浜柘榴/石垣



浜柘榴/石垣


手の甲が海面を持ち上げる
手首を
草臥れた花のたおやかさ
臍の形をした実に
薄膜が張られ、流れると
透ける赤に丸く水滴が滑る

一筋の移動
船の重さで体が浮かぶ
騒がしい肌に景色が張り付いて
むせかえる海の一部になりながら進む
石になった女の話を聞く
思い人と引き裂かれ一緒になることができず
悲しみの余り石になったひとりの名前
窓から鼻まで浸かり
皮膚に指を沈めて動かすように
掌の皺を撫で付けるように
今の私がいる理由とこうならなければいけな
かったがなぞられてほどける
ほどきたい
汗を
腕まで流れ
浜柘榴の実が緒をのばす

波は大きく息を飲み込み
地平線は深く沈黙する
女は彼に会おうとして代わりに於茂登岳を見
たという
同じように山を見る
雲が色を支配すると海は皮膚を作る
おおらかな反射
重さが私のものでは無くなった頃
私が冷えて硬くなっていくその横で
きっとあなたは何でも無い顔をして
手からは生き物の匂いがする



現代詩手帖2023年7月号選外佳作(山田亮太さん選)
2023年5月後半投稿

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