矢澤利弘

アルジェント研究会代表、県立広島大学教授、博士(学術)。1965年東京生まれ。07年に…

矢澤利弘

アルジェント研究会代表、県立広島大学教授、博士(学術)。1965年東京生まれ。07年に発表した『ダリオ・アルジェント 恐怖の幾何学』は映画監督ダリオ・アルジェントに関する日本で初めての本格的研究書として注目を集める。映画や映画祭に関する寄稿、論文多数。

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    イタリアのホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェントの作品を中心とする解説動画です。

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ローマを描かないローマ人

映画監督ダリオ・アルジェントはローマ生まれでローマで育ったローマ人である。だが、彼の作る映画には典型的なローマらしい風景がほとんど出てこない。ローマを舞台とした映画であってもむしろローマらしさを意図的に避けているきらいがある。 『サスペリア』はドイツ、『フェノミナ』はスイス、『トラウマ』は米国が舞台だからローマが登場しないのは当然として、デビュー作『歓びの毒牙』、代表作『サスペリアPART2』は舞台がローマである。『インフェルノ』にもローマのパートが出てくる。これらの映画の

    • 美しい魔女

      ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』『インフェルノ』『サスペリア ・テルザ』は3人の魔女を描いた魔女三部作と呼ばれている。 『サスペリア』はドイツに住むマーテルサスピリオルム、『インフェルノ』は米国ニューヨークに住む最も残酷な魔女マーテルテネブラルムを描いていた。 『インフェルノ』ではローマのパートで謎の美女がチラチラと登場する。 音楽大学の教室に何故か猫を抱いた妖艶な美女がいて主人公の男に視線を送る。セリフひとつもないこの女性はいったい誰なのか。映画の中では明示さ

      • 蛍に導かれて

        ダリオ・アルジェント監督の『フェノミナ』には昆虫と意思疎通できる超能力を持つ主人公のジェニファーが蛍に導かれて昆虫学者の家にたどり着くというシーンがある。 ブライアン・デパルマの『キャリー』や『フューリー』とは違って、アルジェントの映画に出てくるキャラクターの持つ超能力は控えめに使われるだけだ。超能力で相手を直接攻撃したりはしない。そこでキャラクターを生かしきれていないなどという批評がなされる場合がある。 だが、いつも自分の強みを活用して生きている人間などいない。例えばピ

        • 比べられるふたり

          ヒッチコックの後継者としてプロモーションされていたのがダリオ・アルジェントとブライアン・デパルマである。 面白いことにふたりとも1940年9月生まれ。凝った映像テクニックが特徴だとされている。 1970年代中盤で、アルジェントは『サスペリアPART2』『サスペリア』、デパルマは『ファントム・オブ・パラダイス』『キャリー』を発表、その存在を世に知らしめた。 アルジェントは『ファントム〜』に出ているジェシカ・ハーパーを見て『サスペリア』の主演にオファーしたとされている。

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        記事

          シャドー、滑らかに動くカメラワーク

          ダリオ・アルジェント監督の『シャドー』はタイトルとは裏腹にまばゆい光で満ちあふれている映画である。夜でさえも強いライトで照らされて非常に明るい。 この映画にはレズビアンのふたりが犯人に連続して殺されるシーンがある。そのときのカメラの動きがすごい。窓から外を見る女性を捉えたカメラは滑らかに動き、壁や屋根をなめるように撮っていく。 このなめるように動くカメラワークが魅力的なのだが、アメリカ公開用の短縮版ではばっさりと切られていた。筋書きとは関係ないからだろう。かわいそうなアメ

          シャドー、滑らかに動くカメラワーク

          ブラッククイーンのあっけない最期

          ダリオ・アルジェントの映画はたいていあっけなく終わる。何かがストンと落ちるようにパッとエンディングを迎えてしまう。 『サスペリア』で人々の命を奪い、自分の強さを豪語していた魔女は、あっけなく主人公のスージーに刺し殺されてしまう。 『インフェルノ』の魔女も、鳴物入りで登場するけれども、あっけなく焼死する。 盛り上がらないとの批判もあるが、夢というのは突然に醒めるものである。 ダリオ・アルジェントの映画は夢がベースとなっているのだからこれでいい。

          ブラッククイーンのあっけない最期

          怖い窓ぎわがいっぱい

          ダリオ・アルジェント監督の映画は硝子窓のそばが怖い。今までの絵の中間報告です。 オリを見てもう少しアルジェント作品の怖い窓ぎわシーンを描いてみよう。

          怖い窓ぎわがいっぱい

          ニューヨークの古いアパート

          ダリオ・アルジェント監督の『インフェルノ』は全世界を支配する3人の魔女の物語である。壮大な設定だが、この映画に登場する場所は決して多くはない。 ニューヨークとローマが映画の舞台となっているけれども、ニューヨークのパートはもっぱら主人公ローズの住む古いアパートだけで物語が進行する。そのほか隣の骨董屋とセントラルパークが少しだけ出てくる。 ローマのパートでは、音楽大学の教室、図書館、サラのアパートぐらいが舞台だ。 その中でニューヨークの古いアパート(グルジェフ館)の周辺は自

          ニューヨークの古いアパート

          図書館の地下

          ダリオ・アルジェント監督の『インフェルノ』(1980)には主人公の友人の音楽大学生サラが図書館に行くというシーンがある。 閉館時間が近くなり、サラは出口へ向かう。だが、道に迷ってしまい、地下の謎の空間で怖い目にあう。そこには錬金術師のような男がいて、無断で本を持ち出そうとしているサラに襲いかかる。 なんだこれは?と思うかもしれない。だが、少なくてもこの時点で、この映画はおとぎ話なのだと気づく必要がある。 アルジェントの映画はおとぎ話をいかにも現実のように描く。あるいは現

          図書館の地下

          ガラスに両手を付けるマーク

          ダリオ・アルジェント監督の『サスペリアPART2』には霊能力者のヘルガが手斧で斬られ、ガラス窓にぶち当てられて殺されるというショッキングなシーンがある。 斧とガラス窓という組み合わせは『シャドー』で書評家が殺されるシーンでも繰り返される。 さて、登場人物がガラスに手を当てるという動作は監督デビュー作『歓びの毒牙』の画廊の二重の自動ドアのシーン以降、ダリオ・アルジェントの映画にはしばしば登場する。『サスペリアPART2』でヘルガが絶命する直前にも彼女は両手を窓ガラスにべった

          ガラスに両手を付けるマーク

          惨劇の前兆、サスペリアの窓

          ダリオ・アルジェントの映画には、窓ガラスを割って犠牲者が外に飛び出してくる描写が複数ある。 一番有名なのは『サスペリアPART2』で霊能力者のヘルガが殺されるシーンかもしれない。『フェノミナ』でも犠牲となる少女が犯人に槍で突かれ、窓ガラスを割って、夢遊病の主人公ジェニファーの眼前で殺される。 そんな中、『サスペリア』に出てくるガラス窓も魅力的だ。 窓の外から部屋の内部を写すこんなカットがあると、きっと登場人物は誰かに監視されているのではないかという感覚がめばえる。そして

          惨劇の前兆、サスペリアの窓

          サスペリアのこわい顔

          ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』にはバレエ学校を逃げ出してきた女子学生が友人のアパートに逃げ込むというくだりがある。そのアパートで女子学生は何者かによって殺されてしまう。 殺される前、犯人の毛むくじゃらの手によって彼女は顔を窓ガラスに押し付けられてぐちゃぐちゃの顔になる。こんな感じだ。 このシーンの絵づくりはイギリスの画家フランシス・ベーコンの自画像の絵を参考にして演出されている。確かにベーコンの変形した顔の絵を思い出させる。 『サスペリア』は全編が美術館のよう

          サスペリアのこわい顔

          サスペリアPART2の硝子窓

          ダリオ・アルジェント監督の映画はどこをとっても絵になる。もっともアルジェントは絵画を参考にして映画の画面設計を行ったりしており、絵画→映画という変換がなされているシーンもたくさんある。 窓の外から室内で行われている殺人事件を目撃してしまうという設定も複数の作品で用いられている。 例えば『サスペリアPART2』の霊媒師ヘルガが殺されるのを主人公のピアニスト、マークが窓の外から目撃するシーンだ。 ガラスをはさんで観客が惨劇を目撃するダリオ・アルジェント作品にはそのほか、『歓

          サスペリアPART2の硝子窓

          クラウディオ・シモネッティのコメント

          2年ぶりに開かれたゴブリンのライブを聴きに川崎のクラブチッタへ行ってきました。今回の映画はデモンズ。映画に合わせてサントラを生演奏するという恒例のコンサートです。大迫力でした。 終了後のディナーでリーダーのクラウディオ・シモネッティにコメントをもらいました。

          クラウディオ・シモネッティのコメント

          赤いハイヒールの回想

          ダリオ・アルジェント監督の『シャドー』には、ある青年が赤いハイヒールを履いた女性に虐げられる様子を描いた回想シーンがある。女性の取り巻きの男たちに体を拘束された青年は、その女性にハイヒールのかかとをぐりぐりと口に入れられて顔を踏みつけられる。悪夢のようなシーンである。 この描きかけの絵はこのシーンから着想を得た。映画とは雰囲気が全く違うが、見る人が見ればわかってしまう。 ダリオ・アルジェントの映画は表面的には残酷な描写で満ち溢れている。だが、映画の本質は単にホラーというジ

          赤いハイヒールの回想

          タクシーに乗る

          ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』では映画の冒頭で主人公のスージーが雷雨のなかタクシーに乗って入学予定のバレエ学校へ向かう。次の作品『インフェルノ』でもサブキャラクターのサラが雨のなかタクシーに乗って図書館へ向かう。 両作とも、タクシーに乗った登場人物たちは車を降りた瞬間から悪夢の世界に入り込む。 極彩色の光に照らされながら、彼女たちは別の世界への短い旅をする。ダリオ・アルジェントの映画に出てくるタクシーは異次元への移動装置として機能する。

          タクシーに乗る