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山羊アキミチ
2023年5月26日 16:54
辺り一面に群生していたれんげ草に身を沈めて雲を眺めていた私は高揚していた。漂う甘い春の香りに色がついて見えた。剥き出しの潤った舌の色。後を追いかけてやって来たのは味わいを溢さない小さな突起の集合体。触れずともざらついているのがわかった。私は酔いしれる方を選んだ。粘液が桃の果汁のとろみで果肉を守る皮の産毛は指で剥いた。あの湾曲した桃の形。私は人差し指で頬をなぞってみた。そして深
2023年5月18日 19:58
気嵐になりたかった魂たち。山代の湯けむり彷徨う霜月の夜明け。大衆演劇一座の幕が降りると舞台の天井からはらりとこぼれた紙吹雪が宴会座敷の色褪せた畳に落ちた。あれは何色だったろう。椿の生き様よ。あまりにも生き急いだあの娘の名前も同じ椿だった。日中の椿は厠の手前の日の当たらない奥座敷に飾られていた市松人形だった。無邪気なこどもに乱暴に髪を掴まれ振り回されたり、鼻息を荒らげた中年男性に