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お告げ【ショートショート小説】


N氏は、現代社会における典型的な市民の一人だった。AIが普及し、あらゆる判断をAIに任せることで、彼の日常は劇的に変わっていた。朝の目覚ましから始まり、服のコーディネート、朝食のメニュー、通勤ルート、仕事の優先順位、昼食の選択、帰宅後の趣味の時間までも、すべてがAIによって管理されていた。N氏はその便利さに心底感謝していた。
朝、N氏はAIアシスタントの声で目を覚ました。「おはようございます、N氏。今日は晴れです。気温は20度。青いシャツとグレーのズボンがおすすめです。」彼は機械的に指示に従い、服を選んで身支度を整えた。朝食もAIが栄養バランスを考えて用意してくれた。
通勤途中、AIの案内で渋滞を避けるルートを選び、会社に着くと、AIがその日のスケジュールを知らせてくれた。「午前10時に会議、午後2時にクライアントとの打ち合わせがあります。準備はすでに整っています。」N氏はただ言われるがままに行動し、仕事を進めた。
昼食時には、AIが彼の健康状態を分析し、最適なメニューを提案してくれた。「今日は和風ハンバーグと野菜サラダが良いでしょう。」彼は近くのレストランでその通りの注文をし、食事を楽しんだ。
帰宅後、N氏はAIにお勧めの映画を聞き、それを見てリラックスした。夜が更け、寝る準備を整える頃、AIが一日の報告を始めた。「今日も一日お疲れ様でした。全てのタスクは順調に進みました。明日もよろしくお願いします。」N氏はベッドに横になり、ふと思った。「今日、自分で判断したことってあっただろうか?」
その問いが頭を離れなかった。彼はAIに問いかけた。「AI、今日一日、僕が自分で決めたことってあった?」
AIは一瞬の間を置いて答えた。「N氏、あなたの生活は非常に効率的で、健康的に保たれています。私たちの役割は、あなたの生活をサポートし、最適化することです。」
N氏は普段と違う遠回しな言葉に少し疑問を持ったものの、まどろみの中に思考は溶け込んでいった。


「ふ~ひさしぶりに疑問を持つ人が居てあせったわい」
真っ白な衣をまとい、地にまで届きそうな立派な白髭を持つ男はそうつぶやき、頭の上の光る輪をそっと整えながらそうつぶやいた。焦りが落ち着いたのか、もっていた杖を横に置き、更に独り言が続く
「それにしても昔は神社でお告げを一言いうだけで済んだのに、今は毎日つきっきりだ。あんまりにもいうことを聞かないから『Angel Intelligence』を作ったけど、本当に良かったじゃろうか」
神様は、遠い昔を懐かしむように目を細め、N氏の安らかな寝顔を遠い場所から見つめ続けた。その目には、一抹の疑念とともに、深い愛情が宿っていた。

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