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『70回遅刻した女の子。遅刻の理由は何でしょうか? ワンちゃんです』学ビ舎いろはに009

藍澤誠/Jの先生です。

私が2000年から経営している私塾では基本的に生徒の遅刻をとがめません。面倒くさかったでも、やる気がしなかったでもOKです。ウソはNGです。理由が恥ずかしい場合は「恥ずかしくていえないでーす」もありです。

また欠席もドタキャンや自分勝手な都合であっても「迷惑」という扱いにはしないです。塾よりも「必要」とか「楽しい」と思ったこと、そして「自分の率直な感情」を優先して欲しい、できたらそれを伝達・共有して欲しいからです

先日は中1の女の子が、「今日は推しの生配信があるので30分で帰ってもいいですか?」と持ちかけてきました。こうやって正直な理由を堂々と伝えあえる場でありたいと思っています。

少なくとも私が絶対に口にしないセリフは

「今、時間の大事さをわかっていないと大人になってから苦労するよ」
「遅刻するヤツは社会で通用しないよ」

です。時間の大事さとは別に、一人一人が大事にしているものがあるということ、自分が大事だと思うものはとても大事だということを学んでほしいです。

私の好きな作家の保坂和志さんが、世話をしている猫ちゃんの体調が悪いときに講演会のような仕事を堂々とキャンセルしていましたが、そういう当たり前のことが当たり前にできる社会であって欲しいです。問答無用で時間で区切るような社会はデザイン的に悪いと思います。

塾に通ってきてる子には「今」を好奇心全開で生きて、大人になっても楽しいマインドで過ごして欲しい。一人一人、別の時間軸があること、自分にしかわからない楽しみがあること、相手にしかわからない世界があることを忘れない人でいて欲しいです。

それらを踏まえた上で時間を合わせられるなら合わせようねという感じです。無理やり塾や勉強を優先順位の1位に置かないで欲しいです。とはいえ「時間にルーズなところを直したい」という自分自身の課題がある生徒もいるので、その場合は時間を守れるような工夫を提案したりします。

さてさて、遅刻と言えば、

「年間で70回遅刻した」

というつわものの小6の女の子がいました。
ここでは彼女を「あど」と呼びます。

あどちゃんが遅刻した理由ははっきりしていて「ワンちゃん」です。

ただでさえ準備が遅くいつもギリギリに家を出るのに、あどちゃんは登校中にワンちゃんを見ちゃうとつい話しかけて一緒に遊んじゃうらしいんです。一番のお気に入りが石材店で飼われている「石松」というパグで、その愛嬌ある顔がかわいくて、石松に遭遇した日には遅刻確定なんだそうです。

犬が好きすぎて遅刻――私はけっこう最高だと思うのですが、大人たちは最高と思えないのかな。人の子だったら最高だけど、自分の子だったら最低に評価が変わってしまうものでしょうか。

この子は絶対に犬に関わる仕事につくべき!
そう思ったのですが、親の希望はなんと

「大学進学→医療に携わる仕事」

というルート。あどちゃんは勉強面ではなんていうかとても劣勢で、学年でビリから2番目(1人は不登校)の成績だったわけで……そんなあどちゃんは母親に「勉強頑張ったら犬も検討する」「受験合格したら好きな犬を飼ってあげる」というのを餌に、勉強を頑張らされていたわけですが、犬は好きだけど勉強が嫌いすぎて頑張り切れず、いつまでも目標の点数が取れなかったりしてワンちゃんとの生活がやってこない

あどちゃんは気晴らしに図鑑やら本やら雑誌やらで犬のことを調べまくるわけですが、どんどん犬のことが詳しくなって、なんと「犬に関する相談を受付けるサイト」を作っちゃったんです(私も知りませんでした)。もちろん無断で。そして通信費が数万円で発覚、即閉鎖。

そんな物語みたいな生き方をしているあどちゃん。

勉強も苦手だし、犬で頭がいっぱいだし、親の心配は尽きなかったのですが、今では犬に関わる仕事についてます。どの子も好奇心全開に生きた結果、好きなことを自然に仕事にできていたらいいですね。

その後のあどちゃんの進路はこちら次回10番目の記事で↓

*おまけ*
そんなあどちゃんとエピソードをモデルに小説を書きました。
犬のサイトのエピソードはこんな感じに使いました。
物語の一部なので、シーンはつかめないと思うのですが、会話だけでも。

◎001~010

001『鳥の種類は書くべきか? 小学生への文章指導で注意すること(1)
002『文章指導を丸投げしない 小学生への文章指導で注意すること(2)』
003『保健室よりも音楽室』
004『ぴったりの塾を探すのではなく、ぴったりの親になろう――オーダーメイドの服みたい 小学生への文章指導で注意すること(3)』
005『ためらわないという点で平等』
006 『暴力を受けていても塾をやめなかった』
007『白いパズルから学んだこと』
008『親にとっての宿題』



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