見出し画像

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」1-4

インデックスページ
連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

PREV STORY
第1レース 第3組 楽しくいこーぜ、何事も

第1レース 第4組 いつもの景色

 始業式。桜の季節。クラス替え。
 他の生徒と同じように、張り出されたクラス表を見上げて、自分の名前を探す。
「3-C」
 自分の名前を見つけてクラスを確認し終わったので、ひよりはさっさと踵を返して、教室に向かおうとした。その時――。
「しゅんぺー、どうやら同じクラスみたいだなぁ」
 そんな声が近くでして、ついついそちらを見た。
 1年のころから気になっている人の名前だったからだ。
「Cか。腐れ縁もここまで来ると本物だな」
 細原和斗の言葉に悪態をつくように谷川俊平が返して、白い歯を見せて笑っていた。
 こだわりを感じるツンツン頭。背は和斗よりも低いが、がっしりした体つき。
 始業式だからか普段より学ランの着こなしがルーズではなかった。左手には松葉杖を握っている。
 3月に足を怪我をしてから2週間ほど入院していたようだったからそのためだろうか。
「内心ほっとしてるくせに」
「はぁ?」
「全く、お前のお守り任されるほうも大変なんだからな」
 ふざけるように笑いながらそう言うと、和斗がバッグを持ち直して、「いこーぜ」と俊平を促した。
「おまえ、それ、どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だよ」
 ひよりの目の前を2人が通り過ぎてゆく。
 楽しそうに話している横顔に目を奪われる。
 よかった、春休み前に見かけた時よりは元気そうだ。
 そんなことを考えていたら、後ろから声を掛けられた。
「ひーより! おっはよ!」
「綾ちゃん、おはよー」
 すぐに振り返って微笑みを返す。
 バスケ部所属だけあって女子の中では高めの身長。綺麗な長い黒髪は天然パーマ。切れ長の目と長いまつげがアクセントになった整った顔。スタイルも良くて、性格も良い。ひよりの自慢の親友だ。
「何組だった?」
「Cだったよ」
「あ、一緒じゃん。最後の1年よろしくね」
 屈託なく笑いながらそう言い、ひよりを促すように背中を押してきた。
 ひよりはカーディガンの裾の位置を直し、合わせるように足を踏み出そうと思ったが、そこで先程の俊平の言葉が過ぎった。
『Cか。腐れ縁もここまで来ると本物だな』
 クラス表を見返す。『谷川 俊平』の字は、3年C組にあった。
 少しだけ鼓動が速くなった気がした。
「ひより、どうかした?」
 不思議そうな綾の声。すぐに首を横に振って、綾を追いかけるように歩き出す。
 綾がその様子を眩しそうに目を細めて笑った。
「どうしたの?」
「ん? なんか、ひよりが嬉しそうだったから、嬉しくなっただけ」
「え?」
「朝から良いことでもあったの?」
 その問いに一瞬考えたが、すぐにごまかすように笑った。
「綾ちゃんと同じクラスなのが嬉しかっただけだよ」
 その言葉に綾が目をぱちくりさせ、照れたように視線を逸らした。
「まぁ、確かに中学以来だもんね」
「ふふ。わたし、友達少ないから、綾ちゃんと同じクラスでほっとしちゃった」
「ひよりは引っ込み思案だからなぁ」
 同じクラス。そっか。同じクラスなんだ。
 だからって、何かが変わるわけではないけれど。
 同じクラスなんだ。
 かみしめるように何度もその言葉を心の中で繰り返した。

::::::::::::::::::::::::

 4月中旬。清々しく晴れ。学校の校庭の隅に1本だけ植えられている八重桜が綺麗な時期。
 窓際、後ろから2番目の席。彼はいつも頬杖をついて、退屈そうに窓の外を眺めている。
 廊下側1番後ろの席に座っているひよりからは、俊平の顔はほとんど見えなかった。
 いつも見えるのは、ガッシリした肩と短く刈り上げられたうなじ。頼もしい首筋。ツンツンの髪の毛。男らしい骨ばった手。学ランなのも構わず腕まくりしているために覗いている、よく鍛えられた上腕。
 そのどれもが、ひよりにとってはとても美しく見えた。
「谷川~、お前、ちゃんと聞いてるか~?」
「……うぃーす」
 今は英語の授業中。ほとんどの教師が、彼を名指ししない中、この教師だけはいつでも容赦なく彼に注意する。
 名指しされて彼がかったるそうに(実際、彼は今松葉杖を使っているので、かったるいとかではなく、動きがぎこちないだけなのだが)立ち上がる。
 久々に、彼の横顔が見えた。
 ……やっぱり、つまらなそうな顔をしている。
「すみません、聞いてませんでした~」
「お前なぁ……今年受験だぞ? わかってんのか? お前は学力で受験しなきゃいかんのだ。2年までとは違うんだから、もう少ししゃんとしなさい。わかんないとこあれば、なんでも答えてやるから。あー、じゃ、水谷」
「ふぇーい」
 彼はなんとも思わないように生返事をして着席する。
 その代わりに自分が名指しされて、ひよりは慌てて立ち上がった。
「はい」
「今、私が読んだところ、訳して」
 英語教師は穏やかにそう言うと、信頼の眼差しをこちらに向けてくる。
 目立たないが、品行方正で学業優秀。それがひよりにつけられた教師……だけでなく、周囲からのイメージだった。
 だが、彼に見惚れていて、うっかり話を聞いていなかった。
 やってしまった。背中を冷や汗が伝う。
「すみません、どこから……」
「あ、山ちゃん、オレ、今日珍しく予習してきたんだよ。訳ならまかして」
「山ちゃんと呼ぶな……! ……じゃ、谷川。水谷、すまんが、谷川の次から」
「……あ、は、はい」
 彼がゆっくりと立ち上がって、でもやっぱりつまらなそうな目で手に持った教科書を見つめる。
 運動部仕込みのお腹から出た良い声で彼は訳した文章を読み上げていく。
 ひよりは座り損ねて立ったまま彼の声を聞いた。
 今クラスメイトの中で立っているのは自分と彼だけ。
 そう考えたら顔が紅潮するのではないかと思うほど、体が熱くなってきた。
「……だったのだ」
「うん。やればできるじゃないか、谷川」
「まぁね~」
「……口の利き方」
「すみません」
「じゃ、次、水谷」
 ガタガタと着席する音が窓側から聞こえてくる。
 彼がいつもどおりの姿勢に戻ったので、ひよりからの景色はいつもどおりになった。
「水谷?」
「あ、はい。エドワードは……」
 ひよりは気を取り直して英文に目を通し、その場でさらさらと訳していく。
 受験の年で、進学クラスだからだろうか。
 教室は2年までと少しだけ空気が違っていて、なんとなく、居心地の悪さを覚えるような……そんな空気があった。

NEXT STORY
第1レース 第5組 アタシのたいせつなものたち


感想等お聞かせいただけたら嬉しいです。
↓ 読んだよの足跡残しにもご活用ください。 ↓ 
WEB拍手
感想用メールフォーム
 ※感想用メールフォームはMAIL、お名前未入力でも送れます。

もしよければ、俊平にスポドリ奢ってあげてください(^-^)