凪ぎ、花残る


凪ぎ、花残る


波間が光を汲み
吐き出すと揺れる音がする
指先で肌に触れる
皮膚は波立って
ただ視線を交わしあう
触れることは壊すことだったから
産毛の先に光をため込み
くるんだ睫を羽ばたかせると
飛んでいくように風が吹く
七月の湿度で汗が撫で
額に露が卵を産む
産まれることを待つように
かすかに震えた

水面に目を落としたまま
彫像のように固まり
読点のしじまは
西日の隠れ方は
夕映えの反射と混ざり合って、
何を呟いたかさえ分からずに
さかむけた唇を見る
お互いに子音を口にする
静かに
指差しと同じ手つきで黙る
心だけは燃えたままで
熱が水を乾かしてしまえば良いと
心臓が叩くように言う
眩まない
できるだけ揺らさないようにすると
はっきり姿を見ることができるから
息を吸う 糸を吐くように細く
夜までの距離が近くなる

沈むのでしょう
泳ぐことができないのは
落ちてしまいたいと願った私のせい
太陽に輪郭が散って
飲まれるのでしょう
汗が頬を伝ってあなたを揺らすと
あなたの目には
わたしがうつる
飛沫が
高く跳ね上がる



ユリイカ<今月の作品>2023年8月号佳作(大崎清夏さん選)
2023年6月後半投稿

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