息をするように本を読む16 〜上橋菜穂子「精霊の守り人」〜
子どもたちが小さい頃、児童書の頒布会に入っていた。
私が幼い頃に両親にいろんな本を買ってきてもらって読んでいたように、子どもたちにいろんなジャンルの本に触れて欲しかったからだ。
月に1度、送られてくる本の種類は古今東西、多岐に渡っていて、子どもたちはとても楽しみにしていた。(もちろん私も)
その中に「精霊の守り人」があった。
子どもには少し難しいかな、と思ったのはまったくの杞憂で、2人ともたちまち夢中に
なって読んでいた。
夢中になったのは子どもたちだけではない。私も、だった。
ある架空の、どこかしらアジアっぽい国が舞台で、主人公はバルサという女。
短槍、という背丈より少し短い槍の遣い手で、隊商などの用心棒をして生計を立て、旅から旅の暮らしをしている。恐ろしく強い。
あるとき、バルサが成人するまで義父と住んでいた国に帰ってきたところで物語が始まる。
バルサは、ふとしたことで、あろうことか父帝から生命を狙われているという幼い皇太子チャグムの警護をすることになる。宮廷内のドロドロした勢力争いの他に、何か人智を超えた存在も絡んでいるらしい。
そこからどんどんと話が広がって、緻密に練り上げられたドラマは怒涛のクライマックスへ向かう。
こう書いていくと、子ども向けの冒険ファンタジー?と思われてしまうかもしれないが、ここは声を大にして言う。
全然、違う。
この物語を児童書の枠だけに嵌めてしまうのは、本当にもったいない、と私は思う。
登場人物の心の細かな動きや国家というものの成り立ちの冷酷さなど、普通の大人向けの小説と遜色なく、いや、場合によってはより巧みに描かれている。
そして、その舞台となる自然背景の描写の素晴らしさ、臨場感は抜群だ。
上橋さんはこの小説をきっと子ども向けには書かれてはいない。
というか、子どもたちを子ども扱いしていない。対等な読者だとみなして、その上でわかりやすく平易な言葉を使って書かれているのだ。
小説世界を表現するのに、いつも難解な言葉は必要ではない。子どもにもわかる言葉で、充分に伝えることができる。
「精霊の守り人」はこれ1巻で読み切りとしても良しと出来るほど完成された作品だが、実は続編があって全10巻ある。
新刊が出るのを待ちかねて書店に買いに走り、子どもらと競い合うようにして読了した。
おそらく三十路前、がさつで粗野、およそファンタジーの主人公には相応しくないが、とことん強く優しく、そしてときには弱い、でも格好いいバルサ。
繊細でひ弱で、それでも過酷な運命に翻弄されながら成長していくチャグム。
それを取り巻く他の登場人物たちも、誰1人としておざなりで雑な扱いはされておらず、丁寧に語られている。
物語が厚く深く広い。
まるで大河ドラマ、歴史小説のように。
ファンタジーに少しでも興味ある方、無くても何か新しいジャンルに挑戦しようかなと思っている方にぜひ読んでいただきたい。
以前、藍さんと言われる方がやはり上橋菜穂子さんの作品をnoteで紹介しておられて、とても嬉しかった。
藍さんは他にも上橋作品の「獣の奏者」と「鹿の王」も紹介されている。私もこの2作は大好きで何度も読んだ。
藍さんの文章は上橋菜穂子さんのそれのように静謐でとても穏やかだ。
本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。
上橋菜穂子作品に巡り合わせてくれた児童書頒布会(メルヘンハウスという名前だった)に深く感謝する。
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