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ふたりでひとつの空想『ポニイテイル』★42★

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『この物語自体がホコリだね』と言われても仕方ないような空想をよせ集め、あどは手作りの本を完成させました。ヘンな話しかできなくても、恥ずかしがる必要はありません。動物たちは字なんて読めないし、通っていた学校には人間はほぼ絶滅。先生も生徒も、ほとんど全員、何年か前に新しく出来た『人間だけが通う学校』へ移ってしまったからです。

がらんとした、動物のたまり場みたいな学校。捨てられたこの学校に通っている子どもは、あどを含めて3人だけでした。先生はというと、体の大きい『クマヤギ』みたいな人がときどきふらっと来て、工作を教えてくれたり、学校のこわれたところを器用に直してくれたりするけど、あとはほったらかし。だからあどは国語なんてまともに習ってないし、物語を想像できても、言葉や文がなかなか思いつかないし、思いついてもまともに字が書けなくて苦労しました。

「ホコリの国。そこではきたないものがきれい」

こんな短い文を書くのにありえないくらい時間がかかるのです。でもあどにはたよりになる1人の友だちがいました。

親友の名は『プーコ』。プーコは頭がいいのに『人間だけが通う学校』へ行ったりはしませんでした。機嫌がいいとき限定でしたが、プーコは本作りを手伝ってくれました。気の毒なくらいやせっぽっちで、こまったことがあると口をあけた風船みたいに、プシューとしぼんでしまう女の子。だから『プーコ』。プーコの特技は、両手で字が書けることでした。

右手でも左手でも書けるという意味じゃありません。
両手に1本ずつペンを持って、一度に2行、いっぺんに字を書くことができるのです!

右手で『マレーばく』左手で『ありくい』。これをスラスラと同時に書けるのです。あどもチャレンジしてみたけど左手につられて右手で書く字までヘンになり、2列にフニャフニャな線がならぶだけで、まったくのお手上げ状態でした。

あどはプーコの不思議な手に触れました。

「プーコの指って……生きているみたいだね」

10本の指、その1本1本が命をもっているかのように自由にうごめいています。うじゃうじゃとしていて、イソギンチャクかヒトデか火星人の足みたい。プーコが動かしているのか、指が勝手に動いているのか区別がつきません。

「なんだかブキミな生物みたいだよ……」

おそるおそるプーコの指をつついてみました。つついた指に何本かの指がおそいかかってきたので、あどはあわてて手をひっこめました。

そんなあどとプーコはよく、ふたりでひとつの空想をしました。
教室のバルコニーに出て、デッキチェアに寝そべりながら西の空を見て空想するというのが彼女たちのおきまりのやり方で、デッキチェアの横のテーブルにはふたりで持ち込んだお菓子や面白い絵本がたくさんのっています。


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