼ皆無。モントリオールで、流暢なフランス語と英語を前に自身の語学不足を痛感したぼくは、周りの視線とこれから3日間過ごす知人との初対面に緊張していた。

実際、ティムはとてもフレンドリーだった。そして、思慮深さも合わせ持っていた。
彼は日本に住んでいたため、とても日本語も流暢に話す。自分が過剰に緊張してしまっていただけかもしれないが、彼の案内による3日間の滞在はとてもリラックスしたもので、豊かな自然に囲まれた生活を楽しんだ。初体験のスキーとヨガ。そして、街の教会での食事や彼の会社のパーティーなどを通じてたくさんの"アメリカの人"と知り合った。彼らは皆、異国から来たぼくにも優しく、他人に対して"寛容"だった。テレビで差別のニュースが横行している場所とは、真逆の国のように感じた。

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3日間の最後に、友人としてコミュニケーションで多くのサポートをしてくれた彼にお礼を言ったら、「君の英語はぼくの日本語よりずっと上手いね。」と言ってくれた。

それに続けて、「英語は世界で一番奇妙な言葉だ。」と。
「英語は確かに世界中で話されているけど、みんなが言う”ちゃんと”した英語を話している人はほとんどいない。だから、ぼくだって、英語はわからないし、ぼくの英語がわからない人もいるかもしれない。みんな自分たちの言葉で話してるからね。」

2ヶ月経って、また、この旅を通して語学の壁を痛感したぼくは「こんなに不思議な言葉を学んでいるんだな」と肩の力が抜けた。
そして、今ぼくが学びたいのは"語学"でなく"コミュニケーション"なんだと。



三月の旅の一枚

Bonny Light Horseman『Bonny Light Horseman』

時間はいつも"今"の中にある

旅と音楽が大好きなぼくは、旅先での出会った人に好きな音楽を聴くのが習慣となっていた。友人やレコードショップの店員。これをはじめたきっかけはもう覚えていない。
モントリオールでも3つのレコードショップで地元のアーティストを中心に教えてもらい、プレイリストに追加した。その中にはお気に入りも多くあるが、今回はアメリカの友人ティムが教えてくれたBonny Light Horsemanをピックアップしたい。そして、このアルバムは個人的に2020年のTOP5に入るほどに好きなアルバムとなった。

ティムの家にはレコードがあった。夜になると、レコードに針を落とし、グリーンティーを飲みながらゆっくりする。小さな街は真っ暗になり、外はまだ寒いので虫の鳴き声もしない。静かな夜の贅沢な時間。そんな夜に教えてくれたのがこのBonny Light Horseman『Bonny Light Horseman』だった。

このアルバムは、時間の流れを感じさせる。それもそのはず、アルバム全編通して古いフォークソングのアレンジだ。アレンジといっても、決して原曲から離れているわけではなく、リスペクトが感じられ、それでいて彼ら自身の曲になっている。それは、間違いなく"今”を歌った歌だ。

帰りのバスの中。モントリオールとバーモント州の旅行を振り返りながら、このアルバムを繰り返し聴く。
「そういえばこの滞在でぼくは一度も時計を見なかったな。」
気づけば、最初の日から時計をするのを忘れていた。それだけ自然のままに過ごしたのだろう。
一年のカナダ生活の中のほんの1週間の旅。でも、心に残る旅になった。
久しぶりにティムに電話してみようと思う。

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