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【AISO制作インタビュー】開かれた場所にふさわしいBGM『PARADISE LOST』(ゲスト:TARO NOHARA aka やけのはら)

音×テクノロジー。AISOはこれまでにない音楽構築システムです。

プログラムが『音のカケラ』をリアルタイムかつランダムに組み合わせることで、“終わらない音楽”を半永久的に構築し、スイッチを切るまで無限に近いバリエーションで鳴り続けます。

AISOの「アーティスト版」は第1弾から第5弾まで、計9名のアーティストに楽曲を制作いただきました。

今回は、第5弾に参加いただいたTARO NOHARA aka やけのはらさんをゲストにお迎えし、コンセプト・アルバム『PARADISE LOST』の制作についてお話をうかがいます!

TARO NOHARA aka やけのはら
DJや作曲、ラップ、執筆業など、多様なフィールドを独自の嗅覚で渡り歩く。「FUJI ROCK FESTIVAL」などのビッグ・フェスティバルから、アンダーグラウンド・パーティーまで、日本中の多数のパーティーに出演。THE BLUE HEARTS、山下達郎、YUKIといったポップ・アーティスト、ロック・バンド、ダンス・ミュージックなど、100を超える幅広い作品にREMIXなどで参加。2009年に七尾旅人×やけのはら名義で「Rollin' Rollin'」をリリース。2010年、ラップ・アルバム「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」を、2013年には、セカンド・アルバム「SUNNY NEW LIFE」をリリース。最後の手段が製作した、楽曲「RELAXIN'」のMVが、「第17回文化庁メディア芸術祭」で新人賞を受賞。

DJとしては、ハウスやテクノ、ディスコを中心としたロング・セット、またTPOに応じた幅広い選曲を得意とし、Stones Throw15周年記念のオフィシャルミックス「Stones Throw 15 mixed by やけのはら」など、数多くのミックスを手がけている。アンビエント・ユニット「UNKNOWN ME」のメンバーとしても活動。2017年には、亜熱帯をテーマにした作品「subtropics」が、英国「FACT Magazine」の注目作に選ばれ、アンビエント・リバイバルのキー・パーソン「ジジ・マシン」の来日公演や、電子音楽×デジタルアートの世界的な祭典「MUTEK」にも出演している。2021年4月、4作目となる待望の1st LP "BISHINTAI"を、米LAの老舗インディー・レーベル「Not Not Fun」からリリース。2022年4月、ドイツ「GROWING BIN」からニューエイジ・テクノのアルバムを、9月にはスイスの「WRWTFWW」からアンビエントのアルバムを、TARO NOHARA名義でリリース。雑誌「POPEYE」でのコラム連載など、文筆業も行い、2018年10月に初の著作「文化水流探訪記」を青土社から刊行。

【左から】日山 豪(AISO) / 津留 正和(AISO) / やけのはらさん

AISO 参加のきっかけ

津留:やけのはらさんのAISOは足掛け2年でのリリースとなりました。ナカコーさんを通して繋げていただきましたが、もともとAISOはご存じでしたか?

TARO NOHARA aka やけのはらさん(以下、やけのはらさん):知っているアーティストが何人か参加してたのと、ネットでも記事を見たりして知っていました。面白いなって思って、ナカコーさんのSNS投稿をリツイートしたら「こういうの興味ある?」って連絡をもらった感じです。

津留:最初はちょっと気になるなぐらいの感じだったんですね。

やけのはらさん:近年はアンビエント音楽を作っていて、楽曲の音の始まりと終わりみたいなことを考えたり、意識的に取り組んでいたので、当時かなり興味関心があるポイントでした。

津留:お声がけした時期もちょうどよかったんですね。ますますご縁があったように思います。

やけのはらさん:元々テクノが好きで、その後、ダンス・ミュージックや、自分の声が入る音楽を作ったりしていました。本格的にアンビエントを作り出したのはここ5年10年なんですけど、その頃は民族音楽もよく聴いていました。アフリカの民族音楽などは、人がなんとなく集まって音楽が奏でられて、そしてだんだんと人がいなくなるような感じらしいんです。録音技術より前に遡って考えると、ちゃんと始まりや終わりがある方が稀で、これは意外と近代的な現象かとも思います。作曲家っていう個人の名前を打ち出した音楽システムも、ロマン派以降に顕著になった制度のようですし。

自分がアンビエントを作るときは、何個ものポリ・リズム(※1)を同時に走らせるんですけど、アレンジをしなくてもそれで1曲できるんです。勝手にズレていき変化し続ける、同じだけど同じじゃない状態を作ります。そういったことはAISOを知る前から自分でも考えて取り組んでいました。

(※1)ポリ・リズム:リズムの異なる声部が同時に奏されること。拍の一致しないリズムが同時に演奏されることにより、独特のリズム感が生まれます。

津留:AISOはもしかするとポリ・リズムよりも大変な“バラバラさ”があるかもしれませんね。

やけのはらさん:AISOの制作ソフトにはいくつかの制限があって、ポリ・リズム的なことは逆にできないんですよね。それはそれでまた別の頭を使ったので、面白かったです。

日山:音楽の始まりと終わりについて考え始めたのには、何かきっかけがあったんですか?

やけのはらさん:アンビエントに取り組んでいくと、フェード・イン、フェード・アウトを多用したり、にじませたりして抽象化していくことになるんですけど、そうやって何もないけど何かある状態を作る作業になってくると、楽曲の始まりと終わりもぼやけてくるんですよね。先ほど話したポリ・リズムで曲を作ったものを20分聴いてもいいし、5分聴いてもいい。アレンジしなくても勝手に違う状態が作られていくので、最初と最後でその曲をちょうどいい長さにして1曲を完成させるという手法をとっていました。

もちろん、聴いて楽しんでもらいたいと思って制作するんですけど、ポップスとは機能が違うので、強くアピールしたいわけではないというか、同じメロディーを何回も繰り返すとやっぱり飽きてくるし、目鼻立ちもありすぎるんです。そこでどんどんにじませていった結果「全体のトーンは同じだけど、繰り返さないもの」っていう方向に、自然と辿り着きました。

津留:原初的な音楽は、その当時の暮らしや人との繋がりの側にあったのだと思いますが、繰り返されるものにはどうしても飽きがきてしまうので長く聴き続けることは難しいんですね。聴くというよりは、少し後ろで佇んでるような音楽がいいのでしょうか。

やけのはらさん:そうですね。認識論みたいな点でも、目鼻立ちがはっきりしたものはやっぱり「さっきも聴いた」って印象を与えてしまうんですよね。


場に馴染むBGMと音楽性としての面白さ、その両立を目指して

津留:1番最初の打ち合わせでAISOの自動構築の仕組みを紹介させていただきましたが、その際にどのような印象を持たれましたか?

やけのはらさん:すでに自分でもAISOに近しい音楽を作っていたので、抵抗感などは何もありませんでした。
ただその時にAISOの制作には専用のソフト・ウェアがあると聞いたので、いつも使っている手法がどこまで使えるのかなっていうのが気になったぐらいですね。

津留:その後に制作用のソフト・ウェアと過去のアーティスト版AISOを全曲お貸ししました。他のアーティストのAISOを聴いてみていかがでしたか?

やけのはらさん:みなさん個々の色を出しながらやられていて、それぞれバラバラなんだなという印象を受けました。色はありつつも用途に合わせて作られていたので、それは面白いなって思いましたね。その時はまだ「自分はどうするか」は特に考えてなくて、単純に色んなAISOを聴いて、認識・確認をした感じです。

津留:やけのはらさん自身の構想やコンセプトが決まったのはいつ頃でしたか?

やけのはらさん:なんとなくこんな感じかなと決めたのが、今年の春ぐらいですね。目標としては「できるだけ長く、飽きずに聴ける音楽」を作ること。10時間とか聴けるようにしたいと思ったのですが、そこまで長い時間の音楽は扱ったことがなかったので、チャレンジというか探り探りでした。

制作にあたって普通の曲やセクションの概念で考えると確実に10曲くらいは必要だと思いました。各セクションをさらに合体していくと、それらが何十にも増えていくんですけど、基本3パターンくらいの変奏では長く持たないのが最初からわかっていたので、近年ストックで作っていたなかから合いそうなものを半分くらい見繕ったのと、狙い打ちでAISO用に制作したりしました。

津留:ネタ帳やアイデアのストックみたいなものがあるんですか?

やけのはらさん:遊びで作ったデモというか、今まではちょうど合うプロジェクトがなくて使わなかった曲ですね。そこから、今回のAISOに合いそうなものをいくつか見繕いました。

津留:AISOの音の量は、バリエーションやバラエティ感にダイレクトに直結するもので、ある程度の量がないと自動構築も形にならないんです。そうやって沢山の音を用意いただけるのは本当に感謝しかありません......!

やけのはらさん:これまでの話の繰り返しになりますが、長く飽きずに聴かせるために「目鼻立ちが立ちすぎないバランス」をすごく考えました。印象的な音やメロディックな音は「さっきもあったな」って感じちゃうので。ただ、制作がある程度進んだ時点で、ちょっと違うグラデーションが複数続いても、これはこれで全体が同じに聴こえすぎるなとも思いました。なので、作業の後半は、明確な曲をいくつか入れたりして、差し色的な場面や、リズムをはっきりさせる場面も作りました。DJでも一緒なんですけど、長時間で考えると、同じトーンを維持するとしても、違うものがあった方が、元のパートが際立ったりするので、そのへんの塩梅をずっと探りました。

津留:AISOならではの時間感覚や構成、バランスも必要になってきますよね。

やけのはらさん:あとは、公共の場で鳴っていてもBGMとして成立しつつ、音楽好きな人が、その場所を通った時に「なんか気になる音楽がかかってる」って思われるぐらいには、音楽的に面白いものにしたかったので、その点も意識して制作していました。

「環境音楽」は公共の場や施設などでかかっているような音楽のジャンルですけど、80年代ぐらいからあるもので、だいぶ類型化してる部分もあるんですよね。「いわゆるBGM」みたいなものは作りたくないけど、そういった場で流れていても成立する音楽を目標にしました。

津留:やけのはらさんのAISOは、体感的に7ぐらいは落ち着いた気持ちになるんですけど、残りの3でたまに裏切られるんですよね(笑)。でも、それがまた気持ちいい。その逆もしかりで、緩やかな曲調に戻るときにも心地よく感じます。

やけのはらさん:バック・グラウンドとして成立しても、少しは景色の変化がないと飽きがくるなって思ってたので、まさにそれぐらいの割合を狙いました!

“始まりも終わりもない”からこそ、気づけたこと

津留:制作過程の話も聞いていきたいと思います。実際の制作期間は5〜6ヶ月くらいでしたが、その間に大変だと感じたことはありましたか?

やけのはらさん:実は5月ぐらいには全体のほぼ8割ぐらいまでできてたんです。でも、AISO専用のソフト・ウェアでプログラミングしていく段階になって1〜2ヶ月ほど手が止まりました。使ったことがないソフトだったし、どうやって音を構成すればいいのかが掴めず......リリース時期が正式に決まったタイミングで、本格的にプログラムの作業に入りました。
曲はほぼできてる状態だったけど、はじめてみると想像以上に大変で、最後の2〜3週間は勤労青年のように(笑)、朝起きてから寝るまで毎日15時間とか延々に作業をしていました。作っても作っても修正が必要で「やばい、終わんない!」みたいな感じでしたね。

津留:具体的にはどんなところに苦労されたんですか?

やけのはらさん:これまで制作した皆さん言われているかもしれないですけど......5分の曲や1時間のアルバムだったら、その時間を聴き返せば確認ができるんですが、5時間や10時間といった長時間のリスニングの可能性があるものを作ろうとしているので、AISOはプレイ・バックの作業がとにかく大変でした。しかも、聴き返す内容も自動構築なので毎回違うんですよね。作ってても自分の思い通りにならないし、全体像を把握するのにも苦労しました。どのぐらい思い通りにならないかについては調整ができますけど、ちょうどいい具合を探ること自体もなかなか困難で(笑)。これはAISO特有の大変さであり面白みだとは思うんですが、印象的ではありました。

津留:皆さんに言われます。作って、プレイ・バックして、またデスクに戻って作る......これの繰り返しっていう。

やけのはらさん:そう、だからスイッチの切り替えができないんですよね。ただ、AISOならではの発見もありました。毎回違う音楽が流れるので、作業しながら聴いてても飽きがこなかったんです。

津留:わ!すごく嬉しいお言葉です。

やけのはらさん:音楽は、始まりと終わりとアレンジがあって、楽曲っていう固定されたものになるから飽きるんだなってことに初めて気がつきました。自分が作ったものでも、毎回アレンジや長さ、曲の順番が違うと飽きないんですよね。

津留:ちなみにAISOでは、たまに音が薄くなったり無音になったり、逆に音が厚くなりすぎることもあるので、それを調整する作業が必要になってくるんですけど......そのあたりの密度についてはどう感じましたか?

やけのはらさん:僕の作り方では、多くなりすぎることはなかったですね。
昔のレコードの、12インチ・シングルって、1曲に対して3〜4バージョンぐらいの別バージョンが入っていたりしたんですけど、そういうイメージで制作していました。1曲のマックスの状態がなんとなくできている所から、アレンジが毎回変化して違うバージョンになるようなイメージです。実際には細かい違いもあるので、3バージョン以上、何十バージョンくらい、毎回違うアレンジになります。長さも、DJミックス的に、都度変化していくようにプログラムしました。

全く無音になっちゃうのは、禅や東洋思想の感覚で、ちょっとの間であれば問題ないということにしました。ただ、1分以上の無音が続くのはまずいんで、そこのバランスは調整しました。3秒ぐらい音の残響だけになったり、ポトン......ポトン......ぐらいの音のパートも、ごくまれにですが出てくるかもしれないです。そのあたりまではあってもいいようにプログラムしています。これも、ごくまれにですが、SEの自然音だけになったりも、確率としてはあります。

津留:それは聴き続けて、その音に出くわさないとわからないですね!


完成したのは、どんな景色にも寄り添うAISO

津留:完成のご連絡をいただいたのが7月末ぐらいだったと思います。当時、僕が聴いたのは一部でしたが、聴いていると景色がくっきりするというか、解像度が上がるような印象を受けました。瞑想的な感じもあって、それがすごく心地よくて。また新しい色のAISOができたなって思ったのと、いろんな場面に合いそうなAISOだなとも思いました。

やけのはらさん:津留さんがいう気持ちいい感じは、半分は単純に自分の好みの音楽でもあります。タイトルに「パラダイス」とあるように、楽園的な心地よい音楽がもともと好きで。今回のAISOはお店や公共施設で流れる音楽をイメージしていたので、そこに自分の好みも結びつけつつ「心地よく流れる音楽」という着地点からは、はみ出さないように作りました。

想定していたのは美術館だったり、なんとなく抜け感がある綺麗な場所でかかる音楽です。過去に別のアンビエント・ユニットで、資生堂の施設でライブをさせてもらったことがあったんですけど、その体験のイメージもありました。もちろん聴き方は人それぞれなので、びっくりするような場所やシチュエーションで聴いてもらっても、それはそれで嬉しいんですけどね。

津留:僕の場合は、ドライブをしながら聴いたりしましたよ。

やけのはらさん:ドライブで聴くのは全然想定してなかったです!アンビエントってリズミカルさや速度感がないので、あんまりドライブには向かない印象があるんですけど......大丈夫でしたか?

津留:そうですね、非常に安全運転ができました(笑)。

やけのはらさん:なるほど.....平熱みたいな感じですか?

津留:そう、ずっと平熱なんですよね。車の中で歌ったりする方には向かないかもしれないですけど、例えばちょっと疲れた仕事終わりのタイミングで聴いたりすると、自分を取り戻せた感じがするっていうか。

やけのはらさん:音楽に耳を奪われすぎないし、変な高揚感もなくて、車というスペースがフラットな感じになるんですかね。僕自身は車の運転をしないので、そこらへんの感覚は全然意識していなかったです。

津留:とても気持ちよかったですよ。解像度があがる景色っていうのが移り変わる景色にも重なって、おすすめです。やけのはらさんのAISOは「ここで流れてたらいいな」っていうのが、他にも色々浮かんじゃうんですよね。例えば、サウナとかも合うと思います。

やけのはらさん:サウナも全然意図してなかったです!僕自身がサウナに行かないからかもしれないけど(笑)。

津留:最近のサウナはメディテーションの文脈とも接続してきていて、個室サウナも増えてるんですよね。照明がいい感じの綺麗な空間のサウナにも合いそうだなって思いました。

やけのはらさん:興味本位なんですけど、サウナ以外でも合いそうな場所があったら教えてください。

津留:ちょっとハードルが高いかもしれないですけど、電車にも合いそうです。やけのはらさんのAISOは、各バンク(※2)にタイトルがついてるじゃないですか?今回のAISOを“アルバム”って表現している通り、曲調が編成された集合体のような性質が強めにあると思うんですけど、それが各車両ごとに分かれていたりすると面白いなって。走っている場所によって、音の雰囲気や景色が変わっていくのもいいんじゃないかなと。

(※2)バンク:AISO楽曲の構成単位で、シームレスに展開するテーマ群のこと。

やけのはらさん:それは面白いですね!そういえば、今の飛行機には音楽チャンネルがついてるじゃないですか。そのうち1個くらい、リラックスチャンネルみたいなのってないんですかね?AISOチャンネルがあってもいいですよね。

津留:ヒーリングのチャンネルとかありそうですよね。似た事例として、熊本にAISOが聴けるホテルがあります。客室のテレビをつけると館内情報が流れるのが一般的だと思うんですけど、そのなかにAISOボタンをつけていただいてます。別にテレビを見たいわけじゃないけど、とりあえずつけとこうっていう人もいますし、そんな時の選択肢のひとつとして......。飛行機のチャンネルは、その発想と近いなと思いました。

やけのはらさん:ホテルに関しては選曲が決まっているより、まさにAISOみたいに同じだけど少しずつ変わる音楽の方がその立ち位置が成立しやすいし、強みが生かせそうですね。選曲にすると、毎月誰かに曲を選んでもらう必要があったり、使用料の問題も発生しますしね。

津留:空港とかもよさそうですよね。ロケーションのよい開けた場所にすごくマッチするAISOだと思います。


AISOを通して、理想の街や場を望む

日山:ここまでお話を聞いてきて、共通して“始まりと終わり”、“フェード・イン/フェード・アウト”をすごく意識されているなと感じました。それはこれまで楽曲という単位で音楽を作ってこられたからこそなのでしょうか?

やけのはらさん:そのあたりが自分がアンビエントに取り組むなかで面白く感じていて、興味を持っているポイントだったからですね。アンビエント音楽自体が東洋思想からの影響もあると思いますし、足し算よりも間や引き算の音楽なので。
別の言い方で例えるならば、海や川の流れだったり。そこにある水自体は流れてどんどん変わっていくけど、川自体は『○○川』としてそのまま存在している、認識されているじゃないですか。流れ続ける水のような音楽の状態、循環性と流動性みたいなところは、僕にとってのアンビエントの興味深いポイントです。

やけのはらさん:20世紀以降の音楽は、固定する「額縁」があるからこそ音楽として成立していたのかもしれません。それらが悪いと思っているわけではないですが、もっと違う可能性や視点があってもいいのではとも感じます。決められた「額縁」だけじゃなくて、長く大きく、全体像が見えなくなるくらいの「額縁」でも別にいいじゃんとも思います。

日山:やけのはらさんの思想とAISOの仕組み自体がちょうど相性がよかったんですね。
そして、水の流れの話は公共の場で聴かれることを想定して作られた今回のAISOにも繋がってくるなと思いました。不特定多数の人たちが行き交う場に、やけのはらさんの音楽が流れ続けるっていう意味でもすごく腑に落ちました。それに施設やお店で水の流れのような、聴くレベルを少し抑えた音楽が適した空間もあると思っていただけていたのも、僕が同じくAISOに可能性を感じているところなので嬉しく思います。

やけのはらさん :先ほどの「サウナに合いそう」っていう自分が意図していなかった解釈やシチュエーションで聴かれるのも、逆に面白いなと思いました。音楽をやっていると、そういった想像外の反応が1番面白かったりします。

日山:今回のAISOは、当初から街やお店などの公共の場で流せるものにしたいと聞いていたので、やけのはらさんが街に出たときにどういう音を発するんだろうか?と、とても楽しみにしていました。
実際に完成したAISOを聴いたときに、僕は「やけのはらさんからは街がこう見えてるんだな」って思ったんです。同じ街を見てるはずなのに、自分が見ている街と全然違った。AISOを通じて、やけのはらさんの目から見た街を見るのもすごく楽しかったです。

やけのはらさん:見ている面もありますけど、自分が望んでいる社会のかたちなのかもしれません。

日山:僕からすると、全く想像していなかった景色を見せてもらえたと感じています。ありがとうございました!


さいごに

最後にやけのはらさんのAISO『PARADISE LOST』リリースに寄せて、各方面からいただいたコメントもご紹介します。

●Koji Nakamura
AISOでの音楽制作は人によって様々な形になる。それは制作者が思い描く理想の社会の形成を表すようで面白い。やけのはらくんのAISO『PARADISE LOST』は、我々がもつ感覚の部分に言葉や知性を与えるような、或いは何かを知らせるような、そういった優しさに溢れている。

●中澤 敬 (春の雨cafe&records)
音を漂わせるのは難しい。約3分のぶつ切りにされた音楽の商品性は、人の意識を捕まえて離さない。
作者のイマジネーションはAISOを利用し、それから解放され美しく漂っている。その浮遊の連続性は宇宙に投げ出されたカプセルの軌道のように神秘的だ。
また、ある種の作家性すら部分的に放棄し、偶発的な音の成り立ちを尊重している。その偶発性は自然の造形のようでもある。木々を揺らす切れ間のない風のように美しい音楽だ。

●Go Hiyama
お声がけさせていただいた当初からやけのはらさんは、AISOによる音楽の社会実装を視野にとらえているのが読み取れた。アーティスト版としては新たな起点で、驚いた。
完成した音を聴いて、『PARADISE LOST』は本人が観ている景色とそれへの反応なのかもと感じる。憑依した気すらする。発する音はぐいぐいと目の前のフィールドを描き広げていく。「おお、ココはコウ観えるのか」とキョロキョロしながら歩を進める。空想散歩道。


【 10/8(日) イベントのお知らせ】

●「12時間リリパ」ハイブリットで開催します!
『PARADISE LOST』の発売を記念し、「12時間」にわたるリリース・パーティーを開催します!AISOによる楽曲の自動演奏をYouTubeで無料ライブ配信すると同時に、中延のアンビエント・レコード・ショップ&カフェ「春の雨」の店内BGMとしても再生予定です。

ご家庭にいながら、あるいは「春の雨」 に足を伸ばしてカフェ・タイム/バータイムを楽しみながら、AISOの楽曲を味わい尽くせる1日です!是非覗きにきてくださいね。AISOチーム一同、お待ちしています!

■日時:2023年10月8日(日) 11時~23時
■オンライン配信:AISO YouTube アカウントより
春の雨 cafe & records東京都品川区豊町6-5-1


●やけのはらさんのAISO『PARADISE LOST』が気になった方は、こちらからダイジェスト版をご視聴いただけます。

●AISOの購入はこちらからどうぞ!


Text,Edit: Mihoko Saka

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