青春小説「STAR LIGHT DASH!!」7-10
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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」
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第7レース 第9組 それぞれの努力の形
第7レース 第10組 繋がらなかったバトン
『100メートルは谷川と高橋』
部員たちが見つめる中、里中が淡々と新人戦の出場選手を読み上げてゆく。
『200メートルは谷川と岸尾』
俊平は特に周りを気にすることもなく、その言葉を空を見上げて聞いていた。
『400メートルリレーは谷川、岸尾、高橋、飯尾』
圭輔が同学年の男子たちにポンポンと肩を叩かれ、お祝いされているようだった。
俊平も少し離れた位置で聞いている高橋に視線をやる。高橋も小松にポンポンと背中を叩かれているようだった。
他の種目の出場選手たちが次々読み上げられ、すべて伝え終わってから、その日の練習は終了となった。
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新人戦地区大会当日。
俊平はコンディションを完璧に仕上げて臨み、100メートル、200メートルともに1位突破で、インターハイ予選よりもタイムも結果も更新した。
高橋も調子が良く、自己ベストを更新して満足げな表情だった。
『おつかれ』
ドリンクを渡しがてら声を掛けると、彼は嬉しそうに笑った。
『やっぱ、谷川はすごいね』
『オレからしたらお前のほうが』
あれだけ練習に来られていなかったのに、ここまで体を戻して、最終的な結果としては、彼の中では1番良いものではないだろうか。
これまでずっと、先輩たちと俊平の影に埋もれて、大会出場の機会もなかったのだから。
『俺は逃げたからさ』
『え?』
『だから、他になんにも失うものがなかっただけだよ』
本番が終わって気が抜けたのもあるのか、あっけらかんと高橋は言い切った。
彼に何があったのかなんて、俊平にはわからないので、その言葉を戸惑いと共に受け止めることしかできなかった。
『谷川はすごいよ』
『なんだよ』
『……だから、谷川はそのままでいてよ』
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地区大会2日目、400メートルリレー。
1番手を走った俊平のリード分をしっかり守って、2番手の飯尾が3番手の圭輔に問題なくバトンを渡した。
このまま、順当にゴールまで行けるのではないか。圭輔に声を掛けながら、内心そんな甘い考えが過ぎった。
”いつかは、チームとして勝ちたい。”
邑香に言ったあの言葉が叶うまで、あと数十秒。
走り終わって上がっている脈拍が、その興奮と一緒に更に上がる心地がした。
けれど、圭輔の運んだバトンは高橋に渡ることはなかった。
懸命に腕を伸ばす圭輔。けれど、高橋の後ろ手にバトンは届かない。
高橋が後ろを気にしてペースを落とすまでは間があった。
そうこうしている間に、連繋を終えないといけないテイク・オーバー・ゾーンを越え、2人はゆっくりとペースを落とした。
肩で息をしながら圭輔が地面に視線を落とす。高橋はそれとは対照的に、空を見上げていた。
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地区大会の帰り道。
ぼーっと空を見上げて歩いている俊平に、邑香はしばらく声を掛けてこなかったが、商店街が見えてくると、持っていたドリンクを俊平の頬に当ててきた。
それでようやく俊平が邑香に視線を向ける。
『県大会もあるのに、そんなんで大丈夫?』
『ああ、大丈夫。ちょっと疲れた』
『……シュンは結果残したんだから嬉しそうにしてなよ』
『ん。そう、なんだけどなぁ……』
浮かない表情の俊平に邑香は深くため息を吐いた。
『ケースケ君と高橋先輩の連繋が良くないかもなって、気付いてたのに、何も言わなかった。ごめん』
『え?』
『ケースケ君、高橋先輩のことよく思ってなかったから、バトン連繋の練習も最小限にしてた。原因は彼だよ』
『……んー。チームのことで、”誰が”って言うのは、オレはおかしいと思うよ』
『そっか』
『うん』
俊平の言葉に、邑香は意外そうな目をした後、静かに納得した顔で頷いた。
リレー競技で、誰のせいだと言い始めたら、そんな競技、楽しくもなんともない。俊平はそんなことは絶対に言いたくなかった。
『でも、原因が分かってるなら、改善もできるだろうし、きっと、うちのリレーチームはまだ強くなれるな』
『そっか』
『おう』
来年のインターハイ予選までには、きっと良くなる。良くできる。そう、俊平は信じていた。
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新人戦が終わると、また高橋の部活に来る頻度はグッと下がった。
それを圭輔は特によく思っていないらしく、これまでは言ってこなかったのに、ジョギングを一緒にしたタイミングで俊平にも愚痴を言った。
『ふつー、これからよくしようってなりませんか? 課題はたくさんあるんだし』
『高橋にも色々事情があるんだよ』
『事情って……。ボク、あの人がいなかったら、100メートルだって出られたんですよ?』
『それは、お前が高橋より良い結果を出せなかったからだろ? 高橋のせいにするなよ』
『先パイは2年ですもんね』
『そういうこと言ってんじゃないだろ。陸上は結果がすべてだって、ただそれだけのことを』
『すみません。他人の悪口を絶対言わない先パイに愚痴ったボクが悪かったです』
俊平が叱るように言葉を投げかけると、圭輔はシャットアウトするようにそう言って、ジョギングのペースを上げ、さっさと行ってしまった。
用具整備をしていた邑香には、その会話が聞こえていたのか、走り終わった後の俊平のところまで歩いてきて、タオルを手渡してきた。
『大丈夫?』
『なんだか上手く行かないなぁ』
『ケースケ君、これまで挫折知らずの子だから』
『え?』
『中学までやってたテニスも、なんとなくで地区優勝しちゃってるらしいし』
『……耳の痛い話だ』
『シュンとは規模は違うかもしれないけど、やっぱり、なんとなくでできると、ぶつかった壁に抵抗感あるんだろうね』
『それが、アイツから見たら”やる気がなくて、サボりがちの先輩”だと余計か』
『そう。難しいねぇ』
困ったような顔で2人は合わせたわけでもないのに、ほぼピッタリのタイミングでふーとため息を吐いた。
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上級生が抜けた分、県大会、地方大会といずれも順位を更新し、俊平は安堵した。努力の結果はきちんと形として出ている。
このまま行ければ、来年のインターハイでは全国大会出場もできるかもしれない。
けれど、このままキープの状態では、目標としているインターハイ優勝には届かないことも、はっきりしてしまった。
どうすればいいのだろう。その疑問を打ち消すように、俊平は練習に没頭していった。
『谷川、まだやってんのか?』
冬で日が落ちるのが早くなったとある日。真っ暗な校庭で俊平が走っていると、コート姿の高橋が心配そうに声を掛けてきた。
『高橋、こんな時間にどうしたの?』
『図書室で勉強してたらこんな時間になっちゃって。先生が見回りしてるから、お前もそろそろ上がったほういいよ』
『あー、いいよ。怒られ慣れてるし。もう少しやってく』
『椎名さん、こんな寒い中待たせてんのか? 体弱いんだろ? 気にしてやれよ』
『あ……そうだな』
『……そうだな、って。お前らしくないよ。大丈夫か?』
志筑(元)部長にも散々言われてきたから、ここのところは上手くペース配分できているつもりだったけれど、答えが見えず、暗中模索していたら、また周りが見えなくなっていた。大丈夫ではないかもしれない。
『先生のノートにも、冬はラントレ以外を重点的にってあったろ。あんまり筋肉摩耗するトレーニングに時間割くな』
『……そう、だな』
受け答えがどうにも茫洋としていて、高橋が心配そうにこちらを見つめてくる。
真っ暗でどこにいるのかもわからないまま、高橋が声を上げた。
『椎名さん! 今日はこれで終わり! 連れて帰って!!』
『……高橋先輩?』
手持無沙汰だったのか、部室の片づけをしていたらしい邑香がひょっこりと顔を出した。
『ああ、中にいたんだ。それなら、まだマシか』
『プレハブだから大差ないですけど、掃除してたので、体は冷えてないです』
ゆっくりこちらに歩いてきて、柔らかい声でそう返す邑香。
高橋の穏やかな人柄は、邑香も認めているのか、他の部員たちに対してよりも、いつも対応が優しかった。
『今無理やり止めたから、このまま連れて帰ってね』
『……あー、すみません。あたしが言っても、ここのところ聞いてくれないので。助かります』
『じゃ。谷川、ちゃんとペース配分しろよ』
ポンポンと俊平の肩を叩いて、高橋は優しい笑顔でそう言い、ゆったりしたペースで歩いて行ってしまった。
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