欠けた三日月、月割る兎
あの人が
この人が
だってあの人は
『誰かが...』
想い飛び交う、渦の中
溢れ出す物を掻き分けて
それをこの身から剥がそうと腕を振ってもがいていた
どうしたってこんなに四方八方からやって来る濁流に流されそうになるのだろう
閉じていた目を開けて、腕や体やらに絡まる物を目にすると
『誰かが..』
そればかりがあちらこちらに張り付いていた
するりと腕を落ちて行く、正体を見破られた『誰かが』と言う自分のものでは無い想い
掻き分け、目を細めて見たその向こうには
確かに『私は?』と言う答えが見えた気がした
ああ、これが必要だったのか…
ー私は、どうしたい?ー
誰かがとか、世間一般とか、いい人ぶってとか
そんなんじゃなく
今ここに
この時に
そして、どんな時も必ず
いつでも、眠っている答えがちゃんとここにあるはずなんだ
本当はそれを知っていたんでしょ?
感じていたはず
私は私にそう問いかけた
『私は』
思えば、この想いが『誰かが』よりも心や頭の奥の方に埋もれてしまっているのは
『私は』よりも
『誰かが』を感じなければいけない環境を生かされて来たから
ただ、それだけのことで反対だったのなら良かったのにと思ってしまう
子供の頃から『誰かが』の方に目を向けるのが当たり前だったからか
そちらを感じる方が上手くなり
上手くなればなるほどに、『私は』は奥に押し込められて行く
だからと言って、自分の本心をわかっていなかった訳ではない
ただただ、『誰かが』ばかりに目を向けてしまっていた
それだけだった
おかげで、人といるのは居心地が悪く
人付き合いは、いつも疲れるものだと思って来た
一人の方が楽
だけど
本当は、もっと上手く付き合えたのならと思いながら…
人生とはおせっかいで親切
私の本心を見抜くように『そんな癖は自分のために捨てなさい』とでも言うかのように使者を送り込む
『誰かが』ばかりに目を向けていた私の前に送られて来たのは
『私は』しか持っていない人だった
心を揺さぶり、揺り起こされる
痛くて、イライラして、とにかく沸騰しそうな気持ちが
まだだ、まだだと煽られるように溜まり続けて行く
どうしたって、イライラばかりに目を向けて
気づけることがなかったからか、環境はいつまでも変わることがなく
とうとう環境が私を変えようとテコを入れる
嘘をついていた
本当は…
その先の言葉を並べたのは、とうとう最後の一突きが尋ねて来てから
大きな剣で最後の一突き
とうとう、背中まで貫通した剣
胸から吹き出る血がスローモーションで見えた時
葛藤の濁流の中で、私のもの以外の想いに溺れて終わって行くのが見えた
最後まで、その人は『私は』だけで生きていた
溢れ出した『誰かが』と言う想いが粉々に散らばって行く
捨てられた『誰かが』
嘘をついていた『誰かが』
真面目に生きて馬鹿を見た『誰かが』
誰かのために
誰のために?
その積み上がった『誰かが』と言う思いの中には本物は一つだってなかった
『これは誰のもの?』
違和感を感じる
目の前に並んでいるどれもこれもに、私のものではない誰かの名前が書いてある
掻き分けて、掻き分けて
見えたもの
『そうだったね、ずっとそう想っていたんだよね
知ってた。無視してた。』
傷ついたってことは『誰かが』とそう言って、期待していたんだよね
きっと、それが間違いだった
あれから世界が欠けた
その欠けがどうなるかを、知らなくてもいいと思うようになった
灯籠を川に流すように
私は、その出来事を川に流し見送った
使者と人生が置いて行った包み紙の中に新たな道を歩く地図
『私は』を探す毎日が始まる
『自分の気持ちを大切にしなさい』
『そして、期待を捨てなさい』
また、新たな使者など送ってほしくはないだろう?とそう言って
akaiki×shiroimi
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