夜はやさし。そして、朝もまた(Morning Sun/清竜人)

例えば。
それは、たった1コのリンゴで変えられるのかもしれない。





リンゴが、1コしかない。


ああ……。また、焼きリンゴのトーストを作ろうと思っていたのに。……んん。でも、この前も1コしか使わなかったんだっけ? じゃあ、大丈夫だよね。今度は、乱切りじゃなくて、いちょう切りにしてみよう。そっちの方が、火の通りがいいからね。……パートナー、喜んでくれるかな。


朝をとびっきりにするために必要なものって、そんなに無いと思う。
焼き立てのトーストに、半熟のベーコンエッグ。それから、プチトマト。もしくは、リンゴ。


リンゴは(というより、果物は)安いものじゃないので、あんまり買うことが無い。じゃあ、どうしてここにあるの? と訊かれたら、ピース・オブ・ケイク。たまたま、安くなっていたから。それだけだ。


この前、焼きリンゴのトーストを作ってみようと思い立ったのも、たまたまだ。せっかくリンゴがあるんだから、乗っけてみるのもいいんじゃないか。それくらいの気持ちで。


出来上がるまでは、だれにも見せない。だれにも……っていっても、他にはパートナーしかいないんだけどね。目が半分開いていないパートナーが、のそりのそりと近付いてくる。


「何、作ってるの?」
「秘密。……少なくとも、いいものだよ」


出来上がるまでの、お楽しみ。パートナーはうんうんと肯いて、またのそりのそりと隣の部屋に戻っていった。さて、こっちもあと少し。


……ああ、そうだ。パートナーも起きたんだし、CDでもかけようか。朝……こんな朝には……『PHILOSOPHY』。ピンクとイエローグリーンだけで構成された、シンプルなジャケット。それをかぱっと開き、ブルーのこれまたシンプルなCDを取り出す。1曲目は、『Morning Sun』。うん、いいんじゃないかな。


オーブンレンジから、匂いが立ち始めている。甘くて、ほんの少しだけ酸っぱい、ぎゅっぎゅっと凝縮されたリンゴの匂いが。


そろそろ、ベーコンエッグの用意をしようかな。2人分だから、卵は2つ。ベーコンは、1人2枚。ベーコンエッグは、パートナーのお気に入り。初めて焼いたときは、「すごくおいしい」って、褒めてくれたんだ。それから、2回目、3回目、4回目……。パートナーはいつも、おいしい、おいしいといってくれる。だから、僕は今朝も、卵をフライパンに割り入れる。

単純な繰り返しが
本当はただ大切で
気付いていないだけなんです
――清竜人『Morning Sun』より

僕は――僕らは、特別なことは何もしていない。もしくは、特別なことは全部している。そしてそれは、今までも、これからも、繰り返されること。


今日も、僕らに朝が来た。

Morning Sun(You Tubeより)

10/23更新

Morning Sun(「PHILOSOPHY」収録)/清竜人(2009年)

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