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安っぽい固いシーツやダサいカーテンの柄に守られていた


ラブホテルのあのカサカサしている
シーツや布団の感触を思いだす。
いかにも、
「ここは快適な睡眠をとるための場所ではない」と言われているような、あの安っぽい質感。

昔の恋人とはそういう風に始まって
付き合うまでの期間、結構お互いが適当で、相手がいたけど後々別れて、だけど付き合えなくて、みたいな複雑なスタートだった。

何度も行ったホテルの、あのシーツに包まれて寝ていた夜。今思い出しても記憶がぼんやりしていて、どんな気持ちだっただろう、と思い出せない。


こういう遊びの関係が初めてで
少し優越に浸っていた様な気もするし、
気を抜くと引きずり込まれそうな気持ちを、
なんとか冷静に保って、付き合うまでは、頑なに友達の様な扱いをしていた様な気もする。



そんな中でも、
よくわからないダサい布団カバーの柄や、
よくわからないカーテンの柄を覚えている。



田舎のラブホテルは、どれも見た目は大して綺麗ではなく、少し古びていて、部屋に入ると大きなマッサージチェアが置いてある。
それに交互に座りマッサージを受けたり、部屋に置いてあるご飯のメニューを見たりしていた。

部屋に入ってまず全体を見渡してから、お風呂場をチェックするのが恒例だった。
綺麗だとか、広いとか、泡が出るとか、TVがついてるとか、そういうことで盛り上がった。


あの時の自分自身の気持ちは、あまり覚えていないのに、何をしたとか、どういうことで盛り上がったとか、そういう細かなことは不思議と覚えている。

自分の心がすり減っていた様な気もするし、
逆に何も気にしていなかった様な気もする。
自分じゃない誰かが、そこにはいたような気がしている。




夜に会って、次の日相手の都合があって
朝にはばいばいして、電車でひとり帰ってきた日も何度もあった。

夜に会って、次の日草野球の練習だと言っていたのに、朝起きたら大雨で中止になり、
喜んでいるきみを見て、ひっそり嬉しくなっていた。
彼は、ただ単に野球が面倒で、中止になったことに喜んでいたのかもしれないし、朝ゆっくりできることに喜んでいたのかもしれない。
でも、わたしといる時間が長くなったことに喜んでいるのかもしれない、という考えは持たないようにしていた。


こんなにも、色々振り回されていたけれど
その時期の辛さのようなものは、やっぱりあまり覚えていない。
なんとなくだけれど、ラブホテルのあの居心地の悪い固い布団に包まれている時、そういうことはどうでも良く、何も考えない時間を過ごせていた。

もしかしたら、あの頃の自分達には
それくらい雑で、快適ではない寝床が、丁度よかったのかもしれない。


色んなことが誤魔化せた。


あのカサカサの布団に包まれている時、
あのダサい柄のカーテンに見つめられている時、そこはそうあるべき場所で、そうあるべき2人が横たわっている。

居心地の良い、快適なふわふわしたシーツでは、なんだか逆に居心地が悪かったかもしれない。


そういう場所で、そういう2人には、
お似合いのダサさだったのだ。


何も望まないように、現実に引き戻されないように、あの居心地の悪さは存在していて、おそらく私はそれに随分と助けられていたのかもしれない。




そのダサい柄のカーテンや、布団カバー、
固くて居心地の悪いシーツたちに。




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