曲げた関節が山になり
喉がわななくと
おまえには何も出来ないよと蝉が鳴く
じりじりと耳を焦がし 
音は波のように撓んで
耳鳴りは息を引き取った音で
無力が
やけに耳に残る夏だった

吐ききると
足をわたる人
ひと
静かに
元に戻るまでの時間
歩いている私は
気付かれたくて水を落としたりした
目をつぶると光を走らせ
雷鳴は果てのない生き物みたいに
喉を震わせて
うなる重量が沈みこむ
音がして
後は波のように薄く
憑かれたものごとを流していった
家々はまた静まって
虫たちだけが眩んでいる
手懐けることを予感させては
拒否される日々に焦がれる
体は主導権を明け渡し
頭の中が並べ立てられるような
肌に張り付く広がりが窮屈に
微熱をくくる
もう何度も
へばりついた蝉をとるのに
刺さった足の棘が
鋭く鳴いて

その蒸した
途方もなく長い夏
目を開けば
彼らの声は
背中から落ちて
つぷらと消える



現代詩手帖2023年10月号選外佳作(峯澤典子さん選)

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