「君」じゃなきゃ、だめだったのにな。(blue/魚喃キリコ)

blue。
ブルー。
名詞、もしくは形容動詞。


1.青色。藍色。
2.憂鬱であること。または、そのさま。
3.1996年の魚喃キリコの漫画。





忘れらない人、というわけじゃないけど、他の人にいえば、「その人のことが、忘れられないのね」といわれるような人がいる。


忘れられない、わけじゃない。というか、日々を過ごす中で、思い出す方が少ない。僕にとっては、それくらいの人。それくらい、薄れた記憶の中にいる人。


「それくらいの人」――あの人は、どんな人かと訊かれれば、甘い人。それは、他人にも、自分にも。


「あの人が好きです」といえば、
「あんな人、止めた方がいいよ」
誰もが口々にいう、そんな人。



あれを恋と呼んでいいのか、未だにわからない。たしかに、心は変になっていたと思うけど。でも、恋愛のそれとは、違っていたと思う。じゃあ、何? って訊かれても、答えられないけど。


あの人と、一生一緒にいたいとか、思ったことはない。付き合いたいとか、なんか、そういうのじゃなかった。


あの人と話すのは楽しかったし、触れてみたいと、思うことさえあった。でも、あの人のそばにいるべきは、僕じゃなかったと思うし、多分、あっちもそう思っていた。


僕はずっと、恋なのか変なのか、名前の付けられない気持ちに弄ばれていた。


その終止符を打ったのが、パートナーだった。


でも、今でも、時々思い出す。


あの人の声を。
あの人の顔を。


あの人との時間は、僕にとって何だったんだろう?
あの人にとって、僕との時間は何だったんだろう?


今更考えても、詮無きことだけど。


一度だけ、あの人のために涙したことがある。


理由は、忘れてしまった。
いや、そもそも理由なんて無かったのかもしれない。


『じゃあ、どうして涙まで流したの?』
『ちゃんとした理由があるんじゃないの?』


……わからない。
わからないことだらけだ。


でも、一つだけいえることがある。


「それくらいの人」のために流した涙なんて、きっと、世界で一番いらないものだ。


結婚の報告はした。(LINE上だけど。)当てつけとか、そんなつもりじゃなくて、ただ、あの人にはお世話になったから。


あの人は、他の人がそうだったように、形式的なお祝いをしてくれた。(というか、いってくれた。)


『最近、何かいいことがあったんかなー、って思っていました』


最後に、そんなことばが添えられていた。


嘘つき、と僕は思った。





ねえ。
恋でも変でもない、
毒にも薬にもならない、
この気持ちは、何だったのかな。


blue。
ブルー。
名詞、もしくは形容動詞。


1.青色。藍色。
2.憂鬱であること。または、そのさま。


この気持ちは今も――これから先も、青色に染まっている。

11/6(更新)

blue/魚喃キリコ(1996年)※品切れ

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