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パパの記録のすごさがわかったよ『ポニイテイル』★69★

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少年はミヤコと書店へ向かいました。自分にもひとつ、誕生日プレゼントを買うためです。その書店の2階のフロアには、少年が前から欲しかった本があります。エスカレーターはあぶなそうなのでエレベーターでいくことにしました。エレベーターには、ハレーとミヤコと、あとひとりふたりは乗れるスペースがありましたが、誰も乗らなかったので2階に上がりました。

欲しかった本『宇宙のしっぽ』は北極星のように、いつもと同じ場所にありました。少年は高い位置にあるこの本を『店員さんに頼まず自分の手で取りたかった』のです。『宇宙のしっぽ』はブラウニー図書館にもあるので内容はぜんぶ覚えているのですが、読むのではなく、きみどり色のこの本を自分の部屋の書棚に並べたいのです。ハレー少年がミヤコの栗色の背中の上で立ち上がると、ちょうどぴったり『宇宙のしっぽ』の背表紙が顔のまん前に現れました。予測通りです。

再び外へ出ると、星が夜空に顔をのぞかせはじめていました。都会から引き返した少年は、行きのルートとは違い、ひとけのない森の道を選んで進んでいました。ハレーを背中に乗せたまま、かなりの距離を歩いているのに、ミヤコは文句を一つも言いませんでした。少年はミヤコの、やわらかそうな銅色のたてがみをなでさせてもらいました。

星に願いを、なんていうけれど
願う時間があったら勉強するよ
そう思っていたけれど
結局さいごは、あの星たちに願うしかないのかな

星は届かない遠い場所じゃない
やることをきちんと、毎日重ねていけば
ちゃんと行けるし、ちゃんと戻って来られる

そうだよね?

もうすぐ誕生日が終わっちゃうよ
ごめんね、ママとパパ

正直、誕生日にプレゼントなんてもらった記憶ないんだ
もう夜になっちゃったよ
友達が欲しいけど
そんなの自分勝手すぎて泣きそうだよ

ぼくが友達が欲しいと思うなんて思わなかった
しかも本当に友達が欲しいわけじゃないんだ
でも本当に友達が欲しいんだ

わがまま過ぎるよね
子どもだよ
12歳はこどもなのかな
パパの記録のすごさがわかったよ
ママはパパの友だち?
友だちが恋人になったの?

ぼくは一人ぼっちじゃない
ちゃんと、ずっといっしょにいるってわかってる

昨日、本当にいきなり、
ぜったい無理なことが求められることもわかった

仕方なくないけど、仕方ないって思うしかないんだね
思えないけれど、思うしかないんだね

パパとママもそうだったんだよね、きっと

宇宙は遠くない
子どもでも行ける場所だ
迎えに行くって決めたんだ

そうだよね?
ぼくならできるよね?
勇気を出して宇宙へ行った
仕方ないけど、前に進んだ
パパとママの子どもだからね

ミヤコのたてがみの銅色は、少年に銅板のレリーフを思い出させました。その深くて落ち着いた色あいは、ゆらめきながらかがやく『金属のろうそく』のようでした。

少年は今学期、一度だけ学校に行きました。卒業の記念の作品を作るためです。いくつかの課題の中から、ハレーは銅板のレリーフづくりを選びました。バルコニーに家から持って来た道具を広げてせっせと作業しました。こういうのは、はっきりいって得意なのです。最初はピカピカで目が痛くなるほどまぶしかった銅板は、その光をすべて内側に秘めて、最後には月の表面のようにくすんだ深みのある色に生まれ変わりました。他の人には、でこぼこの穴だらけの板に見えるかもしれませんが、少年が作ったのは、ぐるぐるめぐる星たちを包む、銅色の夜空です。

ポクポクとミヤコが土を踏む音が、静かな夏の闇にひびきます。

「いい誕生日だったよ。ありがとう、ミヤコ」
「あのですね……」
「何?」

何と聞き返しましたが、少年にはミヤコが何を切り出すか見当がついていました。

「いいんだ。ぼくはあきらめたんだ。王立宇宙学校のテストは受けない。もうすぐ7月7日も終わる。テストは明日だ」
「でもそ、それは……あきらめちゃ、ダメだと思います」

ミヤコはとつぜん立ち止まりました。


『ポニイテイル』★70★へつづく


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