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【短編】 リコーダー革命

 女子のリコーダーをこっそり舐めることが、男子の間で流行っていた。
「だって、好きな女子が咥えたところを舐めるんだぜ。何だかドキドキするだろ」
 じゃあ好きじゃない女子のリコーダーには、ドキドキしないのか。
「まあ、女子のリコーダーってだけで、何だかモヤモヤするけど」
 ドキドキとかモヤモヤとか、僕にはよく分からない。
「そっか。俺たちまだ小学生だし、この気持ちが何なのか、俺にもよく分からないよ」
 学校の帰り道に、親友のトモハルとそんな話をしながら、僕は、彼が少し遠くへ行ってしまったような寂しい気持ちになった。
 
 女子のリコーダーを舐める件は、クラスでも大きな問題になり、何人かの男子が容疑を認めた。
「自分のリコーダーを、誰かが舐めたりしたら嫌でしょ」
 ホームルームの時間、担任のミヨリ先生は、深呼吸をしたあとにそう言った。
「先生も小学校五年生のときに同じことがあって、三日ぐらいは学校へ行けなかったわ。でも一番ショックだったのは、自分の好きだった男子が……」
 ミヨリ先生は目を閉じて、涙をぬぐった。
「そんな馬鹿なことをするより、彼は一言、私に好きだと言ってくれればよかったのよ。その勇気がないから、男子はリコーダーを舐めたりして……」
 
 僕はミヨリ先生や、親友のトモハルが言ったことを、一秒も眠らず一晩中考えた。
 
「ミヨリ先生、僕は先生が好きです」
 次の日、徹夜して頭が変になった僕は、ホームルームのときにそう告白をした。
「親友のトモハルも好きですが、それとは違う好きです。親友のトモハルのリコーダーは舐めたいとは思いませんが、ミヨリ先生のリコーダーは舐めたいです」
 クラスの皆はフリーズしていたが、親友のトモハルだけは僕を見て、親指を立てた。
「と、とにかく今は授業に集中しましょう。君の話は放課後に聞くから」
 僕はその後、強烈な眠気に襲われて、教室でそのまま眠ってしまった。
 
 目を覚ますと、親友のトモハルとミヨリ先生がいて、一本のリコーダーを手渡された。
 楽譜が目の前に置かれて、僕がリコーダーを演奏すると二人はダンスを始めた。
「実は俺、十年後にミヨリ先生と結婚することになっているんだ」
 親友のトモハルはそう言うと、ミヨリ先生の顔を引き寄せて口づけをした。
「言い忘れていたけど、これはお前の夢の中で、現実の俺は結婚のことなんて知らない。お前の初恋をぶち壊しちゃったけど、俺たちはいつまでも親友でいような」

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