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ドキュメンタリー映画『夜明けへの道』感想/国軍の圧政を受けるミャンマーのリアル

2023年制作(ミャンマー)
英題:Rays of Hope
監督、脚本、撮影:コ・パウ
配給:太秦
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(人名は敬称略)

2021年の軍事クーデターにより、市民の生活が脅かされるミャンマー。俳優・監督として活躍していたコ・パウは、平和的抗議活動を行なっていたが、指名手配され、身を隠し逃亡する身となった。

本作は、コ・パウ自身が撮影し、今起こっていることを世界に伝えようと制作したドキュメンタリー映画である。

冒頭、SNSに投稿されたコメディ動画が流れ、何を見せられているのかと最初は戸惑った。しかし、このような動画を投稿することも、危険になってしまった、またこのような動画を撮っていられるような日常ではなくなったということを表しているのかもしれない。

先に言っておくと、『夜明けの道』はドキュメンタリー映画として、クオリティが高いわけではない。十分な編集・撮影ができる環境ではなかったとはいえ、音楽などを用いたコミカルな演出はあまり良いとは思えない。

また、空爆にさらされ、家族を失い「なぜこのような目に?」と泣き叫ぶ人々は痛ましく、あまりの非豪さに怒りを感じる。そのような悲痛な映像もある中で、コミカルな演出が入ってくると、チグハグさに困惑してしまう。


演出がやや気になるものの、ミャンマーで今何が起きているのか知る意味では見てよかったと思う。ドキュメンタリーの内容について見ていきたいが、その前に2021年のクーデターが起きる以前のミャンマーについて触れておこう。

19世紀まで遡ると、ミャンマー(当時はビルマ)はイギリスの植民地下にあった。20世紀に入り、第二次世界大戦時、日本が侵攻し占領。日本が敗戦後は、再びイギリスの統治下に戻る。

ビルマ連邦共和国として独立するも、1962年にクーデターが起き、社会主義の政党による独裁政権になる。74年にはビルマ連邦社会主義共和国と国名を変えている。この頃は米ソ冷戦の真っ只中であり、その影響があったのだろう。

88年、民主化運動により当時の政権が崩壊するが、その後すぐにクーデターによって軍事政権に逆戻りする。国名もこの時にミャンマー連邦になっている。そもそもミャンマーは多民族国家であり、その多くをビルマ民族が占めている。

イギリスから独立後も軍事政権の独裁が長く続き、民族紛争も絶えず続いている。特に近年国軍による少数民族への圧政はひどくなっている。この背景が今のミャンマーにも大いに影響しているのだが、それについては後ほど。

1962年、88年とクーデターが起き、2021年のクーデターは3度目のクーデターとなるわけだが、その前にミャンマーに大きな転機がやってくる。それが、2011年である。

2011年の総選挙により、軍事政権が退き、民主化の政党による民主政治が行われるように。長らく投獄されていたアウンサン・スーチーをはじめ多くの政治犯が釈放される。

しかし、アウンサン・スーチー率いる民主派政党も、仏教徒が大半を占め、宗教的な圧力もあり、イスラム教徒のロヒンギャをはじめとした少数民族に対する誠実さを欠いていた。民族紛争は収まらず批判もあって民主派政権と倒れ、2021年のクーデターへと繋がっていく。

※かなり駆け足かつざっと調べた程度の知識なので不十分なところもあると思うが…ご了承いただきたい。


ドキュメンタリー映画『夜明けへの道』は、コ・パウ監督が、2021年のクーデターを受け、平和的な抗議活動を展開し始めた。

一人一人のメッセージが大事であることは勿論そうだが、監督・俳優として知名度のあるコ・パウが平和的抗議活動を通しメッセージを発信することは、抗議活動を展開する仲間たちにとって心強いものであっただろう。

しかし、それ故にコ・パウは国軍に目をつけられてしまう。友人を頼って軍から逃げる生活をしていたが、ある日、隠れ家に国軍が侵入してきた。幸い、コ・パウは外出していた。友人にこれ以上迷惑もかけられないと、国軍の支配が及ばないジャングルの民主化勢力に合流することを決めた。

一方、妻と子供は街に残ることに。妻子に被害が及ぶ可能性も、会えなくなる危険もあった。それでも民主化運動に身を投じたのは10年という短い間であったが、民主政権のもとで自由を享受したことにより、元軍事政権には戻れないという思いと、次世代のためにも自分たちの代で終わらせるべきだという思いがあった。

命の危険を顧みず、撮影し、世界に届けようとしたのは、そのような背景があるからである。多少段取り、編集に難はあるが…ジャングルに逃れるまでの日々や、キャンプでは武器なども十分にないまま、それぞれの能力を活かして助け合って生き抜く様は希望として映った。

一方で、残された妻子は、仕事をしていただけなのに家を爆撃されている。助けて欲しいと悲痛な叫びを動画で訴えていた。市街地に残る人々や、地方の村では無差別な空爆に晒され、多くの市民が命を落としている。

世界中のどこでも変わらず、紛争、戦争地帯では若い男性は武器を取り、残された女性、子供、老人が無差別な攻撃に晒され、命を落とし続けている。

普通に生活しているだけ、何も悪いことをしていないのになぜ攻撃を?と叫ぶ妻の姿に『ガザの美容室』を思い出した。

ミャンマーのクーデターの背景などがどうしてもわかりにくい部分があったが、世界に知って欲しいという監督の強い思いが伝わり、見て良かったと感じるドキュメンタリーであった。

なぜこんなことができる?と問い続けても仕方ない。自分に出来る人道支援をしなければならないと強く感じた。


さらに、NHKのクローズアップ現代で放映されたドキュメンタリー『ミャンマー潜伏1000日の記録 “見えない戦場”はいま』についても触れていきたい。

『夜明けへの道』にも使われていた映像があったりと、かぶる部分もあるが、こちらはNHK制作のドキュメンタリーであるので、日本人にも分かりやすいようミャンマーのクーデターの背景についても順を追って説明している。

また、映画で映し出された今のその後を追っている。そのため、長引くジャングル生活によって武器不足や食糧不足など、人道支援に頼らざるを得ないがそれも十分ではない現状を浮き彫りにしていた。

1番興味深かったことは、民主派勢力が軍の支配地域を取り返している現状とその背景についてだった。ジャングルに逃れた若者らは当然戦闘経験もなく、訓練体制も万全ではない。そんな彼らを助けたのは、2021年のクーデター以前から軍に抵抗していた少数民族による武装勢力だというのだ。

分かり合えていなかった少数民族と、大部分を占めるビルマ民族が分かり合えるようになったのは、対話を通して互いを知るようになったこと、敵が国軍であることが共通していたからであった。そして、軍による圧政を市民が受けたことで、少数民族が今まで行われていたことをビルマ民族も目の当たりにしたことも大きかったという。

民主派勢力・国民統一政府の幹部と、少数民族・カレン民族同盟の議長が、2024年5月緊急来日し、NHKの取材にも受けていたことにも驚く。

国際社会の立場からすると、ロシアによるウクライナ侵攻は国際法違反であるが、ミャンマーの場合は国内の紛争であるため介入しにくいという。何とも都合の良い言い訳だなと思うが…国際社会などそんなものだろう。

ドキュメンタリー映画『夜明けへの道』と、NHKのクローズアップ現代『ミャンマー潜伏1000日の記録 “見えない戦場”はいま』を合わせて見て、色々学んだことをざっとまとめただけの支離滅裂な文章になったが、今後も情勢を見ていきたいと思う。



以下、参考まで。

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