青春小説「STAR LIGHT DASH!!」1-12
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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」
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第1レース 第11組 Beside you
第1レース 第12組 きみがいる夏
「はぁ……生徒会長かっこよかったです。まさか、あんな至近距離で話すことになるなんて思ってなくて。顔に出てなかったですかね? 大丈夫ですかね?」
終業式後の打ち合わせが終わって、綾に仕切られるがままにくっついてきたユキが、ドーナッツ屋さんで席についてから、嬉しそうにそう言った。
おなかがすいたから寄り道しようと言った割に、綾が頼んだのはコーヒーだけだった。
くいっとひと口飲んで、ふーとひと息つく。それを隣で見ながら、「我が親友ながら、どの所作も絵になる人だな」とぼんやり考える。
「ユキってああいうのがタイプなんだね」
冷静な口調にユキが照れた様子で、眼鏡の位置を直す。
「わ、私は単に、その、ミーハーなだけです。綾先輩のことだって、そんな感じですし」
「……あー、うん。そういえば、そうだったね」
思い出したように苦笑する綾。
はじめの頃は驚いたようだったのに、最近は慣れたようにあしらっていたから、本当に忘れていたらしい。
また、カップに口をつけ、ひと口。
「見た目なんてね、そんなにあてになるもんじゃないよ」
カップをテーブルに置くと、長い睫毛を伏せ、静かな声でそう言った。その言葉に、ユキがしんとなる。
「ひよりは? 大丈夫そう?」
「え?」
「あんまり話したことないでしょ? あの2人」
頬杖をつき、気遣うようにひよりの顔を覗き込んでくる。
大丈夫か大丈夫ではないかで問われたら、正直大丈夫ではない。はっきり言って、ほとんど記憶がないのだ。
俊平との顔合わせの時は、綾の手前、不自然じゃないようにと一生懸命話した気がするのだが、やっぱり、あんまり記憶がない。
打ち合わせが終わった後、綾が作ってくれたグループのおかげで、俊平の連絡先さえも取得してしまった。
突然のフラグ乱立に脳の処理が追いついていない。これは無理だ。
「あの、わたし、変なこと、言ってなかった?」
口をついて出たのはそんな言葉。
ひよりのその言葉に、綾もユキもきょとんとした顔をする。
ユキが先に笑いながら口を開いた。
「変なことも何も、ひより先輩、ほとんど発言してなかったじゃないですか」
「あー、そうね、確かに」
「そ、そっか……」
2人の言葉にほっと胸を撫でおろす。
「谷川も、今日は元気なかったな、そういえば」
思い出したように、綾がぽつりと呟く。
ひよりはカフェラテの入ったマグカップを両手で持ち、こくりと飲む。
彼がどんな様子だったかすら、あまり思い出せない。でも、確かに、今日は口数が少なかったような気がする。
「え? あの先輩、もっとうるさい人なんですか?」
「うん。アタシもこの前初めて話した程度だけど、なんか、陽キャ属性って感じ?」
「……でも、まぁ、親しくもない女子3人のところに放り込まれたら、あんなもんじゃないです?」
「うーん、そういうものかな」
「なんか、大きいなぁって感じの人でしたよね? 体格がしっかりしているっていうか。運動部の人ですかね?」
「あー、確か? そんな話を友達がしてたような?」
綾が頭をフラフラさせながら思い出そうと天井を見据えている。
「陸上部だよ」
ぽそりとひよりが答えると、綾とユキの視線がこちらに向く。
「1年の時に、全国大会に出場してたから、覚えてる」
即答出来てしまった理由として、妥当そうな彼の情報を脳内データベースから引っ張り出した。
それに感心したように、綾が「へぇ」と声を出した。
彼女は周囲にあまり興味がないところがあるから、そういう情報をほとんど覚えられない。彼女なりの処世術なのだと思う。
「……あいつ、すごいやつなんじゃん」
放課後、必ずと言っていいほど、グラウンドを走っている彼を見かけた。
他の部員が帰っても、彼だけは残って1人で走ったり、トレーニングしたり。試行錯誤を繰り返していたようだった。
大変だろうに、どこか楽しそうで、そんな彼の姿が夕日に照らされている景色を、いつも綺麗だなと思っていた。
「でも、そんなすごいやつなら、なんで、今、暇して……」
そこまで言いかけて、何かを察したように綾が黙った。すぐにコーヒーカップに手を伸ばす。
ひよりもカスタードの入ったドーナッツを手に取り、ひと口頬張る。
急に黙った2人にユキが少しだけ不思議そうな顔をしたが、まだ口をつけていなかったチョコリングを食べ始めた。
「まぁ、人それぞれ、事情はあるよね」
綾がしばらくしてからそれだけ言い、口元に手を置いた。
::::::::::::::::::::::::
『うん。だからね、綾ちゃん。無理なんだってば』
これは、ひよりの昨日の脳内の断末魔だ。
何も知らない綾に察してくれなんてそれは無理な相談なのだけれど。
ひよりは駅前でみんなが来るのを待ちながら、小さくため息をついた。
梅雨が明けてじりじりと気温の上がった日曜日。
日差しにアンニュイな気分になりながら、ひよりはスマートフォンを見つめる。
昨日のグループチャットのやり取りはこうだ。
あやちゃん【明日、調べものしに図書館行こうと思うけど、行ける人いる?( `ー´)ノ】
細原くん【空いてるよ(^-^)】
ユキちゃん【すみません、今日から親戚の家に泊まりで来ていて無理です!( ;∀;)】
たにかわくん【行ける】
あやちゃん【ひよりは?】
ひよ【無理です】
あやちゃん【何か予定あるの?】
ひよ【あ、そういう意味じゃないです。行けます。ただ、夕方は塾です】
あやちゃん【じゃ、明日11時に駅前集合でよろ~】
ユキちゃん【あああああ、私も行きたかった……】
あやちゃん【はいはい、また今度ね】
本当に、無理。
グループチャットでしかやり取りをしていないけれど、俊平は、必要最低限しか書かない人らしい。今のところ、10文字以上の文字を見たことがない。
ひよりは、スマートフォンのカメラを自撮りモードに切り替えて、髪型を確認する。
おかしくないだろうか。むしろ、気にしすぎて、張り切りすぎた感じになっているのでは?
肩まである髪をサイドテールにし、パフスリーブの水玉のシャツに、可愛らしいリボンのついたプリーツスカート。サンダルも、家にあった中では比較的可愛らしいデザインのものを選んだ。
ドキドキと鼓動がうるさい。また記憶がなくなるかもしれない。何を話したか覚えていないのは恐怖しかない。
「あれ? まだ、水谷さんだけ?」
突然、近くでそんな声がして、びくりと肩を震わせる。
声のした左方向を見ると、黒いキャップを被った俊平が、汗だくで立っていた。藍色のオーバーサイズなTシャツと、少しチャラい感じのする柄のサーフパンツ姿。右膝にはスポーツ用のサポーターが巻かれていた。
「あぢ」
汗を構わずTシャツで拭うので、インナーがちらりと覗く。
「おはようございます」
ひよりは俯くが、挨拶だけはなんとか絞り出した。
「あ、うん。おはよ。……違うかなって思ったけど、水谷さんだった。合ってた」
白い歯を見せて、屈託なく笑う俊平。
距離感が近い人って存在するけれど、俊平はまさにそういう人な気がする。
心臓の音がうるさい。何も話さないのも不自然なので、一生懸命頭をフル回転させる。
「暑い、ですね」
「あ、うん。そうだね。なんか、水谷さん、夏のオシャレコーデって感じの服装だね、今日」
「ありがとう、ござい、ます」
――わたしのことはほうっておいてくださいいいいい!!!!!
内心叫ぶも、俊平はそんなことはわからないので、気にも留めないようにニコニコ笑っている。
そうこうしていると、ポコンとスマートフォンが音を発した。ひよりのではない。
俊平がゴソゴソとポケットからスマートフォンを取り出す。
「げ」
「? どうしたんですか?」
「カズからなんかたくさん来てる……」
俊平は慌てたように返信しようとスマートフォンをいじり始めたが、少ししてから、ひよりと俊平のスマートフォンが同時に鳴った。
細原くん【ごめん、おれと俊平、少し遅れそうだから、図書館に先に行っててください】
ひよ【え……? 谷川くん、もう待ち合わせ場所来てますけど……?】
俊平がもたついている横でひよりがグループチャットにそう返すと、少しして和斗から返信があった。
細原くん【(#^ω^) あ、うん、わかりました。おれが遅れます。先に行っててください】
その返信内容にひよりは首をかしげる。俊平のスマートフォンが着信メロディらしきものを奏で始めた。
「あ、ちょっと、電話」
「はい」
慌てた様子で俊平がスマートフォンを耳に当てる。
状況が飲み込めずにいると、そこに綾がやってきた。
長い髪をおさげにし、袖なしのチュニックに、濃いめの色のインナー、スキニージーンズ姿と、シンプルだけれどスタイリッシュだった。
「おはよー。何事? 細原が遅れるって」
「おはよう、綾ちゃん」
「ひより、可愛いじゃーん」
「あ、ありがと……。綾ちゃん、おさげ、珍しいね」
「あはは、なんか、上手く髪がまとまらなくってさぁ」
ひよりの言葉に、照れくさそうにそう返してくる綾。
「ごーめーんって!!!」
2人がほのぼの話していると、少し離れた場所で電話をしていた俊平が、申し訳なさそうな声を発した。
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第1レース 第13組 調べ物は苦手です。
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もしよければ、俊平にスポドリ奢ってあげてください(^-^)