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【コラムエッセイ】儚い夏

また還暦前の若い俳優さんが亡くなった。
急性心不全。突然のお別れであった。
その俳優さんの名前をYahooニュースで目にしても正直お顔が浮かんでこなかったのですぐに検索してお写真を拝見。
あ!あの映画の人だ!
紐がするするすると記憶のいくつもの穴に吸い込まれていく。
「運命じゃない人」という映画では主演をされていて確かに僕はこの作品を観ていた。いい意味で派手じゃなく、といっても地味でもない不思議な存在感を放つ俳優さんだった。
ここまで言及しておきながら、あえてその方の名前は書かない。気になった方は調べていただきたい。でなければこの稀有な存在感が伝わらないと思うからである。

この訃報をつい数時間前に知ったのだが、その直前まで考えていたこととが奇しくも重なった。
夏の祭りの縁日の、神社の境内の屋台の一本道を真っ直ぐ行けば、ずっとずっと続いているようで、果てしなくどこまでも終わらないようで、一体どこまで続いているのだろうと、もしかしたらこの道はあの世に続いているのではと妙な想像をしていた。
ドンドコピーヒャラと祭りをいろどる太鼓や笛の音は表面的には明るく楽しげだが、どこか厳かで神格化しているような気がしてなんだか不気味でもあった。
このままあの世に連れて行かれるんじゃないかと結びつけてしまうくらいに。
狐のお面も狛犬も膨らむ綿菓子も浅いビニールプールで泳ぐ金魚も真っ赤にてかったりんご飴もどこかこの世から少し離れた世界の場面に見えてしまう。
夏は一年で一番「死」に近い季節なんじゃないか。
もちろん冬は草木も生えず寒くて生き物の命を奪う季節だとも思うが活気に満ちた生命が儚くぷつりとある日突然消えてなくなる「死」はやはり夏なのである。
花火が盛大に打ち上がり、線香花火がジュッと水に落ちる。昼の暑さも日が暮れて涼しい夜風がどこか気だるくもあり息を吹き返すめりはりを日々繰り返す夏。蝉は一週間ほど精一杯鳴いてポトリと落ちて死ぬ。アスファルトにひっくり返った蝉の亡骸。群がる蟻。

儚さとは怖いものである。
儚さとは残酷なものである。
人の夢は命。短い夏のような短い一生。
夏はやはり儚い。
そして人の命も儚い。

ある俳優さんの訃報がまた儚さを残していった。
夏はこれからなのだ。








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