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光とその周辺

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主にエッセイ、レビュー、日記。
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#エッセイ

雑居ビルを眺めながら 10

海辺の街で大きな雑居ビルは見当たらなかった。おそらく自分が見落としていただけなのだが、商…

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雑居ビルを眺めながら 9

ビルとビルの隙間を覗くと、その先に金網のフェンスはあって、蔦が絡まっている。旺盛に伸びる…

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205号室に暮らした 春編

#時は過ぎて 引っ越しを決めたのは家が傾いたからだった。何だか当然のように書いてしまった…

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205号室に暮らした 春編

#大陸の風 鶴田さんがいなくなってしばらくして、中国からの留学生らしき人が引っ越してきた…

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205号室に暮らした 春編

#鶴田さん 一階に住むその人をなぜ鶴田さんなのか知っているかというと、玄関に名前が掲げら…

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雑居ビルを眺めながら 8

窓の外に煤けたビルがある。多くが空き部屋なのか、人の気配はない。午後の光が部屋の奥を照ら…

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205号室に暮らした

#テレビ 朝起きて、カーテンを開けるとベランダの柵に脚立が掛かっていて、大家が上ってきた。そんなことがあった。嘘だと思うだろうが、本当の話だ。普通なら事前に連絡があって、紙切れの一枚でもポストに投函されていようものだが、全くの突然である。いや、連絡を忘れたとしても、上る前にひと声かけてくれれば済む話である。だが、大家は突然上ってきた。70歳は越えているだろうに、よぼよぼの足で屋根へと上っていく。何をしに来たのか、どうやらアンテナを直しに来たらしいのだ。 一週間前、テレビが

205号室に暮らした

#水 アパートの向かいには小さな食堂があって、いつも大学生でにぎわっていた。バイパス沿い…

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205号室に暮らした

#イノセントワールド ある晩のことだ。眠っていると突然、ドン、と響く音がして咄嗟に地震か…

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雑居ビルを眺めながら 7

昔、街中の商業ビルで働いたことがある。閑散という言葉を知らない、今ほどオンラインも充実し…

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雑居ビルを眺めながら 6

空いている席に腰掛けると、全面ガラス張りの窓の向こうを眺める。目はしばらくビルとビルの間…

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雑居ビルを眺めながら 5

いつかまたそこへ行こう、と思って久しく行かない。そんなこと、一回や二回じゃない。たまたま…

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雑居ビルを眺めながら 4

平松洋子さんの『味なメニュー』(新潮社) を読んでいたら、「ニュー新橋ビル」なるビルに遭遇…

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雑居ビルを眺めながら 3

「雑居ビルを眺めながら」とタイトルを打っておきながら、前回はビルの中へ入ってしまったのだけれど、昨年は眺める機会すらなくて、ひたすらPCの画面越しに知らない景色を眺めていた。 自分が捉えたものは一過性に過ぎなくて、それはきっといつも変わらないことのはずなのに、改めてその事実を突きつけられると足元が揺らぐ。日々も習慣もずっと続くものではなく、捉えたと思った瞬間すらもう過去のものになってしまう。書かれた言葉もたった今発せられた言葉も、次の瞬間には遺物だ。では、今ここに在るとはど