た わ ご と す ぴ ー か ー（祈りは空っぽ／Lanndo（ぬゆり））

人は死んだら、どこへ逝くんだろう。


天国？
地獄？


でも僕は、キリスト教徒じゃないから……。


浄土？
穢土？


……僕、仏教徒でもなかったね。


何も信仰していない僕は、どこへ逝くんだろう。
何も信仰していないなら、もしかしたら――。


……ううん、わからないな。


＊


辛いのも酸っぱいのも、僕は苦手だ。それなのに、今までの人生で、どれだけ辛酸を舐めてきたんだろう。あんまり舐めたので、舌の感覚は麻痺している。治療できるものなら、してみたいけど。残念ながら、専門医はいないみたい。「辛酸の過剰摂取」の治療法は、現時点では発見されていないから。


僕に与えられている選択肢は、２つ。一つは、一生一人で過ごすこと。だって、辛いも酸っぱいもわからない舌じゃ、人付き合いなんてできないから。「これ、おいしいね」っていわれたときに、「おいしくないよ」って返したら、嫌われちゃうでしょ？


もう一つは、猿真似を覚えること。辛いも酸っぱいも、甘いも苦いも、わからなくても、他の人が「辛い」といえば、自分も「辛い」という。「酸っぱい」といえば、「酸っぱい」という。そうすれば、ある程度、人と交わることはできる。……うん、ある程度。うわべだけの付き合いしか、できないけど。


ううん……どっちを選んでも、ひとりぼっちには違いないね。ああ、神さま仏さま。僕は、人と交わることを許されない人間なんでしょうか？　こんなことばも、ろれつが回らないから、上手くいえないよ。だから、手を合わせるしかない。神さま仏さまに、誠意を見せるためには、この方法しかない。……でも、どちらも信仰していないから、この祈りは無効なのかな。本当、何もかも上手くいかない。


ところが、人生とは奇怪なもので、こんな僕にも大切な人ができた。神さま仏さまには、感謝の念を……捧げないよ。だって、あなた達のおかげじゃないでしょう？　肝心なときに、あなた達は助けてくれなかったでしょう？　……まあ、見返りを求めている時点で、僕は教徒には向いていないのかもね。


神さま仏さまは、人間の姿をしている。全てを超越した存在なのに、どうして人間の姿をしているの？　あなた達が人間なら――人間を信仰対象にしていいのなら――僕は、あなた達を信じなくてもいいんだよね？　僕は、大切な人を信じればいいんだよね？　ねえ……。全てを超越しているのなら、答えてよ。


どうして、僕を救ってくれなかったの？


＊


僕は、死んだらどこへ逝くんだろう。


天国？
地獄？


浄土？
穢土？


どちらも足蹴にした僕は、どこへも逝けないんだろうか？


どこへも逝けないなら、せめて、自分が信じた人の元に、逝かせてくれないかな。それくらいの権利は、きっと、僕にもあるから。

祈りは空っぽ（「Outer Sample」収録）／ぬゆり feat．flower、結月ゆかり（2018年）

祈りは空っぽ／Lanndo（ぬゆり）（2019年）