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noteに載せている一次創作小説をまとめました。
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掌編小説「ありふれた夏、火花の咲く夜」

掌編小説「ありふれた夏、火花の咲く夜」

 瞼を閉じても浮かぶくらいに、キラキラと光っていた。色とりどりに咲いては散って、覆い尽くすような闇をにぎやかに彩っていく。
 そんな花火が、私は苦手だった。目がチカチカするし、手持ち花火は煙がひどいし、打ち上げ花火は音が大きくて。
 だけど今、私はこうして海辺に座って、皆が花火をしているのを見ていた。はしゃぎ回っている彼らを見ていると、ああ、青春だな、としみじみ思う。まるで絵に描いたような夏の光景

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「緋い約束、さよならは刹那」前編

「緋い約束、さよならは刹那」前編

※この小説は、イラストストーリー部門の宇佐崎しろ先生のお題イラストをもとにした物語です。

「――どんな気分? 天才エクソシスト様」
 ぴょこりと軽やかに体を乗り出して教卓に両肘を付き、その少女はこちらに距離を詰めた。息も上がり、顔を真っ青にしたアイリとは対照的に、少女は余裕の笑みを浮かべ、愉しそうにこちらの出方を伺っている。どちらが優勢かは語らずとも明らかだった。
 指先は震え、拳銃に聖弾を篭め

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「緋い約束、さよならは刹那」後編

「緋い約束、さよならは刹那」後編

※前編は下記リンクよりお読みいただけます。

 ミヤの行き先は、今日は設備点検の関係で立ち入り禁止になっていた高校の中だった。閉められた門を軽々と飛び越えて中に入ってゆくミヤに続いて、アイリも素早く塀を登って追い続ける。走りながら二発、銃撃するも、ミヤは容易くそれを避ける。
「それが本気? なんだ、大したことないなぁ。期待して損した」
 煽る彼女をアイリは睨みつけた。
「そうやって舐めてかかると痛

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緋の独白(「緋い約束、さよならは刹那」外伝)

緋の独白(「緋い約束、さよならは刹那」外伝)

※この作品には「緋い約束、さよならは刹那」の重大なネタバレが含まれています。より作品をお楽しみいただくため、本編読了後に読むことをおすすめします。

「お前が大人しく捕まらなければ、楠神アイリがどうなるか、馬鹿でなければ理解出来るだろう」
 男のその言葉に、ミヤは思わずその緋い目を見開いた。その一瞬に出来た隙で、男は容赦なくミヤの身体に剣を振るう。さすが三大名家に伝わる武器といったところか、その聖

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夜更けのアリア番外編「カフェテリアでの出会い」

 それは、アリアが都にやって来て間もないある日のことだった。その日はレッスンも休みだったので、気晴らしにアリアはまだ見慣れぬ街を一人散策していた。 白壁の輝く街に見入りつつ、人混みの中を掻き分けながら大通りを進み、人を避けて路地裏の方に入ると、そこには小さな喫茶店があった。伝統的な建築を思わせる優美な内装が窓から覗き、何処からともなくバターの食欲をそそる香りが漂ってくる。アリアは上がってきた涎をご

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掌編小説「雨のち晴れ」

掌編小説「雨のち晴れ」

「雨ってじめじめしてて、頭も痛くなるし苦手なんだよね」
 サツキは薄紫のパンプスの爪先で水溜りに映る景色を弄りながら、何気なくそう呟いた。
 高校時代の親友だったフミに誘われて、紫陽花の名所に向かっているのだが、やはり六月の中旬、梅雨前線が列島に掛かっている真っ最中。雨でないほうが珍しいとはいえ、久しぶりに会える友人との散歩を邪魔されているようで、サツキはなんだか落ち込んでいた。
「え、そうなの?

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