見出し画像

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」5-12

インデックスページ
連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

PREV STORY
第5レース 第11組 描いた星図のその先は

第5レース 第12組 委員長の小さなナイトくん

 俊平たちが神社の鳥居前まで戻ると、舞先生が遠野をなぐさめるように、ポンポンと頭を撫でていた。
 こちらに気が付いて、すぐに遠野が半泣きで駆け寄ってくる。しゃがみこんで麻樹のことを抱き締め、安堵の吐息を漏らした。
「さやかちゃんあっつい」
「よかった……ほんと……」
「もう勝手にどっか行くなよ?」
 俊平が麻樹の頭をポンポンと撫でる。顔を上げると、瀬能たちもちょうどたどり着いたところだったので、朗らかに笑いかける。
「おっせーぞー」
「谷川、ほんとありがとう。遠野さん、ほんとにすみませんでした」
 瀬能が小走りで駆け寄ってきて、ぺこりと頭を下げる。
「みなさん、ありがとうございました」
 修吾と賢吾、和斗、舞先生へと順に頭を下げてゆく。その礼はどれも深々としていて、彼女の生真面目さがよく出ていた。
 修吾が時計を確認し、笑顔で口を開いた。
「何事もなくてよかったね。順番に送ってくよ。いいよね、兄貴」
「……ああ。月代、お前の車も借りていいか?」
「呑んだから運転できないし、どうぞ。タバコは車内で吸わないでね」
「へいへい」
 スマートフォンで時間を確認すると、もう21時を過ぎていた。
「えっ、スーパーボールすくいは?!」
 遠野から解放された麻樹がすっとんきょうな声を上げる。
 お化け屋敷の後、一緒に行く約束をしていたので、彼からしたら当然のリアクションではあるのだが、この場にいる全員に迷惑を掛けたからか、瀬能の表情は少々険しくなった。
 月代と修吾、賢吾はそのことは気にせずに、車を取りに神社の裏手にある駐車場へ歩いて行く。
 瀬能が麻樹の傍まで歩いていき、しゃがみこんだ。
「アサ、みんなにお礼は言ったの?」
「さっき着いたばっかだから、後で言うよな?」
 手厳しい瀬能の声が気になって、俊平は口を挟むが、瀬能に視線で制されたので、押し黙る。美人の怒った顔は迫力がある。
「絶対に勝手な行動しないでって約束したよね?」
「……うん。ごめんなさい」
 瀬能の厳しい声に、麻樹が委縮するように肩をすぼめる。
 何も聞かずに頭ごなしに叱らなくても、と思いつつ、俊平は口は挟まずに見守ることにした。
「アサはまだ子どもなんだから」
「……またそれ?」
 少々厳しい声にしすぎたと思ったのか、瀬能の声のトーンが柔らかくなったが、麻樹は瀬能の言葉が気に食わなかったのか、むーと頬を膨らませた。
「あー、アサキは姉ちゃんに話したいことがあるみたいだぞ?」
 ガシガシと頭を掻き、俊平はその場の空気を和らげるようにちゃらけて言った。
「え?」
 意外な言葉に瀬能が俊平を見上げてくる。
 麻樹を励ますように頭をポンポンと撫で、和斗の隣に移動した。
「綾ちゃん、アサくんの話もちゃんと聞いてあげて?」
 遠野が気に掛けるように言う。
 瀬能が戸惑うように視線を後ろに向ける。水谷が優しい眼差しで瀬能を見つめ、頷いてみせた。水谷は瀬能相手の時、他では見せないほど、表情が柔らかくなる。それは、彼女たちの積み重ねてきた信頼がそうさせるのだろうか。
 瀬能は気持ちをリセットするように、目を閉じて息を吐き切り、優しい目で麻樹を見つめた。
「……どうして、いなくなったりしたの?」
「神様ならかなえてくれると思ったからお参りしなきゃって思って」
「何を?」
「お姉ちゃんがもう一度飛べるように」
 口を一文字に切り結んだ顔で、麻樹がそう言った。大きな目から涙がこぼれ落ちる。瀬能が慌ててハンカチを取り出し、麻樹の頬を拭った。
「おばあちゃんが言ってたんだよ。お姉ちゃんもぼくも、好きなことをしなさいねって」
「おばあちゃんが……」
「それなのに、お姉ちゃんはぼくのせいで、高校も行きたいところ行けなかった」
「……それは麻樹のせいじゃないよ」
「せめて、バスケはつづけてほしかったから、ぼくなりにがんばったけど」
「いつも感謝してるよ?」
「お姉ちゃんが好きなことできないんだったら、意味ないんだ!」
 瀬能の言葉に納得がいかないのか、麻樹が眉を八の字にして叫ぶ。
「意味ないんだよ! お姉ちゃんが笑顔でいてくれなかったら意味ないんだ! そんなのやだよ! 父さんも母さんもだいきらいだ!」
 涙を拭ってくれている瀬能の手を跳ねのけて、麻樹が悔しそうに叫ぶ。
 麻樹の言葉に、瀬能は驚いて目を丸くしていたが、伝えてくれた言葉に納得したのか、優しい笑顔になった。

『アタシは割と考えちゃうんだよね。バスケ強いところに行ったところでその先どうするの? って』
 昨日の彼女の言葉が脳裏を過ぎる。
 スポーツを続けることの選択は難しい。
 俊平も、中学、高校と進めば進むほど、世界はどんどん窮屈になっていった。
 将来どうするのか。どうやって生活していくのか。それは趣味ではダメなのか。
 ダメだから、こんなに必死なのに。お願いだから、自分の可能性のともしびを、消すような言葉を、投げかけないでくれたらいいのに。

「アサ、違うんだよ」
「何が?」
「確かに、アサがいるから選ばざるを得なかったところも少なからずあるけど、そうじゃないの」
 瀬能がそっと麻樹を抱き寄せて、ポンポンと背中を優しくさする。
「お姉ちゃんに勇気がなかったんだよ」
 瀬能はこぼれた涙を拭ってから、麻樹を抱き締めたまま、舞先生を見上げた。
「舞ちゃ……先生、お願いがあるの」
 舞先生が優しい目で小首をかしげた。
「なに?」
「アタシは馬鹿だから大人を説得するためにどうしたらいいのか全然わかりません」
「うん」
「どうしたら、母が納得してくれるのか、一緒に考えてはもらえないでしょうか?」
 舞先生が嬉しそうに笑って、右手の親指と人差し指で丸を作った。
「オッケー、任せて。明日、10時に学校来てね」
「ゆるいなぁ」
 真面目な瀬能のトーンとのギャップが激しすぎて、遠野が可笑しそうに隣で笑って突っ込んだ。瀬能も笑い、そっと麻樹から体を離す。優しく笑いかけて弟の頭を優しく撫でた。くすぐったそうにそれを受け止める麻樹。
 伝えたかった想いが届いたことがわかって、安堵した表情の麻樹。こちらも笑顔になるほど、その顔はふにゃふにゃだった。
 もしも、邑香が、想いに鍵を掛けずに、こうして話してくれていたら、何か違ったのだろうか。
 そんな言葉が脳裏を掠めるが、すぐに振り払って笑う。
「よっし、アサキ、今のうちに、スーパーボールすくいしてこようぜ」
 のほほーんとした声で、麻樹に声を掛けた。
「この時間だと屋台もそろそろ撤去始まってるぞ、たぶん」
「頼めば大丈夫だろ。ほら、ガキども行くぞー」
「ガキどもって、おれたちの中ではお前が一番ガキだからな」
 和斗がすかさず突っ込んで来るが、俊平は麻樹の手を引いて弾むように歩を進める。和斗もついてきているのか、下駄の音がする。
「ガキども行っておいでー」
 俊平の調子に合わせるように舞先生が言ったのが聞こえた。
「まだ、子どもの時間は終わってないらしいよ」
「ふふ、じゃ、行こっか」
 後ろを見ると、瀬能と水谷が仲良く手を繋いで、3人を追いかけてきていた。

:::::::::::::::::::

 ノリノリだった割に、水谷は動きもしない標的・スーパーボールを掬うのがとても下手だった。
 4人で和気あいあい、スーパーボールを掬う様子を、瀬能は和斗から借りたカメラで、楽しそうに写真に収めていた。
「水谷さん、小さいの狙ったほうがいいよ」
 浴衣の袖を気にしている彼女を気遣って、俊平は器を持ってやりながら、そう声を掛ける。
「ひより、がんばれー」
 標的は動かないスーパーボールだが、あまりの難航ぶりに、瀬能のエールが飛ぶ。
 掬うまではできるのだが、スピーディーに器に移すというのが苦手なようだ。のんびりした雰囲気の彼女なので、そのへんは意外でもなんでもなかったが、まさか1個も取れないとは。
 慎重に掬い上げ、今度こそと意気込んで、器に移そうとポイを動かすので、俊平もそれに合わせて、器を動かしてやった。
 コトンとようやく器に1つ収まる。
「おーーーー、取れた!」
 達成感から笑顔で、彼女を見、空いていた右手をハイタッチの形で掲げた。
 意図がわからないように、一瞬水谷が固まったが、少しの間の後、そっと左手を掲げてきたので、俊平はポンとその手に触れて笑う。
 これまで合わない視線が気になっていたが、お化け屋敷で自分の弱点を晒して以降、少しだけ視線が合うようになった。
 懐かない猫がようやく懐いた。そんな感覚に似ていた。
 その瞬間、パシャリとカメラのシャッター音が鳴った。
「やっと、1個。ひよりらしいといえば、ひよりらしい」
 カメラ片手に楽しそうに笑う瀬能。
 水谷は恥ずかしそうに手の甲を顔に当て、まだギリギリ使えるポイをこちらに差し出してきた。
「ん?」
「……つ、続きやっていいよ。ちょっと疲れちゃった」
「え、あ、うん」
 自分の分のポイもあるのだが、差し出されてしまったので、受け取ろうと手を伸ばす。
 受け取る際、指先が触れて、水谷が動揺するように少しだけ手を震わせた。
 水谷は俯いて、その手を胸元に引き寄せる。
 また、視線が合わなくなってしまった。
「綾ちゃん。カメラ係交代するから、綾ちゃんもやりなよ」
「えー、別にアタシはいいよー」
「……わたしが、綾ちゃんの写真欲しいの」
「えー、そう言われると弱いなー」
 まんざらでもない様子で、瀬能が笑い、水谷にカメラを手渡すと、俊平の脇をすり抜けて、麻樹の隣に滑り込んだ。
 麻樹は器に山盛りで取っていた。そんなに取ってどうするのだろう。
「アサ、全部は持って帰らないからね」
「えー」
「あはは、弟くん、すごい上手だから、ついつい見守っちゃったよ」
 そんな会話が隣から聞こえてくる。
 ちらりと水谷に視線をやると、カメラを持ったまま、空を見上げていた。
「何か見えるの?」
「今日、流れ星が多くて」
 麻樹を探している時にも見えたのを思い出す。
 瀬能に自分のポイを渡し、俊平は屋台のテントの外に出て、水谷と並んで、星空を見上げた。
「オレ、夏の夜空のほうが好きなんだよね」
「どうして?」
「全体的に明るいじゃん。走ってると気分がいいんだ」
「そっか」
 俊平の返しに、納得したように水谷が頷く。
 少しの間を置いて、水谷は瀬能たちを写真に収めようとしゃがみこんだので、俊平も持っていた瀕死のポイでスーパーボールすくいの続きを敢行することにした。

NEXT STORY
第6レース 第1組 幼馴染の本音


感想等お聞かせいただけたら嬉しいです。
↓ 読んだよの足跡残しにもご活用ください。 ↓ 
WEB拍手
感想用メールフォーム
 ※感想用メールフォームはMAIL、お名前未入力でも送れます。

もしよければ、俊平にスポドリ奢ってあげてください(^-^)