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日活ロマンポルノ『ラブ・ハンター 熱い肌』ネタバレ感想/サディスティックな夫の支配からの解放

1972年制作(日本)
監督:小沼勝
キャスト:田中真理、相川圭子、吉沢健、織田俊彦、水木京一

©︎日活

(監督・俳優名は敬称略)

私は田中真理が好きである。決して演技が上手い訳ではないが、キリリとした瞳が良い。

田中真理は、出演作が立て続けに警視庁に摘発され、裁判に臨んだりしていた関係で日活ロマンポルノで女優として活動した期間は一年半と短い。それでも後世に残るような作品に出演し、私のような平成っ子が田中真理に出会うに至る。

監督は小沼勝。昨年のはじめ(2023年1月22日)訃報のニュースがあったばかりである。『夢野久作の少女地獄(火星の女)』の監督でもある。『夢野久作の少女地獄(火星の女)』は、ホラーさながらのインパクトのある演出に驚いたものだが、本作もかなりシュールで変態的な映像の連続であった。

日活ロマンポルノは、シュールでとんがっていればいるほど素晴らしい、と私は思う。本作も凝った演出が良い。凝ったというよりもやりたいことを詰め込んだ印象ではあるが…。日活ロマンポルノは、強引な言い方をしてしまえば、エロさえあれば脈絡のない展開であっても何ら問題ないのだ。

『ラブ・ハンター 熱い肌』で田中真理は初めて人妻の役を演じている。田中真理演じる矢野志摩子は、かつて自身が運転する車で事故に遭い、助手席に乗っていた夫は不能になってしまった。夫への罪悪感から離れられずにいた志摩子だったが、ハイウェイで男2人、女1人の3人組を乗せ、後部座席で男女が絡みはじめ、周一と名乗る男に触れられ、欲求不満がおさえられなくなっていく。

志摩子が不貞へと走る一方で、夫はサディステックになっていく。SMもありつつ、志摩子が夫の支配下から抜け出していくという奇妙な爽やかさのあるエンディングをむかえる。

では、本作の印象的であったシーンについて触れていこう。まずは、妻の独白である。裸体に手形など影をあしらった、一見するとアーティスティックな演出は、アラン・ロブ=グリエの『快楽の漸進的横滑り』のアニセー・アルヴィナを想起するが、本作は『快楽の漸進的横滑り』よりも前に制作、公開されたものである。とはいえ、フランス映画などのアーティスティックな絵作りに何らかの影響を受けていそうな気も。

周一らが金の無心にいく劇団員のような連中が行っているパフォーマンスもなかなかのインパクトであった。裸同然の男女が異様な体制で絡み合うという芸術なのか、単なる変態趣味なのか…。そういえば、『Arc アーク』で最初主人公がアングラなショーでダンスを披露していたが、それっぽい海外のコンテンポラリーダンスの模倣のようでセンスがなかったな、ということを思い出した。本作とはさして関係性はないのだけれど。

そんなことはさておき。本作に限らず、日活ロマンポルノに言えることかもしれないが、カメラアングルやタイトルバックがとても凝っている。本作において印象的なのは無音の使い方だ。周一らが、志摩子と元恋人の車の中での行為を覗き見している場面で、車の中から覗き見している彼らの視点になった瞬間に無音になる。更に、夫が志摩子の不貞を覗き見している場面でも無音の演出がなされている。

無音の他に、志摩子と周一の行為のなかになぜか黄色の風船が乱入しているという演出がある。これは恐らく、覗き見にしている夫の存在を抽象的に表すために風船を用いたのではないか。いや、もしかしたらさほど意味はなく、行為の最中に何の脈絡もない風船が転がっていたら面白い絵になる、というだけのことかもしれない。

それとも、『世にも怪奇な物語』のオマージュ?と考えたりしたが、流石に考えすぎな気も。良い機会なので話しておくと、『世にも怪奇な物語』は、エドガー・アラン・ポーの小説をロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニがそれぞれ映画化した3話からなるオムニバスホラーである。特にフェデリコ・フェリーニが監督した、「悪魔の首飾り」は様々な映画に影響を与え、オマージュされた名作である。

次第に気が触れていく男を描く「悪魔の首飾り」は、男が目にする得体の知れぬ、存在するかもわからない美少女が異様な存在感を放ち、とにかく恐ろしいのである。その少女が持っていたのが白いボールである。ニッと笑いながらこちらをギョロリと見つめる少女は見覚えあるかもしれない。

とにかくやりたいことを詰め込んだ本作、田中真理はサディスティックに目覚め始めた夫によって縛られ、なぜか蝋燭をくわえさせられるというよくわからないシーンから、「関係ないわ」という時の口が可愛いと言われて鏡の前で練習したり。確かに練習する田中真理は可愛かったが…。真剣に見れば見るほど何だこれは、と思うようなところも、日活ロマンポルノの良さだったり。

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