見出し画像

“国家権力”が、AIショート動画を拡散させる時代

まず最初に、私はAIが嫌いだ。

生活の色んなシーンで既にお世話になっていて、社会問題の解決の為にも使いようであることは分かっているつもりだけど、特にクリエイティブな創作分野に使われるのが本当に嫌なのだ。

そもそも、ワクワクしない。言葉にせよ、絵にせよ、音楽にせよ、自分で試行錯誤しながら世界に一つのものを生み出すからこそ楽しくもあり、完成品が愛おしくもあり、失敗からも教訓を得、そのプロセス自体が楽しみで生き甲斐にもなったりするものなのに、AIで瞬時にして望みのものを登場させて、何が楽しいのだろう。そして、何より不気味だ。

今回のAIの話題。そんなAI嫌いの私だけでなく、AIにポジティブな感覚をお持ちの方の多くも、その使い方に、きっと疑問を抱かれるんじゃないかなと思う。

今、処理水問題で揺れる日中関係について情報を得ようと、ネットで中国国営の新華社通信のサイトを見ていた時に、目に飛び込んできたもの。

それは、以下のような動画だった。

新華社のスマホ用サイトより


タイトルは・・・

AIGC真相 日本核染水排海 覆水遗祸
( =AIGCが語る真相 
日本の核”汚染水”放出 覆水盆に返らず 尽きることない禍い)

まず、下記のリンクで一度このショート動画を見てみてほしい。(数秒待つと一番上に動画が出てきます)


おどろおどろしい、不安感をかきたてるBGMが流れる中で、日本の処理水放出に全世界が反対し、怯えていて、全人類を危機に陥れているというトーンで日本を徹底的に批判したナレーションと字幕。

その内容もともかく、注目したいのは、画像だ。

よく見ると、福島第一に見えるものも本物の映像ではない。人々が反対のデモ行進をしているのも、これ、本物ではない。そして、真っ赤な水が太平洋中に溢れ出すグラフィック。これが何のデータかも書かれていない。汚れた浜の動画も、これ、何だろう?海に突き出す排水管、これは何?今回は海中に放出しているのに。

そう、これら、すべてAIで生成されたイメージなのだ。そして、そのことはご丁寧にちゃんとそう書かれていた。

タイトルにある「AIGC」。
恥ずかしながら何の意味か知らなかったのだが、AI-generated content=AI生成コンテンツ、ということのようだ。

動画の字幕を文字起こししただけの記事の下には、「この動画、グラフィック、解説はAIによって生成されたものです」と書かれていて、新華社の一部門が作ったらしい。記者や編集の人の名前もなぜか書かれている。彼らが監修した、ということか。


「ちょっと流行りの生成AIで作ってみました」というシロモノではない。

内容は言わずもがななので、ここではコメントしないが、なぜ、いくらでもニュース映像が入手できるであろう国営の大通信社が、こんな内容のもの、それも映像もどきのようなものをつけて、特定のイメージを強調したショート動画を作る必要があるのだろう。

この動画、新華社のサイトにあるだけなら、普通の”老百姓(lǎobǎixìng=庶民)”は、わざわざ見に行くこともないだろう。しかし、各種SNSで、どんどんと拡散させているようなのだ。私の知りあいの日本在住の中国の方も、本国の友達がこの動画などを見て、日本に対して憤り、その人に大丈夫かと心配のメッセージを送って来たとのこと。

たかがAI動画、と侮るなかれ。影響力は十分にあるようだ。

そして、このAI生成ショート動画、どうもシリーズ化しているかのようで、今度は、新華社がいつも徹底的にこきおろすアメリカについてのものが上がっていた。

曰く、
「全球190多个国家中,只有3个国家没与美国打过仗或受其军事干预。(=世界の百九十余の国の中で、アメリカと戦争をした、またはアメリカが軍事的に関与したことのない国は、3カ国だけである)」と。


ひとつご理解願いたいのは、この記事は、かの国の批判や議論をするのが目的ではないということ。

強大な権力が、特定のメッセージを伝えるために、AIを使って伝えたいイメージの映像と原稿を生成し、ショート動画として拡散させる時代が到来した、という不安感を伝えたかったのだ。

この後いろんな組織や国が後に続くと思う。うちの国は絶対にない、と言えればよいのだけれど。そしてそのメッセージが正確でない時、恣意的に歪められたものの時、個々人は冷静に判断できるだろうか。

今はまだこのレベル。映像のクオリティも、見るからに嘘だからよいけれど、今後もっと本物と見分けがつかなくなったら、どうだろう。

私だって、自分の考え方に近い言説の、こういう単純明快なAI生成動画を見たら、「うーん、やっぱり〇〇は、悪いことしてるんだな」とか、溜飲を下げて、自分の考え方が肯定されたような高揚感を味わい、自分が嫌いなものへの憎悪を増幅してしまうかもしれない。

何が本当で何が嘘かわからない時代。自分も何者かわからなくなりそうで、とても不安だ。一体どんな時代になっていくんだろう。

そういう時やはり大事になるのは、別にジャーナリズムの基本とか大それたことではなくて、なるべく自分の目で見て、耳で聴いて、心で感じて、頭で考えてから結論を出そうという姿勢を大事にすることかな、と。そして頭を柔軟にして、嫌いな意見も一度最後まで聴いてみようと。

もちろん全部はできないんだけど、本来そうしたいな、という気持ちでいると、誤ることも少なくなる気がするのだけれど、どうだろう。

とりあえずは、今こういう動きが始まっていることを、しっかりと覚えておこうと思う。


今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
AJ😀

この度、生まれて初めてサポートをいただき、記事が読者に届いて支援までいただいたことに心より感謝しています。この喜びを忘れず、いただいたご支援は、少しでもいろいろな所に行き、様々なものを見聞きして、考えるために使わせていただきます。記事が心に届いた際には、よろしくお願いいたします。