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映画「YOLO 百元の恋」 〜AJ Film Watch〜

スポーツクラブで見た一枚のチラシから

ダイエットを気にする”年頃”の私も加入している、服のままエクササイズをどうぞというのがウリの24時間オープンのスポーツクラブチェーン。いつものように仕事を終えて深夜に帰宅する途中に、服のままふらっと入って軽く運動し、さあ、出よう、という時。入り口に映画のチラシが置いてあった。

「YOLO 百元の恋」

ボクシングのグローブをはめて微笑むエクボの女性が写っている。なんだ、この映画。聞いたこともないし、YOLOって?百元って?

日本映画の中国リメイク版

チラシを見ていくと、”「百円の恋」から10年。歴代最高興収を記録した中国リメイク版”と書かれていた。

まず、「百円の恋」とは、安藤サクラさん主演の2014年の日本映画。自堕落な生活を送る32歳の女性が、家を出て100円ショップで働き始め、ボクシングと出会って成長していく話らしい。私は観たことがない。

どんな映画?

その「百円の恋」の中国リメイク版が、この「YOLO 百元の恋」なのか
ストーリーは・・・

32歳、無職で実家に引きこもるドゥ・ローイン(ジャー・リン)はある日、
出戻りの妹と大喧嘩をし、とうとう家を出る羽目に。
偶然出会ったボクサーに一目惚れしてボクシングを始めるが、試合に負けた彼はロローインの前から姿を消してしまう。残されたローインは、ボクシング大会への出場を決意するのだが・・・

同映画のチラシより

ネットで、予告編を観てみる。

なるほど。「食っちゃ寝」で、家に引きこもり、負け続きの人生だった主人公が、ボクシングを始め、壮絶なダイエットと心の変化を得ながら「一度は勝ちたい」という強い思いで一大挑戦をする話だ。

だから、スポーツジムに置いてあったのか。ジムの会社が、何らかの形で宣伝に噛んでるわけか。

ちなみに、中国語の原題は、

「热辣滚烫(rè là gǔn tàng ロォー・ラー・グン・タァン)」

熱くて辛くて・・・ 燃えるような、煮えたぎるような主人公の戦いを形容しているのだろうか。ちなみに「烫 tàng」は、鍋などが火傷しそうに熱いという時に使われる言葉。  中国で社会現象にまでなった映画なのだという。

観に行ってみた

7月5日公開とのこと。もともと、”スポ根”モノにあまり食指が動かない私。話のネタ程度にと思って観に行ってみた。映画館には、それほどの人は入っていなかったが、こちらの勝手な見立てでは、在留中国人たちと、私と同じようにあのジムでチラシを見てきたのかな、という感じのひとたちが大半のように思えたが・・・

さあ、鑑賞。感想は・・・

観る前、ストーリーには正直あまり期待していなかった。しかし・・・
ネタバレになるので、私の感じたことだけを箇条書きにしておこう。

主人公の体当たりの変身ぶりが、壮絶

主人公は、中国で絶大な人気を誇るコメディアン、贾玲(jiǎ líng=ジィア・リィン)さん。映画では「主演・監督」を務めた。

この役作りのために、本気で、50キロ以上のダイエットを敢行。まるで別人のような体を手に入れた。ルッキズムなどの問題を論じる人もいるかもしれないが、そういうことを考えなければ、単純に、尋常ではない努力であることに驚きを隠せず、単純に、すごいと驚嘆の声をあげてしまう。

自分自身の”戦い”にも重ね合わせ・・・

「スポ根」は苦手とか偉そうに言いながらも、結構熱い戦いが、実は好きな私。主人公の不屈の戦いには、ぐいぐい引き込まれた。

ボクシングのリングに上がる直前に見た鏡の中の自分は、ダメダメだった頃の自分。その自分に笑顔でグローブをはめた拳を突き出し、よしっ、と、試合に出場するシーンは、実はかなりグッと来た。

自分も、職場での組織人としての最後の戦いは、そうありたい、といつも思っていることと重なってしまったようだ。こういう私のような、単純で熱いタイプの人ならば感じるところがあるかもしれない。

中国の社会問題が散りばめられている

啃老族(kěnlǎozú=親の脛をかじる若者たち)躺平族(tǎngpíngzú=寝そべり族)など、中国の社会問題がさりげなく入っているほか、テレビの娯楽番組の裏側や、インプレッション稼ぎの軽率さも描かれている。

また、やたら親戚で助け合う美徳を誇るくせに、他人以上に結構えげつない裏切りがあったり、というのも、中国人ならではの「あるある」かもしれない。日本人でも、中国での滞在経験者には、結構響くところがありそうだ。

東北人の感じが微笑ましい

この舞台はどこの街かよくわからなかったが、登場人物はほとんどが東北弁であるように思う。

一見、バシッと直接的で、結構キツい物言いで、負けを認めない性格なのだけど、実は心優しい人が多い、中国東北部の、あの感じがわかる人には、その微妙な感じが楽しめると思う。私の中国語力では、早口の方言は聴き取りにくいところも多いが、そこは字幕がある。字幕に助けられながら、原音の感じを楽しんだ。

映像と編集が、結構良い

映像も編集も、結構面白く、飽きさせない。映像的にも伏線も各所に散りばめられていて、後でそういうことだったのかと気付かされることも多かった。

詳細は書かないでおくが、私は結構楽しんだ。

今、日本では中国というだけで色眼鏡で見る人は多く、実際私も、スタート前やエンドロールに、「国家〜」や「中共〜」などという言葉があってとても違和感を感じ、アリババやテンセントの名前に商業主義も感じた。

しかし、この映画は、そういうことを考えずに単純に楽しめればよい内容。双方で、単純に相手方の国の映画を楽しめる人が多い時代は平和な時代なのだろう。今ほど世界中が「自分ファースト」と、異質なものの排除を叫んでいなかった時代、純粋に海外のものを、政治の要素なしに面白がって見ることが多かった時代に、多感な青年時代を過ごしたためか、私はそう思ったのだった。

残念な、タイトル

最後にひとつ、私がイマイチと思ったのは、タイトル。

日本の元の映画が「百円の〜」だから、「百元の〜」なのか?それにしても、百元は今のレートだと2千円だから、全然値段が違うし(笑)、もともと百円ショップだから百円だったのだと思うが、今回の「百元」は、映画の内容とどこか関連していたのだろうか。

また、YOLO(ヨーロー)って何だろう。その答えは、

You Only Live Once=人生は一度きり。

ありがちだけれど、とても良い言葉。一度きりの人生、一度だけでいいから勝ちたい、という単純な人間の欲望。

映画の中、ボクシングジムのチラシに、「你赢过吗?哪怕一次(あなたは勝ったことがあるか?ぜひ一度だけでも・・)」と書かれていた。

しかし、邦題で「YOLO(ヨーロー)」と言われても・・・やはりほとんどの日本人にはピンと来ないし、何よりもアピールしないと思った。

あのスポーツジムに行っていない人には、おそらく広告も目にとまらないだろう映画。そういう状況では、タイトルは重要で、人を観る気にさせねばならぬのに、ちょっとこれでは残念!

以上、つらつらと、脈絡なく感想を書いてみたが、今夜も、そのスポーツジムで、服のまま、ちょこっとだけ、惰性でエクササイズする私。映画に触発されて、一念発起してみるとするか。猛暑で疲れたなんて言い訳はさておいて、、

いや、多分自分が今一番やりたいこと。それは、ダイエットがどうのではなくて、今の状況を乗り越えて、残りの人生、自分のやりたいことをやれるようにするために、死にものぐるいで闘うこと。

今の自分は、全力を出せているのか、いやまだまだ出し切ってないだろう、と。出さないと、と。それが、この映画を観た後に、自分の中に湧き出てきた思いだったように思う。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
AJ 😃










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