赤澤

自分の体のことや恋愛について詩をつくっています。

赤澤

自分の体のことや恋愛について詩をつくっています。

最近の記事

孵化

誰ひとりとして ここであったことは話さない 虫たちが声をならし 庭が波打つのを聞いていた日に わたしたちは羨ましくて 託すように口を開け 羽を摺り合わせるようにして祈った 指の先端が誰かとの境のように 冷えた風を纏っていた 握った手の腹だけが赤く染まって 乳児よりも温く命を孕む ひとりが黙っていることを たしなめるように 熱が喉を舐る 話せなかった言葉は腹を膨らませ 卵として纏まることがあった 唾液の絡んだ状態で吐かれる独り言は 性を知らず 孵ることもなく 殻の中で腐ってい

    • 季節は彼女を追い抜いて

      手首からは積雪の音がして 滑らかに 何かが生きていた跡が 線になって現れ 大きな指先でなぞられた結露のように 歩む姿は小さく ひとりを透明にした 冷たさと共に彼女は ある人のした今朝の話に 遠く先へと目を向ける 新しい疵をいたわる態度で 頬に水の音が溶け 薄明かりのカーテンは薄氷に似て囁いて 湿度を帯びた吐息を受け 月日が船を漕いでいった 知らないことは不機嫌だった もし、隣の席だったなら プリントの上の選択問題に 差し出す足を間違える 出席番号で埋めた名前欄 1と2の次に

      • 詩集『まばたぐ』について

        赤澤玉奈の私家版第一詩集『まばたぐ』を2023年11月11日、文フリにて刊行しました。2021年10月〜2023年9月までに書いた、恋愛と、自身の体に起こった体調不良について作った詩が載っています。 現代詩手帖、ユリイカ入選・選外佳作作品複数掲載。 ↓通販↓ ・吉祥寺百年さま(http://100hyakunen.thebase.in/items/80328281) ーーー 『まばたぐ』についてのステートメント 「『どういふわけで水が恐ろしい?』『どういふ工合に水が恐ろしい

        • 曲げた関節が山になり 喉がわななくと おまえには何も出来ないよと蝉が鳴く じりじりと耳を焦がし  音は波のように撓んで 耳鳴りは息を引き取った音で 無力が やけに耳に残る夏だった 吐ききると 足をわたる人 ひと 静かに 元に戻るまでの時間 歩いている私は 気付かれたくて水を落としたりした 目をつぶると光を走らせ 雷鳴は果てのない生き物みたいに 喉を震わせて うなる重量が沈みこむ 音がして 後は波のように薄く 憑かれたものごとを流していった 家々はまた静まって 虫たちだけが眩

          爪の

          心臓の鼓動がシーツに伝って 静かを掘り起こす 爪の白とピンクの間が柔く波打つ 硬質な海のような そんな眠り方で 生きると生きないの間を 泳ぐものの顔をしている 頬に手を添えると 真昼の空き地みたいな静か 中指にある細いささくれは 風があたるとそよぎ 八月の草原のふりをする 痛みは見知らぬ顔をして 瑞々しく露をつくる 冷や汗を 引っ張ると長く流れて 皺が笑うと振り返る 日中乾いているあなたは 掌だけ湿らせて 爪の先に季節を伸ばす 睫毛が産まれるようにかすかに震える 眠る人を

          凧を飼う体

          風が何かつぶやいて うまく凪いでいるのに 擦れたわたしから声がしたのかもしれない 細い骨組みで 遠くから頭を見ている 束ねた髪の後れ毛が跳ね かかとを浮かす子供たち 見慣れた場所を 飽和する青信号を 先を行く白いシャツは 爪の間から糸を伸ばし歩く 耳の中に台風 いない子供の笑い声 地図が記す場所を間違えたから 体と意識がずれて分かれる 体は先を わたしは後を 同じ顔をした細い髪、つむじの周り方みたいに いくつかの声が 大小を奏で混ざり合い

          凧を飼う体

          凪ぎ、花残る

          凪ぎ、花残る 波間が光を汲み 吐き出すと揺れる音がする 指先で肌に触れる 皮膚は波立って ただ視線を交わしあう 触れることは壊すことだったから 産毛の先に光をため込み くるんだ睫を羽ばたかせると 飛んでいくように風が吹く 七月の湿度で汗が撫で 額に露が卵を産む 産まれることを待つように かすかに震えた 水面に目を落としたまま 彫像のように固まり 読点のしじまは 西日の隠れ方は 夕映えの反射と混ざり合って、 何を呟いたかさえ分からずに さかむけた唇を見る お互いに子音を口に

          凪ぎ、花残る

          公園の跳ね石

          公園の跳ね石 花の萼はそのためにあったから、スカートにシャツをねじ込む 花弁が広がる あなたはその限りでは、古くからのあなたでいられた 落花 そのための一言をあなたは見逃す うなずくための犠牲だった 公園は池を一周守るように道がある 進行方向とは逆にオールを動かす人 漕ぐたびに頭一つ先頭が進む 鯉が水面に口を寄せるといくつか白く浮かび上がった ぱちぱちと 拍手を 毛先に光が溜まるとあなたは飲み込むだけになったから 口を開けてまた閉じる 花には長花弁と短花弁がある 子房を覆い

          公園の跳ね石

          浜柘榴/石垣

          浜柘榴/石垣 手の甲が海面を持ち上げる 手首を 草臥れた花のたおやかさ 臍の形をした実に 薄膜が張られ、流れると 透ける赤に丸く水滴が滑る 一筋の移動 船の重さで体が浮かぶ 騒がしい肌に景色が張り付いて むせかえる海の一部になりながら進む 石になった女の話を聞く 思い人と引き裂かれ一緒になることができず 悲しみの余り石になったひとりの名前 窓から鼻まで浸かり 皮膚に指を沈めて動かすように 掌の皺を撫で付けるように 今の私がいる理由とこうならなければいけな かったがなぞられ

          浜柘榴/石垣