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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」2-3

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

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第2レース 第2組 自由な月

第2レース 第3組 Stray Polar Star

 重い荷物を拓海の車に乗せ終わると、俊平ははぁと息をついて、首をグルグル回した。
 奈緒子を歩かせるわけにはいかないので、拓海と俊平だけ。
 舞先生と奈緒子は先にアイスクリーム屋に行って、席を取っておいてくれることになった。
「ありがとう、俊平くん」
「いいえ。キーボードの人、結局来なかったっすね」
「ああ……二ノ宮は、まぁ」
 俊平の言葉に、怒り心頭の様子の拓海。それがおかしくて、俊平は吹き出した。
「あはは、月代さんでも怒るんすね」
「え、どういう意味?」
「月代さん、自分のテリトリーに入るな! って感じの人だなって思ってたんで」
「…………」
「だから、そういう感情的なところ、あんまり出さない人かなって勝手に思ってました」
 拓海がその言葉に不服そうに唇を尖らせ、そっと髪留めを外した。
 長い髪が風に攫われてゆく。
「ドタキャンされて怒らない人間いる?」
「いるわけないっすね」
「しかも、よりによって、来月のライブの告知用に場所押さえた日にだもの。そりゃ、怒ります」
「そうですね……大変でしたね」
「まぁ、二ノ宮はプロのピアニストなので、割と忙しいやつなのよ。無理やりスケジュール調整させたわたしにも落ち度はあるのだけど」
「へぇ……すごい人が知り合いにいるんですね」
「すごくなんか……」
 俊平の感心した声に、拓海が少しムキになりそうになったのを感じ取ったが、そこで彼女は言葉を切って、切り替えるように歩き出した。
「待たせてるし、戻りましょ」
「はぁい。そういえば、舞先生から、いろんな人と突貫でバンド組んでライブやってるみたいな話を聞いたんすけど」
「ああ、うん、そうよ」
「正式な居場所は作らないんです?」
「わたし、作りたいように曲を作ってるから」
「はぁ」
「編成を固定したら楽しくないの。一番多いのは、二ノ宮とか、舞の知り合いの女の子とかにキーボードをお願いしてが多いんだけど」
 吹き抜けてゆく風を気持ちよさそうに受け止めて拓海は目を細める。
「わたしの要求が多くて大変って、二ノ宮にはよく言われる。もう1人の子は、そんなに上手くない子だからそこまで要求しないけど」
「そうなんすね」
 口数が多いのは、音楽の話だからなのかもしれない。
 俊平はかいた汗を抑えるように深めに息を吐き出した。
「ナオコちゃんを誘ったのは、その2人が都合つかなかったからっすか?」
 急に勧誘されて困惑の表情を浮かべていた奈緒子の顔が浮かぶ。
「文化祭に、プロのピアニストなんて投入したら大騒ぎになるから、誰かいないか探していたのは事実」
 俊平の問いに、拓海は冷静な声で返し、そっと右耳に触れ、唇を噛む。
「あの子のピアノで、見えない彩が見えた」
「え?」
「わたしは、その彩をもう一度見てみたい」
 抽象的な表現に、俊平は首をかしげる。
 拓海は意味の分からないような表情をする俊平が面白かったのか、くすりと笑った。

:::::::::::::::::

 物を運んでくれたお礼にと拓海がアイスをおごってくれた。ので、遠慮なくトリプルアイスと洒落こんだ。数日前の和斗に多少の罪悪感が湧く。
 舞先生と先にお店に入ってアイスを食べていた奈緒子は、ようやく俊平が戻ってきたことに、ほっとした顔を見せた。
「お疲れ様。ありがとうね」
「いいっす。月代さんがアイスおごってくれたし」
「ああ、拓海が出してくれたんだ。出すつもりでいたのに」
「このくらいはね」
 拓海が当然のように言い、カップアイスを掬い、口に含んだ。
「はー、沁みる」
「歌った後だから余計でしょ」
「喉にはあんまりよくないけど、たまにはいいや」
 開き直ったように拓海はそう言うと、ふた口目を口にする。
 俊平は奈緒子の隣に腰掛け、様子を窺うように横目で見た。
「ナオコちゃん、何頼んだの?」
「あ、えっと、クッキーチョコと、ストロベリーを」
「へぇ、それも美味そうだね」
「美味しいですよ。俊平さんは?」
「チョコミントとマーブルとパチパチするやつ」
「夢のトリプル!!」
「まだ、口つけてないから、食べたいやつ掬っていいよ」
「え、でも、わ、私は口をつけてしまいました……お返しができません」
「いいよ、そんなの。おごってもらったやつだし」
 にひひと笑いながら、アイスを差し出すと、奈緒子が悩むようにアイスとにらめっこをする。
 もう食べ終えた舞が頬杖をついてその様子を見つめている。
「なんだ、このマイナスイオンコンビ」
 その言葉がおかしかったのか、拓海がくすりと肩を震わせる。
「若いっていいなぁ」
「舞、年寄りくさい」
「やー、10代のキラキラ浴びるとたまに思わない?」
「分からなくはないけど、わたしの場合、そもそも、こういう世界がなかったな、あの頃」
「暗くなるからやめようか? この話題」
「舞はキラキラ10代だったんだもんねぇ」
「……そんなことないよー。割と苦労したわ。大変だった。でも、文化祭は楽しかった記憶しかないんだ」
 奈緒子がパチパチ味を掬って食べ、満足げに頬を緩めたのを見守ったところで、俊平も2人の話題に入る。
「だから、オレに文化祭勧めたんすか?」
「ん? そうそう。考えるより動いたほうがいい時もあるからさ。どう? 少しは楽しい?」
「たぶん」
「まだ先だし、そんなに実感ないか」
「俊平さん、文化祭で何かやるんですか?」
「あー、なんか、ハロウィンモチーフのゴーストカフェをやりたいって子がいて、それに混ぜてもらうんだ」
「へぇ! 楽しそうですね!」
「ナオコちゃんも混ざる?」
「え、いいんですか?」
「1人くらい部外者いてもばれないんじゃないかな、ゴーストの仮装してれば」
「こらー、俊平、先生が目の前にいるんだが?」
「……部外者2人も巻き込もうとしてる教師に言われたくないっす」
「谷川くんの勝ちだ」
 俊平の低温のツッコミに、拓海がおかしそうに笑う。舞先生もこれには言い返せず、失笑をした。
 奈緒子が一生懸命アイスを口に含みながら、その様子を見守っている。
 拓海がカップをテーブルに置き、姿勢を正して、奈緒子を見た。
「改めて、藤波の文化祭にバンドのお手伝いで出るのだけど、キーボードがいなくて。藤さんにお願いできないかな?」
 奈緒子はスプーン先を口に含んだまま固まる。この年の子だし、大人はあまり得意じゃないのかもしれない。
 噛んでいたスプーンをカップに置くと、ふぅと息を吐き出す。
「……すみません、その、できません」
 髪に触れ、きゅっと唇を噛んで俯く奈緒子。
「足のリハビリもあるし、秋には学内の定期演奏会があるんです。それがあるの、藤波高校の文化祭の前の週なんです。今年は出るつもりなかったんですけど、友達がアンサンブルで出ないかって誘ってくれていて。その中の1人は高校は別のところに行くので、そっちを優先したいんです」
「聖へレスの定期演奏会かぁ」
「はい」
 拓海は何か思い出すように目を細め、俯く。前髪を直し、すぐに姿勢を戻す。
「今日巻き込んだのもむちゃくちゃだったしね。これ以上の無理強いはできないか」
「あ、いえ。あの、楽しかったです。私、月代さんの曲好きです。これだけは本当です」
 奈緒子が真っ直ぐ拓海を見つめてはっきりとそう言った。
 拓海がその真っ直ぐな言葉に照れるように視線を逸らす。
「あんなにピアノが自由でいられる曲、私、初めて聴いた気がする」
「名前のないあの曲かぁ」
「今回は無理ですけど、またいつか、混ぜてもらえたら」
「そう言ってもらえるだけ光栄だね。……これ、渡しておく」
 拓海はバッグから譜面の入ったファイルを取り出した。それに名刺を重ねて置く。
「全部、コピーだから。気にせず、受け取って?」
 拓海は笑顔でそう言うと、カップを手に取り、残りを食べ始めた。

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もしよければ、俊平にスポドリ奢ってあげてください(^-^)