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青春小説「STAR LIGHT DASH!!」1-3

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」


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第1レース 第2組 ひび割れた心の立て直し方

第1レース 第3組 楽しくいこーぜ、何事も

「どういう風の吹き回しだよ」
 弁当を食べながら、単語帳を捲っていた和斗が意外そうな声を返してきた。
 休み時間の教室はガヤガヤと騒がしい。
 俊平もパンを頬張りながら、その返しにすぐ返す。
「ふんははいっへ、はんふぁやふほき」
「何言ってるかわからん。飲み込んでから喋れ」
 すかさず、和斗がチョップで応戦してくるので、牛乳で飲み下してから同じことを言う。
「文化祭って、何かやりたいってなったら、どうすりゃいいの?」
「何かって、何をやるの?」
「それはこれから考えるけど」
「相変わらず、計画性ねーなー」
「昨日思いついたからな」
「なんでまた……、まぁいいか」
 単語帳を閉じて、眼鏡を直すと和斗は嬉しそうに微笑んだ。
「規模によって色々あるよ。部活単位で参加する、クラス単位で参加する、有志数人で参加する、1人で何かやる」
「……3年は自由参加だったよな?」
「そだな。だから、クラス単位で参加する、は割と難しいと思うぞ」
「クラス企画でやりたい奴だけ参加する、はあるのか?」
「んー。一昨年はそういうクラスはなかったけど……、それなりの人数が集まるならできなくはないんじゃないか?」
 和斗のその言葉に、俊平は目を細めた。
 進学クラスなので、基本的に催し事に前向きじゃないクラスメイトたちであることは知っていた。
「しゅんぺーの場合、部活単位は無理だよな。やりたいことに合わせて規模を考慮するって方法もあるけど、規模に合わせてやりたいことを決めるってのも、まぁひとつの手段だよ。ただ、説得するにはやりたいことが、しっかりしていないと難しいけどな」
「うん……」
「何かやりたいってだけなんだな、まじで」
「悪いかよ」
「いや? んー……そうだなぁ。こういう時は、将を射んとする者はまず馬を射よってな」
「へ?」
「瀬能さん!」
 言わんとしていることがわからずにあほな顔で和斗を見たら、颯爽と和斗が瀬能の名前を呼んだ。
 どこに行っていたのか、教室にちょうど入ってきた水谷と瀬能の姿。それをすかさず捕まえる和斗。
 今日は蒸し暑いからか、昨日髪を下ろしていた瀬能も、今日はハーフアップにしていた。
 瀬能が不思議そうにこちらを見ている。和斗がそれに対して、笑顔で手をひらひらと振ってみせる。
 クラスメイト達もそれに視線を寄こすので、恥ずかしくなったのか、瀬能が水谷にランチバッグを預けてこちらまでやってきた。
「なに?」
 そんなにこそこそ声で言ってこなくても。
「細原さぁ、あんた目立つんだからやめてよね」
「ミス藤波に言われたくないよー」
「1年の時の話でしょ!」
「みすふじなみ?」
「文化祭であるんだよ、そういう催しが」
「谷川、わからないならわからなくていいから」
「あ、はい」
 美人にすごまれて目をぱちぱちさせるだけの俊平。
 和斗はそれをにこにこしながら見守っていたが、すぐに用件に入った。
「瀬能さん、文化祭って何かやりたいことある?」
「は?」
「いやー、こいつがさ、何かやりたいんだって」
「何かって?」
「それはこれから考えるって」
 和斗の言葉に、瀬能が不思議そうに目を細め、俊平を見てくる。
「おれ、生徒会なんで、そういうのあんまり肩持ってやれないんだよね。クラス委員長、何か妙案ありません?」
「あー、そういうこと」
「察しが早くて助かります」
「まぁ、アタシはやろうかなって思ってることあるけど」
「ほぅ。それはクラス単位で?」
「いや、部活単位」
「あれ? バスケ部だよね?」
「違う違う。料理同好会のほう」
 くいくいっと水谷のほうを指し示しながら笑顔で返してくる瀬能。
 自分の話をしていると思ったのか、自席で遠巻きに眺めていたらしき水谷が不思議そうに首を傾げた。
「あー……なるほど」
「1年合わせて3人しかいないからさぁ、人手が足りないんだ。友達にも声かけて、カフェみたいなのをやりたいねって話してたの」
「カフェはだいぶ人数が必要じゃない?」
「……そうなんだけどねぇ。最後じゃん? あの子にちゃんとした文化祭過ごさせてあげたくて」
「1年の時は?」
「まぁ、規模的には似たようなもんよ。確か、クッキー作って販売してたんじゃなかったかな」
 クッキー……?
 何かが引っかかって俊平は首を傾げたが、思い出せなかったのですぐに元の姿勢に戻った。
「あー。じゃ、部活単位かつ有志のメンバーってことかな?」
「そうなるわね。このクラス、説得できるとはアタシも思ってないからさ」
 悩ましげに目を細めて、教室内を見回す瀬能。
 和斗は考えるように天井を見上げていたが、少ししてから俊平に視線を寄越した。
「らしいけど、俊平どうよ」
「文化のぶの字とも縁のないオレとしては、面白そうだなと思った」
「え、本気で手伝ってくれるつもりでいるわけ?」
 意外そうに目を丸くする瀬能。
 計画性のない自分が何もないところから何かを作り出すのは無理に等しい。
 それであれば、ある程度企画骨子のあるところに混ぜてもらうほうが確実だ。
 和斗の言わんとしていることがなんとなくわかった。
「メニュー周りは料理同好会監修だから信頼度高いよね。きっと家庭科室も使えるだろうし」
「そうそう。そこは先生にも話して調整は取れそうなのよね」
「強い」
「やるからにはぬかりはないわ」
「絶望的に足りていないのは人手?」
「そうねぇ……」
 和斗の言葉に遠い目になる瀬能。
 その表情がおかしかったのか、和斗がくくっと笑った。
「なに?」
「瀬能さんでもそんなに困ることあるんだなって思っただけさ」
「なにそれ。面白がってないで、そっちも知恵貸してよね、参加してくれる気があるなら」
「……まぁ、人脈は持ってるから検討はするよ」
 和斗はカシカシ首の後ろを掻きながらそう答え、俊平を指差してみせる。
「こいつ、体力だけはあるから上手く使ってやってよ」
 瀬能の視線がこちらに向く。値踏みするような視線。俊平がにへらっと笑い返すと、笑みひとつ作らずに和斗に視線を戻した。
 一昨日はそんなに感じなかったけど、嫌われている気がするのは気のせいだろうか。
「女子ばっかだから確かに助かるかな。ねぇ、細原。細原も手伝ってよね?」
「え?」
「細原がいれば、間違いなくお客さん来るし」
「おれ、生徒会長なんだけど」
「ええ、でも、学生の一員でしょ?」
 試すように瀬能が言い、和斗のことを真っ直ぐ見つめる。
 和斗も負けじと瀬能のことを見上げていたが、珍しいことに先に視線を逸らす。
 こういう時でも人を喰ったように笑っているのが常の男なのに。
「仕方ないな。ダチの介護をお願いしてるんだもんね。わかりました」
「ちょいまて、介護ってなんだよ!」
「そりゃ、そんなに話したことない男子を、女子だけのとこに混ぜろって言われてるんだからそうなるでしょー」
「瀬能、結構言うね?」
「ええ、アタシ、基本的に誰にでも遠慮はしないほうだから。……ただでさえ」
 瀬能は何か言いかけたがそこで言葉を切った。
「細原、谷川、連絡先教えてもらっていい?」
 瀬能が周囲を少し気にしながらスマホを取り出してひょいひょいと指で操作する。
 2人もポケットからスマホを取り出して、RINEのコードを表示した状態で差し出す。
 それを慣れた手つきで瀬能が撮影し、すぐにフレンド追加の表示が出てきた。
 ブルッとスマホが震える。
『これ、アタシ。よろしく♪』
 2人宛で送られてきて、その後、タヌキがお辞儀しているスタンプが続いた。
 サバサバした瀬能には不釣り合いなほどゆるゆるのそのタヌキのイラストに、俊平はクスリと笑う。
「タヌキ好きなの?」
 素直に尋ねると、瀬能は少し照れくさそうに視線を逸らした。
「弟がね。じゃ、そのうち連絡する」
 素っ気ない口調でそう言うと、手を軽くこちらに振ってみせて、水谷の席まで器用に人を避けながら戻っていった。
「思わぬ収穫」
「ん?」
「やー、だって、瀬能さんが連絡先教えてくれるって」
 若干感動したように口元を覆う和斗。どうした親友。モテモテのお前がこんなことで。内心浮かんだツッコミはかき消す。
「そんなに瀬能、ガード堅いの?」
「ガードとか言うなよ」
「や、そうは見えねーなぁって思っただけ」
「話しやすいけど、素が見えないんだよね、彼女」
「え」
「ん?」
「お前が言う?」
 俊平の言葉に意味が分からなそうに和斗がきょとんとしてみせる。
「小芝居いらねーぞ?」
「さてさて、何のことやら」
 俊平の言葉をかわすようにニコニコ笑い、弁当に意識を戻す。ので、仕方なく、俊平も食べかけのパンを掴んで食べるのを再開した。
 文化祭で何かやったところで何になるんだろう。
 そんな疑問はまだ自分の中にあった。けれど、怪我してからしばらく忘れていた”何かへの好奇心”が、舞先生の言葉で少しだけ芽生えた気がしたのだ。
 夕暮れの河川敷。夏の暑さに少しだけ川べりの風が涼しくて。
 ちょっとしたことだ。
 けれど、その口車に乗ってもいいのかなと思った自分もいたのだ。
 だって、このまま卒業しても、自分はこの高校3年間を笑顔で振り返ることができないと思うから。

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第1レース 第4組 いつもの景色


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もしよければ、俊平にスポドリ奢ってあげてください(^-^)