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その手を


小さく柔らかい手

すべすべとした頬

すやすやと眠る姿

じっと見つめて
指で撫でて

どうかゆっくり大人になってと
叶わない願いを呟いた



ーゆっくり、大人になるんだよ

子供がまだ小さかった頃
誰かが我が子にこう呟いた言葉


その時の自分は毎日を越えるのがやっとで
到底そんな風には思えない自分を少し責めて
やるせない気持ちが胸に刺さって
落ち込んだりもして


あれから本当に色々とあってね
自分だけが暗い穴の中から出られない様な気もしていた

でもね、毎日は待ってはくれないから
流されながら、その時に出来る事をして来たつもり


流れに流され、たどり着いた今

子供と2人で手を繋いで写真撮って

手を引いて歩いていたのが
いつの間に、隣に並んでいたんだろうなんて驚いて

気付けば、彼は彼になっていて
私は母であり、私になっていた

昔の写真を取り出し見てみれば
確かに、我が子は私と一つだったはずなのに

手を繋いでいても、今の彼は彼なのだ



いつか、その寝顔の頬には髭が生えるでしょう

いつか、その頬を撫でさせてはくれなくなるでしょう

いつか、この柔らかい手を繋ぐ事は出来なくなるでしょう

部屋は、きっと
いつでも片付いているのでしょう

寂しくて、誇らしくて
自信が溢れて

すっかり違う自分になってしまって


今は、君は大人のにおいがする子供で
私は子供に戻って行く大人になれた

こうしていつも一緒だった魂が、反対方向へ進んでいくのね

嬉しくって、寂しい


片付いていない事が気になりながら

もう少し先に行きたい
でも、今はこれでいいんだ

そんな繰り返しが育児だと思うから


半分くらい、親になれた気がする

今はこんな親で勘弁して

それでも、今なら言えるから

ーゆっくり大人になって
どうか、急がないで

寂しいじゃないと



akaiki×shiroimi

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