「君」じゃなきゃ、だめだったのにな。(blue/魚喃キリコ)
blue。
ブルー。
名詞、もしくは形容動詞。
1.青色。藍色。
2.憂鬱であること。または、そのさま。
3.1996年の魚喃キリコの漫画。
*
忘れらない人、というわけじゃないけど、他の人にいえば、「その人のことが、忘れられないのね」といわれるような人がいる。
忘れられない、わけじゃない。というか、日々を過ごす中で、思い出す方が少ない。僕にとっては、それくらいの人。それくらい、薄れた記憶の中にいる人。
「それくらいの人」――あの人は、どんな人かと訊かれれば、甘い人。それは、他人にも、自分にも。
「あの人が好きです」といえば、
「あんな人、止めた方がいいよ」
誰もが口々にいう、そんな人。
あれを恋と呼んでいいのか、未だにわからない。たしかに、心は変になっていたと思うけど。でも、恋愛のそれとは、違っていたと思う。じゃあ、何? って訊かれても、答えられないけど。
あの人と、一生一緒にいたいとか、思ったことはない。付き合いたいとか、なんか、そういうのじゃなかった。
あの人と話すのは楽しかったし、触れてみたいと、思うことさえあった。でも、あの人のそばにいるべきは、僕じゃなかったと思うし、多分、あっちもそう思っていた。
僕はずっと、恋なのか変なのか、名前の付けられない気持ちに弄ばれていた。
その終止符を打ったのが、パートナーだった。
でも、今でも、時々思い出す。
あの人の声を。
あの人の顔を。
あの人との時間は、僕にとって何だったんだろう?
あの人にとって、僕との時間は何だったんだろう?
今更考えても、詮無きことだけど。
一度だけ、あの人のために涙したことがある。
理由は、忘れてしまった。
いや、そもそも理由なんて無かったのかもしれない。
『じゃあ、どうして涙まで流したの?』
『ちゃんとした理由があるんじゃないの?』
……わからない。
わからないことだらけだ。
でも、一つだけいえることがある。
「それくらいの人」のために流した涙なんて、きっと、世界で一番いらないものだ。
結婚の報告はした。(LINE上だけど。)当てつけとか、そんなつもりじゃなくて、ただ、あの人にはお世話になったから。
あの人は、他の人がそうだったように、形式的なお祝いをしてくれた。(というか、いってくれた。)
『最近、何かいいことがあったんかなー、って思っていました』
最後に、そんなことばが添えられていた。
嘘つき、と僕は思った。
*
ねえ。
恋でも変でもない、
毒にも薬にもならない、
この気持ちは、何だったのかな。
blue。
ブルー。
名詞、もしくは形容動詞。
1.青色。藍色。
2.憂鬱であること。または、そのさま。
この気持ちは今も――これから先も、青色に染まっている。
blue/魚喃キリコ(1996年)※品切れ
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