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青春小説「STAR LIGHT DASH!!」1-13

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

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第1レース 第12組 きみがいる夏

第1レース 第13組 調べ物は苦手です。

「ひとまず、めぼしい本持ってきたぞー」
 装飾や衣装のデザインの調べ物をしてしまおうと、昨晩瀬能から連絡があったので、集まれた3年生組4人だけで、市立図書館に来ていた。
 両手いっぱいにハードカバーの本を抱え、俊平は図書館の片隅の談話室に陣取っている水谷と瀬能の元に戻る。俊平ほどではないが、和斗も図録らしき本を持って戻ってきた。
 談話室なら話しながら作業していても周囲に迷惑もかけない。ちょうどスペースが空いている時間でよかった。
「わ、谷川、力持ち。サンキュー」
「別に。こういうのでしか役に立てそうにないし」
 俊平は机にそっと一番下の本をつけ、そのまま、スライドさせるように置いた。
 和斗が見繕った本をどんどん積んでくるので、少々動揺したが、持てないこともなかった。とはいえ、さすがにちょっと重たかったので、プラプラと手首を振る。
「ありがとう、谷川くん、細原くん」
 和斗も持ってきた本を広げるように、2人の前に点々と置いてから、椅子に腰かける。それに合わせて、俊平も腰かけた。
「別にいいって」
 テンポ遅れで言ってくる水谷の言葉に、照れくさくなってそう答え、んーっと伸びをした後、頬杖をついた。
 色素の薄い、肩まである髪をサイドでひとつに括って、清楚な雰囲気の服装。制服だと、やや野暮ったく見えていたけれど、私服姿はしゅっとしていて、待ち合わせ場所で見た時には、少々虚を突かれた。
 瀬能は長い髪をふたつに括っておさげにしている。ウェーブのかかった髪質だからかそれだけでオシャレに見える。全体的にスタイリッシュな服装だ。
 和斗も和斗で、今日はコンタクトと来ている。和斗の普段着はいつもちゃんとしているので、それはそれとして、コンタクトにしてきている時点で、張り切りを感じる。自分の服装は、ちょっとラフが過ぎたのでは、と心配になる空気だ。
「谷川って、髪の毛上げないと、そんな感じなのね」
 積んだままにしている本に手を伸ばすついでに、瀬能がそんなことを訊いてきた。
 俊平としては邪魔で仕方ないので、前髪をキュッと上げるように何度か掌で撫で上げる。
「寝坊して急いで出てきたから。あ、どれ? 取るよ」
「上から3つ目の本」
「了解」
 左手で邪魔な本をどけて、右手で指定の本を取り、差し出す。それを受け取った瀬能がパラパラと捲って読み始めた。
 ついでなので、積んでいた本を崩して、和斗と水谷のほうに何冊か寄せるようにして置いた。
「寝坊したのに、到着はアタシより早かったのね」
「オレの足なら余裕だよ」
 ポンポンと腿を叩いて笑う俊平を、水谷が優しい目で見、小首をかしげるようにして口を開いた。
「だから、すごい汗だったんですね」
「今日、すげー暑いじゃん。梅雨が明けたからか、夏が本気出してきた感じが」
「心配して何回も連絡してやったのに、寝坊した上に、おれを置いてきぼりにしたんだよな」
 隣で和斗が呆れたようにため息を吐いた。その言葉に、瀬能も水谷もおかしそうに笑う。
「まさか、細原が遅刻してくるとは思わなかった」
「いいんだよいいんだよ。おれ、いっつも、しゅんぺーからはこういう扱いだから」
 和斗がわざとらしく嘆くような口振りで話すので、すかさずフォローを入れる。
「だから、悪かったって言ってんじゃん。スマホ見てるどころじゃなかったんだって」
 和斗は図録をペラペラ捲りつつ、俊平をじとりと睨みつけてくる。割と怒ってらっしゃる。
「……そのうち、駅前に出来たアイスクリーム屋で、食べたいアイスおごるから」
「お、まじか。ラッキー」
「細原、わざと……」
 ころっと態度が変わった和斗に、瀬能がおかしそうに更に笑う。
「そういえば、昨日からオープンしたんだっけ?」
「……たしか」
 瀬能に問われて、俊平は自信なくそう返す。
 和斗が捲っていた図録でピンと来たものがあったのか、水谷と瀬能に見せるように図録の向きを変えた。
 俊平はちらっとだけ見たが、自分には無理なものであることを感じ取ったので、自分で持ってきた本の山から、お菓子の本を手に取り、目を通し始める。
「内装は大体こんなイメージかな?」
 和斗が2人に尋ね、意識合わせをするように色々やり取りをしている。
「このくらいなら、暗幕借りればなんとかなりそうね。高そうな装飾もないし。ひより、ハロウィンっぽい雰囲気のほうがいいのよね?」
「う、うん。そうだね。こんな感じで、あんまり怖くない雰囲気にできるといいかなぁ」
「怖くなくていいの?」
「ハロウィンだし、怖いお化けの中に、陽気なお化けが混じってお祭りしている感じがいいかなって。怖いお化けたちからカフェを守るために扮装しているイメージがいいんじゃないかと思うんですけど」
 水谷が乗り気な声で話しているのが聴こえてくる。ああよかった。おどかす系のカフェではないらしい。
「なるほどなぁ」
 納得した声を発しつつ、横目で俊平を見てくる和斗。バレるからやめろ。視線で制そうと和斗を睨みつける。
「しゅんぺーはガタイもいいから、布面積少ない系のお化けがいいんじゃないかな」
 和斗の言葉に、水谷が恥ずかしそうに俯いた。すかさず、俊平が突っ込む。
「おい、10月だぞ」
「ダメージジーンズとボロボロのシャツとか。それなら、そこまで手間かからないし」
「ああ、フランケンシュタインとかミイラ男とか?」
 手間がかからない、という魅力的なフレーズに、瀬能が納得したように頷く。
「陽気なお化けたちのコンセプトはどこへ?」
「陽気にすればいいじゃない。ハルクとかどう?」
「いくら筋肉バカでもあそこまで増量はできません」
 悪乗りする瀬能に、はっきりとノーを突き付けて、ベーッと舌を出す。
「着れるシャツを破くのは抵抗あるから、それならまだミイラ男のほうが許容できっかな。上半身裸で包帯巻くとか?」
「さっき、自分で10月だぞって言ってたのに」
「寒かったら、中に白いシャツでも着れば誤魔化せるかなって」
「ひとまず、谷川は筋肉系ね。細原はドラキュラとか?」
「おれ、中抜けとかするだろうから、あんまり主力で考えないでほしいんだけど」
「同じような背丈の男子がいれば、その人と衣装交換するくらいの気持ちでいてくれれば」
「……わかった」
 資料を見ながらの話し合いなのもあって、一昨日よりはサクサク進んでいる感覚にほっとする。
「もうすぐ14時だし、目星つけたものをコピーしたら、今日は終わりにしませんか」
 しばらくみんなワイワイしながら作業をしていたが、2時間ほど経過して水谷がそう声を掛けてきた。
「ごめんなさい、わたし、16時から塾だから」
 穏やかな声でそう言い、付箋を貼った本を持って立ち上がる。
 俊平もすぐさま立ち上がって、図録と水谷の傍らに置いてあった本数冊を持ち上げる。
「水谷さん、コピーするなら、重い本はオレが持ってくよ」
「あ、ありがと、ございます」
 急に近づいたからか、水谷は相変わらず体を強張らせるように固まる。
 顔合わせの時から警戒されている感覚があったから別にいいのだが、こうも分かりやすいと少々心が痛い。
「細原もひよりと同じ学習塾だっけ?」
「ああ、うん。ただ、おれは今日は塾ないよ。コースが違うのかな?」
 和斗たちの会話を尻目に、俊平は颯爽と談話室を出る。少し遅れつつも、水谷がそれに続く。
「先にコピーしてくるから、その間に他にもよさげなのあったら見繕っといてくんない?」
「はーい。行ってらっしゃい」
 瀬能の声に送り出されて、軽い足取りでコピー機に向かった。

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第1レース 第14組 知らない景色


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