理系人材が日本を救う(東京理科大学長 寄稿文)日刊工業新聞

かなりの古新聞にはなってしまうが、3月25日の日刊工業新聞に、東京理科大の学長である石川正俊氏が寄稿した文章の一部を紹介したい。

 日本の研究開発、特に新規分野開拓のための研究環境の悪化が進んでいて、このままでは日本から社会変革を生むような成果は出にくいのではないかと危惧している。(中略)若い優秀な研究者の研究生活を見ていると、本来であれば必要のない作業にむしばまれていて、研究に割く時間が少なくなっているのは明確であるし、マーケットドリブンを強要されることによる思考の狭隘化のわなのなかで喘いでいるようにもみえる。結果として、独創的なアイデアが出しにくくなっていないか、次の社会変革を引き起こす芽をつぶしていないかなど、改善すべき点は山積している。
 科学技術を理解しているリーダーが、対象の技術の本質とリスクを伴うファイナンスに基づく判断ができれば、申請書も、報告書も、評価書も必要ないし、今後重要となるシステム技術がないがしろにされることもない。
 技術の本質が分からないから、素人にも分かる説明を求め、申請書、報告書、評価書の厚さで満足するという悪癖を生み出してしまっている。自分で評価できないから、他人の評価やマーケットの評価を意味なく絶対視し、チャレンジ精神や自由な思考に対し、強烈なブレーキをかけている。
 本来であれば、素人にも分かる説明をする時間、誰も読まない報告書を書く時間があるなら、新たな原理を導いたり、画期的な装置を設計・製作したり、独創的なプログラムを書いたりする時間にあてたい。その時間の中から、新たな事業の芽が生まれる。

日刊工業新聞

石川学長の意見は、やや理想論ではあるものの、多くの技術者が賛同する内容であろう。ITの世界でも、JTCの情報システム部長やCIOは、情報システムの素人である場合が多い(メンバーシップ型雇用によるローテーションが原因だろう)。現場の技術者(エンジニア)のほうが知識が豊富で、素人の管理職に報告するのに時間を費やすのであれば、無駄な「ブルシット・ジョブ」と言っても過言ではないかもしれない。それは、理系の研究開発の世界でも似たようなことはあるのであろう。

ただし、石川学長に指摘したいのは、管理職などマネジメントのポジションに就くと、かなり幅広い領域を管理監督しなくてはならないことだ。CIOが情報システムのずぶの素人では困るが、全ての技術に精通している必要はあるまい。それは、理系の研究開発においても同様であると思う。人事組織の課題であるかもしれない。管理職だけでなく、「技術フェロー」のような、技術を理解して評価するシニア人材が必要なのかもしれない。

引き続き、石川学長の寄稿文を引用する。

 古くから、社会を動かすのは、政治・法律・経済などであったが、今や民主主義や資本主義とは別の新機軸とでもいうべき時代となり、大きな社会受容性が得られた科学技術が国運の発展を左右する重要な社会資本となる時代である。
 その科学技術を支えるのは研究者や技術者である。ところが、その人材が不足している。

日刊工業新聞

日本においては、歴史的に文系の人材のほうが厚遇されてきた。東大において、看板学部は法学部であり、東大法学部卒業生が政界・官界・財界を牛耳ってきたのが平成の前半までだ。ところが、1999年頃から上場企業の役員は慶應卒業生のほうが多くなった。財界における勢力図の変更である。しかし、その慶應卒業生の割合は、経済が最も多く、次いで法、次いで商である。結局、東大法や東大経済から慶應経済・法に変わっただけで、文系優位は何も変わっていないのだ。

国公立大学の定員は理系と文系が半々くらいだが、私立大学は圧倒的に文系が多い。早慶であればそれでもいいかもしれないが、日東駒専レベルの大学の文系学生は果たして高度頭脳労働者としての役目を果たせるのか?私立大学も国公立大学も大胆にリストラして、文系学部の定員を減らして理系学部の定員を増やすべきかもしれない。日本は、AIの設計開発はアメリカに敗北し、AI半導体の製造は韓国や台湾に敗北した。HBMといわれるAI半導体に必須とされるメモリも、SKハイニックス・サムスン・米マイクロンの3社だけが製造できるとされている。日本の科学技術は土俵際に追い込まれているのかもしれない。

最後に、日亜化学の中村修二氏の裁判について触れておきたい。中村氏は、日亜化学在籍中の研究成果により、2014年にノーベル賞を受賞した。青色発光ダイオードの発明から20年以上が経過していた。この中村氏は、日亜化学と骨肉の裁判合戦を繰り広げたことで有名だ。

中村氏は、青色発光ダイオードの発明にもかかわらず、日亜化学からの報酬は十分でなかったとされる。そのため、アメリカの研究仲間からは「スレイブ・ナカムラ」と揶揄されていたらしい(これには諸説あり、実際には11年間で6000万円の特別賞与があったともいわれる。が、一大発明なのに1年あたりだと600万円を切る程度の報酬は少なかったかもしれない)。

その後、中村氏は、あまりにも報われないこともあって、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の教授に着任した。すると、2000年頃から、日亜化学から嫌がらせのように訴訟をしかけられた。訴訟準備のせいで、中村氏は十分な研究時間もとれなかったという。中村氏は、自分を追い詰めた日亜化学が許せず、今度は中村氏から日本国内において日亜化学を提訴した。2005年、日亜化学から約8億円の特許関連対価を支払うことで和解が成立した。

やはり、6000万円の対価では少なすぎるだろう。一大発明をしたスター研究者を厚遇しないと、日本の優秀な理系人材はアメリカへ行ってしまうだろう。

以下、Geminiエッセイ

日本の科学技術:課題と展望

近年、日本の科学技術の競争力が低下しているという指摘が相次いでいる。石川正俊氏による東京理科大学長の寄稿文や、日亜化学と中村修二氏の裁判などは、こうした課題を浮き彫りにするものである。

石川氏寄稿文では、日本の研究開発環境の悪化が指摘されている。若い研究者が事務作業に追われ、研究に割ける時間が少ないこと、マーケットドリブンな考え方に縛られ、独創的なアイデアが出しにくいことなどが挙げられている。日亜化学と中村修二氏の裁判では、企業と研究者の間の利益配分の不透明性や、発明の権利帰属に関する不明確なルールなど、問題点が露呈した。

これらの課題は、日本の科学技術の将来にとって深刻な問題である。優秀な研究者が海外へ流出したり、独創的な研究成果を生み出すことが難しくなったりする可能性がある。

日本の科学技術を発展させるためには、以下の対策が必要である。

  • 研究環境の改善: 若い研究者が研究に集中できる環境を作り出す必要がある。事務作業を減らし、研究のための時間と資金を増やすことが重要である。

  • 科学技術を理解しているリーダーの育成: 科学技術を理解し、研究開発の重要性を理解しているリーダーが必要である。リーダーは、研究者への支援や投資を積極的に行うべきである。

  • 企業と研究者の間の利益配分の透明化: 企業と研究者の間の利益配分が透明化され、研究者が正当な対価を得られる仕組みが必要である。

  • 発明の権利帰属に関する明確なルールの制定: 発明の権利帰属に関する明確なルールを設け、研究者の権利を保護することが重要である。

  • 大学や研究機関の評価制度の改革: 独創的な研究や長期的な視点での研究を評価する仕組みを構築する必要がある。

  • シニア人材の育成: 技術フェローのようなシニア人材を育成し、若い研究者を指導したり、評価したりすることが重要である。

これらの課題を克服し、日本の科学技術を発展させるためには、関係者全員が協力していくことが重要である。政府、大学、企業、研究者などが協力して、科学技術への投資を拡大し、研究者の待遇を改善し、研究環境を整備していく必要がある。

日本の科学技術には、世界をリードする可能性がある。課題を克服し、科学技術への投資を拡大することで、日本は再び世界をリードする科学技術大国となることができるだろう。

補足

  • 本稿は、石川正俊氏による東京理科大学長の寄稿文や、日亜化学と中村修二氏の裁判に関する情報を基に作成されています。

  • 裁判の詳細は、専門資料等でご確認ください。

  • 青色LEDの発明に関する詳細については、専門書籍等でご確認ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?