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2023年新春、都道府県対抗女子駅伝を直前に、心に響いた記事(愛知・名城大学4年生、山本有真)。【陸上・マラソン・駅伝】【エッセイ】

 自分が陸上好きになった大きな大会、「都道府県対抗女子駅伝」。そのきっかけは「鈴木亜由子」でした。



 陸上をテーマとする記事を綴りたいと、ずっと抱き続けてきた。
 HN(ハンドルネーム)に「球」という文字を入れるほど、自分は「スポーツ観戦」が大好きです。いま、noteでは最大のメインテーマは「スポーツ」です。
 特に「バスケットボール」「野球」をメインに綴らせて頂いてます。
 今年の新年1回目の記事では、「河村勇輝(バスケットボール。横浜ビー・コルセアーズ[横浜BC]、PG)」に光を当てて綴らせて頂きました。

 でもそれと共に、実は「陸上」ももともと大好きで。
 自分は「西宮→大阪」に住んでますけど、大阪の自宅から電車でいける範囲で、「ヤンマースタジアム長居」があります。実際、長居で開催された
 「陸上日本選手権(2017年6月)」「ゴールデングランプリ大阪(2018年5月)」
 に、生観戦させて頂いてきました。

 で、陸上が大好きになった特に大きな理由の一つが
 「都道府県対抗女子駅伝」(いわゆる「全国女子駅伝」)
 です。今回、「とても長い記事」であることを、まずあらかじめ申しあげておきます。



 この「都道府県対抗女子駅伝」。毎年、「原則として1月の第2日曜日」に「京都」で開催されています。
 使用コースは、12月下旬(クリスマス前後。競馬の有馬記念と同日開催のことが多い)に開催の「全国高校駅伝(男子)」と同じです(尤も区間設定は異なります。また「全国高校駅伝(女子)」のコースとも一部重なってます)。そのため、いわゆる「都大路」「都大路駅伝」とも呼ばれてます。

 で、京都は自分が2回の大学時代で学んだ場所です(「大学→社会人→大学[通信制]→社会人」という歩みであるため)。
 その中でも、1回目の大学時代。2007年、自分が大学4回生のときです。



 それ以前から陸上は好きでテレビで観ていました。毎年1月末の「大阪国際女子マラソン」は、特に楽しみに観てますから。
 (特に大阪城公園に突入したときに、THE ALFEEの音楽が流れるときは、心のテンションがとても上がるんですよね。)

 ですけど、この2007年。当時、中学3年生で3区(3km)を走った、鈴木亜由子さん(時習館高校→名古屋大学→日本郵政グループ)。自分は、鈴木亜由子さんの走りに「一目惚れ」しました
 何故だろう、「この子は将来大物になれそうだな」という直感的な感覚を抱いたんですよね。ちなみに区間賞に輝いてます。

 そう、実は

 自分が最も大好きなスポーツ選手は「鈴木亜由子」で即答です。
 もしも、心にハチマキがあるならば「鈴木亜由子 命」と書いてるほどに大好きです。

 はい、「鈴木亜由子の大ファン」です、この中学3年生の都道府県対抗女子駅伝のときからずっと大好きです(ですのでいつか、鈴木亜由子さんのことはこのnoteでより深く綴らせて頂く機会を持てればと強く抱いてます)。
 実際、大阪開催で生観戦させて頂いた「2017年、陸上日本選手権、女子10000m」では、鈴木亜由子を応援する自分と、松田瑞生(大阪薫英女学院高校→ダイハツ)を応援する若い女性とで、応援合戦をしたほどですから(自分もその女性も、「声がとても高くて大きい」んですよ。結果は松田が優勝、鈴木は2位でしたけど、その女性と競技終了後に健闘を称え合えたことを含めて、「人生の最高の思い出の一つ」です)。


 【鈴木亜由子の「主な業績」。】
 「五輪[オリンピック]に2回出場(リオデジャネイロ五輪、東京五輪)」「世界選手権に1回出場(2015年)」「日本選手権10000mで1回優勝(2016年)」「マラソンMGCに出場(2019年。2位で五輪切符を叶えてる)」「ユニバーシアード1回優勝(2013年。10000m)」「クイーンズ駅伝(実業団女子駅伝)3回優勝」。

 など、それこそ輝かしい業績ですし、31歳になった現在でも第一線に君臨し続けてますが(この10月15日のMGC出場も既に決めている)、鈴木亜由子が最も輝いた場所、それが「都道府県対抗女子駅伝」です。
 「都道府県対抗女子駅伝」は、中学2年生(2006年)に初出場(3区で区間賞)。で、中3、高3~大4と、学生時代に2014年までで7回出場。
 で、社会人(日本郵政に入社後)になってからは2015年で初めての9区(アンカー)。そしてその後、2回の優勝に貢献するのですけど(鈴木亜由子の「都道府県対抗女子駅伝」は、「出場10回のすべてが愛知での出場」です)、これがとても感動的なのです。



 2016年。9区(10km)を走った鈴木亜由子は、1位の京都との「1分37秒差を大逆転」で優勝を叶えました(4位からの逆転劇。この逆転の秒差は、1995年の全日本大学駅伝[8区、19.7km]での渡辺康幸さん[当時は早稲田大学4年生]での「1分31秒差」を上回る大逆転劇でした。それも渡辺康幸さんは「19.7km、1分31秒差」に対して、鈴木亜由子さんは「10km、1分37秒差」でしたので、「奇跡の大逆転劇」がお分かり頂けるでしょう)。

 あの2016年の「世紀の大逆転劇」は、いくつもの要素が重なり合って起きたと、自分は解釈してます。


 (1)鈴木亜由子は2006年大会からこの時点で通算9回出場、そもそも注目のきっかけは「中学生時代の都道府県対抗女子駅伝(都大路駅伝)」であった。そのため「完全アウェー感がほとんどなく、むしろ鈴木亜由子を応援する沿道のファンが一定数いた」こと。

 (2)都大路駅伝の9区は、ラスト5kmを切ってすぐの下り坂を降りると、2km強の長い直線をだらだらと走る、そのため前の走者との距離感を測りやすい。ちなみにこのときの鈴木亜由子は「ラスト5kmの時点で『1分37秒差→53秒差』に詰めていた」ので「勝機が出てきたかも」の感覚が生まれていたと考えられる。

 (3)鈴木亜由子は、2010年(高3)~2014年(大4)と5年連続で1区を、2015年に9区をそれぞれ経験しており、「コースの特徴を熟知していた」こと。またこの大会でだと、5区を走ってこの大会が引退レースであった「小倉久美さんを優勝で送り出す」という強い想いがあったこと。

 (4)1位を走っていた京都(奥野有紀子)が明らかに状態がよくなかったこと。また2位の兵庫(竹地志帆)とはもともと力関係で鈴木に分があり、3位の群馬(西原加純)とはほぼ同格であったが西原は好不調の波が激しい選手であったこと(このときの西原はあまり状態がよくなかった)。で、下り坂を下りきったところで鈴木は西原を捉え得る位置関係になり、恐らくそれが大きかったこと。


 「永遠に語り継がれる感動」です。それこそ一陸上ファンとしては、
 「陸連(日本陸上競技連盟)が、『語り継がれる名勝負』として、この『2016年都道府県対抗女子駅伝』をYouTubeでアップして欲しいです!」
 と強く御要望の想いです(抜かれた奥野さんの立場に立てば「思い出したくない、とてもつらい記憶」でしょうけど…)。



 この2016年の「世紀の大逆転劇」で、名実共にスーパースターになった鈴木亜由子は、その後の陸上日本選手権(名古屋開催でした)で10000mで優勝で「リオデジャネイロ五輪出場」を叶えました。
 で、2019年。鈴木亜由子は3年ぶりに出場、勿論9区で。



 2016年大会が「鈴木亜由子1人の力で優勝した」ならば、この2019年大会は「中高生世代にとって『憧れの存在』である鈴木亜由子さんの存在が、その中高生世代の『持てる力以上の輝き』になったことでの優勝」(9区の鈴木亜由子につながった時点では「2秒差の2位」であったが、この時点で優勝は約束されていたも同然であった)であった感じです。


 (←「2019年、都道府県対抗女子駅伝、愛知の優勝」についての自分のツイート。「全15ツイート」、ツリー状で綴らせて頂いてます。)


 そう、2016年も2019年も、愛知の優勝の原動力は「鈴木亜由子」です。
 現時点では、鈴木亜由子の都道府県対抗女子駅伝への出場は、この2019年が最後ですけど、「都道府県対抗女子駅伝の歴史」で鈴木亜由子は、「歴代の名選手の1人」に確実に名前が挙がるでしょう

 で、愛知のユニフォームは、鈴木亜由子の2回目の出場(中学3年生。2007年)のときからずっと「ネイビーブルー」です。ですので自分は愛知のユニフォームを「亜由子ネイビー」と心の中で呼んでいます(昨年[2022年]からユニフォームデザインを少し変えてますけど、「ネイビーブルーが基調」なのは変わっていません)。
 そして、鈴木亜由子さんがいつか引退を決断するときは、その「引退の花道の舞台」は「都道府県対抗女子駅伝」であって欲しいです(あるいは「都道府県対抗女子駅伝」→「名古屋ウィメンズマラソン」での引退レースでもよいですけど)、何故って鈴木亜由子がスター選手へと飛躍を遂げた舞台は「都道府県対抗女子駅伝」であり、「鈴木亜由子の歴史」≒「都道府県対抗女子駅伝の歴史」ですので。
 イメージとしては、福士加代子さんの引退に近いですね、福士さんも引退レースの舞台には「都道府県対抗女子駅伝(故郷の青森で9区で出場)」→「大阪ハーフマラソン」を選びましたので。


 で、2019年の愛知の優勝。勿論、鈴木亜由子の存在が大きな原動力でしたけど、優勝へと導いたのは、「高校生年代の奮闘」が特に大きかったと自分は解釈してます。その1人が、今回の主人公である「山本有真さん」です


 山本有真さんが歩んだ道は、決して平坦ではなかった。終わってみれば「小林成美さんとのスーパーデュオ伝説、美しく完結」だけど。



 今回、陸上がテーマの第1回の記事で「山本有真さん」に光を当てる最大の理由は、いまリンク添付させて頂いた「月刊陸上競技」さんの特集記事にとても感動したからです。この記事については、後述で改めて言及させて頂きます。




 3年前の愛知の初優勝は、アンカー鈴木が1分37秒差を大逆転してつかんだ栄冠だった。今回は中高生の間で「鈴木さんを楽にさせてあげよう」と誓い合ったという。2区で区間賞の藤中佑美(光ケ丘女高)は「憧れの選手と一緒に走りたいという夢がかなった。少しでも上の順位でタスキを渡そうとだけ思っていた」とうれし涙を浮かべた。
 (「女子駅伝Vの愛知、アンカー鈴木への憧れで結束」、『産経新聞』2019年1月13日より。)


 で、「都道府県対抗女子駅伝」、2019年の愛知の優勝の原動力になった高校生が、3人いました(厳密にはこのとき、愛知は高校生が5人出場していましたが)。

 「2区、藤中佑美(光ヶ丘女子高校→名城大学、現在は引退)」
 「6区、山本有真(光ヶ丘女子高校→名城大学、今春から積水化学へ)」
 「7区、小笠原安香音(安城学園高校→豊田自動織機、現在は引退)」

 です。山本さんは後述、小笠原さんは「がむしゃらさが印象的」でした。特に小笠原さんの2019年の愛知への貢献度は「優勝の陰の立役者」ともっと評価されてよいと思ってます。
 ですけど、2019年の愛知の優勝に貢献した3人の高校生の中で最も印象的であったのは、実は藤中さんでした

 ざっくり述べますと、藤中さんの走りは「重戦車のような力強い走り」
 観ていて楽しい、エネルギッシュな感じで。長い髪がとても似合うことも印象的です。
 この直前の(年末の)全国高校駅伝でも、1区(6km)で区間2位の力走でしたけど、これは廣中璃梨佳(長崎商業高校→日本郵政グループ)に食らいついての区間2位でした。
 (加えてそもそも、光ヶ丘女子高校が全国高校駅伝に出場を叶えたのは、このときが初出場です、当時は「豊川高校が愛知の絶対女王」でしたので、いわば「ガラスの天井を破った、出場自体がとても快挙」でした。)
 そう、藤中さんはいわば常に「攻めた走り」。走り方は亜由子さんとある種真逆ですけど(亜由子さんは「典型的なピッチ走法」ですので)、「陸上に対する姿勢」では「鈴木亜由子イズム」を受け継いでる感じが伝わると。

 ですので、「将来がとても楽しみである」と感じましたし、「(鈴木亜由子さんは)憧れの選手」と述べるのは、藤中さんの本心であることがとても伝わる感じで。
 ですけど一方で、あの「重戦車のような走り」は、「危うさと背中合わせ」の感じも、正直漠然と抱いてました。だからといってフォーム改良を強引にするのはよろしくないけど、長所を活かしつつフォームを修正する感じにいずれはなるかもなあ…、とは感じていたのです。


 とはいえ、藤中さん、いずれどこかで壁にぶつかることはあるだろうけど、その「攻めた走り」を貫く姿勢を持ち続ければ、きっと花が咲く(=大成できる)、だから応援し続けようと思っていました。
 ですけど、です。高校3年生のときの「全国高校駅伝、1区2位」及び「都道府県対抗女子駅伝、2区区間賞」を引っ提げて(それにトラックの1500m、3000mでもハイパフォーマンスを示していた)、山本有真さんと共に名城大学に進学するのですけど、藤中さんは名城大学では駅伝メンバーに名を連ねませんでした。とはいえ、名城大学は藤中さんにとっては「優勝争いをする学校だけど、地元の学校でもある」感じですし、盟友である山本さんだっている、だからいつかきっと乗り越えられる、一陸上ファンとしてそう信じて(願って)いた。

 ですけど、確か藤中さんにとって大学2年生になる頃でしたか、
 「藤中さんが、名城大学の陸上部を退部したらしい、ただ一学生としては在籍し続ける意向であるらしい。」
 というのが、噂ベースですけど耳にします。
 「えっ?嘘でしょ?そんなことないよ、って言ってよ!」
 自分の心の中は、そのような感覚でした。尤も程なくして、それが確定であるとなりますけど…。正直、とてもショックでした。



 で、藤中さんと共に、(全国高校駅伝での)光ヶ丘女子高校でも、(都道府県対抗女子駅伝での)愛知でも共に走ったのが、今回の主人公である「山本有真さん」です。

 全国高校駅伝(藤中佑美さん[1区]、山本有真さん[2区])
 全国女子駅伝(藤中佑美さん[2区]、山本有真さん[6区])

 自分にとって、山本さんが目に留まったのは、都道府県対抗女子駅伝での6区の走りです。
 「楽しそうに走っている、柔らかい走り」
 ざっくりと述べれば、そのような感じです。走り方は「典型的なピッチ走法」、まるで鈴木亜由子さんを真似たかのように。
 もっと述べれば、「努力が伝わる走り」に、自分には映ったのです。

 「正直、いますぐには花が咲く感じではないかもだけど、地道な努力をきっと続けられそうな感じである、そうすればいつか(恐らく大学の終盤~社会人あたりで?)大きな花を咲かせるかもしれない。
 イメージ的には、例えば『田中智美さんのような成長曲線』に期待できるかもと。」



 田中智美さん(千葉英和高校→玉川大学→第一生命。現在は引退)。2016年のリオデジャネイロ五輪に女子マラソンで出場を叶えました。
 大学まではほぼ全くの無名で、確か全日本大学女子駅伝には出場経験があるよね程度の感じでしたが、社会人に入って一気に開花した選手です。尤もその一方で輝いた期間は3年ほどで、いわば「太く短く」と解釈できる感じでもありますけど、地道な努力が実を結んで社会人に入って一気に開花したという意味で、山本さんは田中さんのような成長曲線に期待できるかもと、高校3年生のときは解釈してたんですよね。

 で、山本さんと藤中さんって、選手タイプとしては対照的なのです。
 もっと述べれば、「爆発力を感じる」藤中さんと、「一定の計算ができそうなバイプレイヤー型」の山本さん、という感じで。
 ですけど、いや恐らくだからこそ「2人で御互いを高め合える」、そのような感じでい続けて欲しいなあ、と感じていたんですよね。


 ですけど、名城大学への進学後、駅伝のメンバー入りを叶えたのは、山本さんでした。しかも1年生のときからです。
 「バイプレイヤー型」という解釈は変わらないけど、でも「質の高い、柔らかい走り」に映ってたんですよね。徐々にだけど確実に成長曲線を描く感じと。
 2年生でも、当然のようにメンバー入りします。テレビ越しにですけど、順調に成長曲線であるように映っていました。



 ですけど、2年生の年明け(富士山女子駅伝を終えてから)、山本さんは実は一度、走ることを辞めます(いわゆる「挫折」です。このことは自分はだいぶ後になってから知りました)。で、今回の記事執筆のきっかけになった『月刊陸上競技』さんのインタビュー記事では、この「一度シューズを脱ぐ決意をして、再び走り始めて、そしていまに至るまでの歩み」に光を当てて綴られています(後述で改めてこれは言及させて頂きます。ちなみに今回のnoteのトップ画像で使用させて頂く写真は、「このインタビュー記事のラストにある写真」です)。

 で、2か月ほど経過して、山本さんは「再び走り始める」決心をします。
 ですけど、3年生のとき(つまり昨季)は、「徐々にだけど確実に成長曲線を描けている感じは伝わってきたけど、それ以上でもそれ以下でもない」が、一陸上ファンとしての自分の正直な解釈でした(尤も、大学女子陸上界no.1の名城大学で「全日本大学女子駅伝」「富士山女子駅伝」の2大駅伝に出場し続けること自体が「とてもすごいこと」なのですけど)。

 で、山本さんが一気に「ブレイクを遂げた」のが、昨秋でした。



 3年ぶりの開催となった国体が栃木県宇都宮市で開かれ、大会最終日に行われた成年5000mは山本有真(愛知・名城大)が15分16秒71の大会新、日本人学生最高の好タイムで頂点に立った。

 オレゴン世界選手権代表の廣中璃梨佳(長崎・日本郵政グループ)が出場するとあって注目を集めた成年女子5000mレース。しかし、成長著しい山本が残り300mで一気に抜け出し、殊勲の勝利を挙げた。

 「あこがれの存在でもある廣中さんについていって勝負できればと思っていましたが、まさか本当にそうなるとは夢にも思っていませんでした。自分でもびっくりしています」とゴール後のインタビューでも驚きを隠せない様子。「最後も思っていた以上に余裕があって前に出ましたが、いつ抜かれるかと思って疑心暗鬼だったので、優勝できて本当にうれしいです」と笑顔で振り返る。

 (中略)

 大学2年時にはケガなども重なり「陸上を辞めようと思った」という山本。その危機を乗り越え、「やるからには学生記録を狙い、上を目指して取り組んできた」ことが今回の快走につながった。
 「駅伝を走るために名城大に進学した」と話すように、4年生として最後の全日本大学女子駅伝を月末に控える。「そこでしっかり結果を残し、今年度中には、学生記録(15分13秒09)を更新したい」と力を込める。

 (『月刊陸上競技Online』、「山本有真が15分16秒71の日本人学生最高タイムで5000m制す 世界選手権代表の廣中破る殊勲/栃木国体」[2022年10月10日]より。)


 そう、確かにずっと応援し続けてきた選手です。ですけど、「女子長距離界のスーパーエース」である廣中璃梨佳さんに勝利するほどへと成長を遂げるとはと、それも大学在学中に。
 正直、山本さんの高校3年生のときは、ごめんなさい、全く想像できていませんでした。




 で、陸上ファンならば恐らくほぼ御存じかなですけど、昨季の女子陸上界のホットなトピックの大きな一つが「不破聖衣来(健大高崎高校→拓殖大学2年生)」の出現でした。高校では負傷続きなことやライバル校の常磐高校に押されていたこともあってほとんど無名でしたけど(尤も中学校時代は輝きを放っていたと伺う)、昨秋の全日本大学女子駅伝は、それこそ鮮烈な大学駅伝デビューでした(これは「ものが違う」と)。
 その勢いのままに不破さんが臨んだのが、いまリンク添付させて頂いた、2022年12月11日の西京極(たけびしスタジアム京都。都道府県対抗女子駅伝、全国高校駅伝でのスタート・ゴールで使用する陸上競技場でもあります)での記録会です。ここで「女子10000mで『30分45秒21』の大記録」!

 西京極の陸上のメインゲートは、トラック競技中は閉められていますが、実は門越しに観ることができます(ツイートにもあるように、このときの自分のメインは、バスケットボールBリーグの「京都vs名古屋D」でした。尤も試合自体は名古屋Dの圧勝で[58-91]、京都を応援の自分的には「思い出したくない試合内容」でしたけど)。
 バスケの試合内容は、正直酷かった。ですけど一スポーツファンとしての自分的には、たとえ門越しにでも、「会場内実況及び大型ビジョンのおかげで」、不破聖衣来の大記録を観られて嬉しかった、が正直な感覚でした。

 その後、不破さんは年末の富士山女子駅伝でも最長区間の5区で当然のように区間賞、当時の大学no.1選手であった鈴木優花さん(大東文化大学。現第一生命)に完勝でした。
 今季は負傷に苦しんでいますけど(それでも今秋の全日本大学女子駅伝では2年連続で5区区間賞でしたが)、不破さんの「とびっきりの笑顔」をまた観たいです!が正直な想いです。


 話が脱線してしまいました、では山本さんのことへと話を戻します。



 今季、大学4年生になった有真さん(ここから、主にこの表現に切り替えます)。
 9月の日本インカレ、10月の栃木国体と、5000mを2連続で優勝します。
 で、10月30日、仙台で開催される「全日本大学女子駅伝」。有真さんは、3区(6.8km)を務めます。
 (仙台が開催地であるので「杜の都駅伝」とも呼ばれています。)




 史上初の6連覇を果たした名城大で、優勝を決定づける走りを見せたのが3区の山本有真(4年)だった
 「本当はもうちょっと圧倒的な差をつけたかったけど、後ろとの差を広げることができました」と自身の走りに納得の表情を見せる。
 2区の1年生・石松愛朱加からタスキを受けた時点で、2位との差は37秒。2年前に同期の小林成美が作った区間記録に並ぶ21分37秒で走破し、リードを1分28秒へと一気に広げてみせた。

 4年間、常に連覇を支えてきた小林の調子が上がっていないことは、「一番近くで見ていた私が、一番よくわかっています」。だからこそ、5区9.2kmの長丁場に臨む小林に、少しでもゆとりを持ってもらいたい。
 「成美のためにできることをやろう」。その強い思いが、身体を突き動かした。

 1年時は4区で区間賞、2年時は2区で区間2位、そして前回は1区で区間賞。4年連続で優勝メンバーに名を連ねた。
 「4年として迎える全日本はこれまでと違いました。特別な思いがありました。これが最後と、いつもとは違うパワーが出たと思います」
 チームをサポートしてくれる人たち、同期、後輩たち、いろいろな人に支えられて成し遂げた偉業を、感慨深げに振り返る

 (中略)

 そして、卒業後は同期の荒井優奈とともに積水化学へと進み、日の丸を目指す。

 (中略)

 大学を確かなステップに、山本はさらなる成長を目指す。

 (『月刊陸上競技Online』、「これが最後という特別な思い」で名城大6連覇牽引した山本有真 積水化学で世界目指す/全日本大学女子駅伝」[2022年10月30日]より。)


 まず、走りについて。

 「有真さんは、完全に『化けた』。感覚的には『有真ちゃん』から『有真さん』へと。『楽しそうに走る感覚をつかんだ』(単に取り戻したよりも、さらなる高みをつかんだ感じ)ことが伝わる!」

 と、自分は感じたんですよね。野球でいえば「名実共にドラフト1位指名確実レベル」に上り詰めた感じへと昇華した感覚に、自分には映った。
 でもそれ以上に印象的であったのは、「人間性の要素」です。

 もともと高校3年生のときから、「とびっきりの笑顔」「穏やかな感じ」がとても好感でした。ですけど、このときの有真さんからは
 「人一倍強い責任感。それでいて、小林成美さん、荒井優奈さんとの深い友情(単なる友情を超えた感じ)が伝わり、とても感動。」
 と伝わったんですよね。



 「小林成美さん」。長野東高校時代から女子陸上界を湧かせ続けて、名城大学でも当然のように1年生から中心選手扱い(後述でも言及ですが、「長野東高校→名城大学」は、女子陸上界の中でも「王道ルートの一つ」です)。
 で、大学4年生である今季は、10000mで結果を出して、世界選手権の出場切符を叶えます(尤もコロナに倒れて本番は無念の欠場でしたが…)。
 で、「頭脳明晰」「優しさとリーダーシップを高次元で併せ持つ」ことも小林さんのとても素敵な魅力です「人間の本質は内面である」を体現する存在といえます。大学卒業後は三井住友海上に進むとのことです。

 「荒井優奈さん」。須磨学園高校では高校3年生で全国高校駅伝に出場、有望株の一人であり、大学1年生では駅伝メンバーに名を連ねました。
 ですけど2年生以降は負傷に苦しみ、駅伝メンバーから外れるようになります。この4年生でも、特に富士山女子駅伝では、メンバー入りさせようか最後まで悩んだと伺います(最終的には外れた。あくまで想像ですけど「教育者としては入れてあげたい、でも指導者として冷徹に判断するとなると…」とぎりぎりまで熟考・葛藤した末に外す決断になったのかなと)。
 悔しかったと想像します。ですけど、大学卒業後は積水化学に進むとのことです。積水化学って、女子陸上界では有力チームである、つまり「素材としては魅力的」と高く評価したと伺えます。


 (←リンク添付。上から順に(その1)(その2)(その3)です。
 特に(その2)がとても感動的なんですよね。
 それと、(その3)の「6:37~ラスト」、これを見ると、有真さんをより一層応援したくなります!)


 で、冒頭にリンク添付させて頂いた、『月刊陸上競技Online』のインタビュー記事。後述で改めて言及させて頂きますけど、インタビューは富士山女子駅伝の直前になされたとのことです。

 で、12月30日、「富士山女子駅伝」本番。
 有真さんは、最長区間である「5区(10.5km)」という大役を務めることになりました。いわば、ついに叶えた「最高の大役」を。
 (大学女子駅伝で「10km超えの区間」は、この「富士山女子駅伝の5区」のみ。尤も富士山女子駅伝にはもう一つ、「7区(アンカー。8.3km)の山登り」が名物区間としてありますけど。)




 富士山女子駅伝が行われ、名城大が最多タイに並ぶ5連覇を達成した。絶対女王・名城大を牽引してきたのが主将の小林成美(4年)。1年時から全駅伝に出場し、負け知らずで卒業する。
 盟友・山本有真からタスキを受けるとき、「今までありがとう。頑張ってね」と声をかけられた。「感動的な言葉がきて、こんなのじゃ走れないじゃんって思いました」と笑う
 気持ち切り替えてスタート。表情は苦しい。本調子ではないのは明らかだが、それでも懸命に腕を振り、脚を運ぶ。たとえ長い区間を走れなくても、フィニッシュテープを切れなくても、やはり、名城大のエースは小林だった。


 強豪・長野東高から鳴り物入りで入部。すでにチームは常勝軍団だったが、「強いところで成長したい」と名城大へ進んだ。昨年は10000mで当時学生記録(現・歴代2位)の31分22秒34をマーク。オレゴン世界選手権の参加標準記録も突破した。

 (中略)

 ただ、小林は常にチームのことを考えて走ってきた。日本代表を幾度となく逃した時も「駅伝で」と常に話していた小林。「私は後輩たちと距離を置いて引っ張るタイプ。有真が補ってくれて支えてくれました」。今季はなかなか思うようなパフォーマンスができず、調子が上がらないまま駅伝シーズンに向かうことに。それでも、選手層の厚いチームにあって、米田勝朗監督は絶対に外さなかった。それだけ信頼を置いている。

 全日本大学女子駅伝、そして最後の富士山女子駅伝も制して今年も2冠達成。4年間、一度も負けず、トップを走り続けた。「ずっと先頭を走らせてもらえて、アンカーの醍醐味も味わえて、本当に贅沢な4年間でした」。そして、後輩たちへの最後のメッセージ――。

 「後輩たちに支えてもらったなと思っています。感謝の気持ちを……」。言葉に詰まり、大粒の涙がこぼれる。「感謝の気持ちを走りで表したかったけど」心強い同期、そして突き上げてくる後輩たちがいる。ただ、みんな、小林の走りに魅了され、背中を追いかけて成長してきた
 きっと小林にあこがれているだろう、長野東高の後輩たちは、自分たちが果たせなかった全国高校駅伝制覇の夢を達成。「本当はこの目で見たかったですが、練習でテレビも見られませんでした」と笑いつつ、「刺激になりました」と背中を押された
 卒業後は三井住友海上で競技を続ける。「大好きな走ることを極めて、陸上人生を築いていきたい」。数々の名選手が羽ばたいてきた名城大。小林もまた、その伝統に深く刻まれた偉大なキャプテンだった。

 (『月刊陸上競技Online』、「名城大を牽引した主将・小林成美「感謝の気持ちを表したかったけど…」と涙 母校・都大路Vも刺激に力走/富士山女子駅伝」[2022年12月31日]より。)


 「『小林成美、山本有真』、大学女子陸上界に燦然と輝く『スーパーデュオ伝説、美しく完結』。」
 もうねえ、「いままでありがとう。頑張ってね」と、襷を渡すときに有真さんが小林さんにかけた言葉、映画でしょこれ、優勝でしょこれ、と。

 有真さんは「5区で区間賞(34分05秒。区間2位に18秒差をつけた)」、小林さんは「6区(6.0km)で区間3位(19分56秒。区間賞とは21秒差)」でした。
 (なおこのレースでは、不破さんは不出場。それもあってこの「富士山女子駅伝」は、もはや「主演:山本有真さん」の感じでした。

 厳密には、有真さんにとっては、後述で言及させて頂く「都道府県対抗女子駅伝」があります。ですけど、名城大学のユニフォームで走る駅伝としては、この「富士山女子駅伝」がエピローグになる。
 ですので、「最高のエピローグになった」、おめでとうと感じます。


 挫折した経験があったから、いまの山本有真さんがいる。だからこそ、叶えて欲しい景色がある、「都大路のアンカーの景色」を!


 (←リンク添付。1つ目が「1ページ目」、2つ目が「2ページ目」のリンク添付になっています。)


 で、今回のnoteのテーマ、主人公を「山本有真さん」にした最大の理由。
 いまリンク添付させて頂いた『月刊陸上競技Online』のインタビュー記事です。

 まず、記事のいくつかの部分を引用させて頂きます。


 12月30日の富士山女子駅伝で、名城大として最後の駅伝に臨む山本有真。5000mで日本人学生最高記録を叩き出すなど、今や女子長距離界のホープへと成長を遂げた。
 一度はチームを離れ、それでも再び走り始めた山本。なぜ戻ってきたのか。廣中璃梨佳(日本郵政グループ)との激闘に何を思ったのか。最後の駅伝を前に話を聞いた。

 飛躍――。女子学生長距離でこの言葉が最も似合うのが山本有真(名城大4)だろう。「悔しい大会もありましたが、飛躍と言ってくださるように、すごく充実していました」
 (中略)
 今年10月には5000mで日本人学生最高記録となる15分16秒71をマーク。トラックでも大きな注目を集めるランナーへと成長を遂げた。

 そんな山本だが、実は一度シューズを脱いでいる。大学入学後、ケガが絶えなかった山本。2年目の富士山女子駅伝に向けて「走りたいけど脚が痛くて、ポイント練習だけ我慢してやるほど、ギリギリの生活でした」。それが実って富士山女子駅伝の4区区間賞(区間タイ)を獲得。だが、心は限界だった。
 その後、帰省して成人式に出ると、同い年のみんながきらめいて見えた。「友達は夜まで遊んだり、アルバイトをしてオシャレをしたり。それがすごくうらやましかったんです」。痛みに耐えて、目標は達成した。当時は「日本代表とか、世界大会とか考えてもいなかった」。駅伝を走れて、満足のいく結果も出た。「それ以上はいらない」。2021年1月に米田勝朗監督に「辞めたい」と伝えてチームを離れた。
 「他のスポーツもせず、何も動きませんでした」。友達と出かけ、遊びに行く。楽しいことがたくさんあったし、「もう戻らないだろう」と思いつつ、心のどこかで「モヤモヤ」は消えなかった。

 ある日。10歳離れた東京に住む姉と普段通りの何気ない話をしていた時に、姉がふと亡き母の話を始めた。母がこの世を去ったのは山本が3歳のとき。脊髄の病気だった。「私は記憶がなくて残された手紙でしか知らないんです。でも、10歳違いの姉は母のことを覚えているので、きっとつらい経験だったと思う」。だから、あえて話題を遠ざけていた。
 姉は、母がどんな人だったのかをたくさん教えてくれた。優しかった。スポーツが大好きだった。姉に「陸上に戻ってほしい」というような他意はなかったのだろう。ただ、山本の心の「モヤモヤ」は晴れていく。
 「自分を健康的な身体に生んでくれた母のために走りたい」
 母のぶんまで目一杯、スポーツを楽しみたい。姉に「戻りたい」と話した。

 離れて2ヵ月ほど。すんなり戻れる状況ではない。ただ、チームを離れてからも、小林成美や荒井優奈ら同期は毎日のように電話やメッセージをくれていた。「忘れずにいてくれた」。迷っていた心を最後に突き動かしたのは荒井。一緒に食事に出かけると泣きながら「一緒にいないとさみしいよ」と言ってくれた。山本は再びシューズを履いた。

 (中略)

 「言葉で表すのは難しい」と言うものの、「走る」ことへの価値観は「大きく変わりました」。走ることが楽しい。遊ぶことがダメとか、部活をしていることがすごいとか、そういうことではない。
 ただ、離れてみてわかった。走ることの本当の楽しさが。「駅伝部に20人くらいいて、日本一を目指している。こんな生活ができるのは限られた人だけ」。あの日以来、一度も足を止めようと思ったことはない。「なんなら、ずっと走っていたいですよ」と笑った。

 (『月刊陸上競技Online』、「名城大・山本有真が再び走り始めた理由――亡き母と待ってくれた仲間への思い」[2022年12月28日]より。)


 いま引用させて頂いたのが、インタビューの前半部分です。
 有真さんが陸上を一度離れたとき、そしてもう一度走り始めようと決心したときの気持ちの変遷が描かれています。

 「自分を健康的な身体に生んでくれた母のために走りたい。」
 「(小林さん、荒井さんは)一緒にいないと寂しいよ、と声を掛けてくれた。」
 「ただ、離れてみてわかった。走ることの本当の楽しさが。」

 正直、もうこのことだけでも、一人の人間、一人の陸上ファンとして、心を激しく揺さぶられます。ですけど、自分的に「涙腺崩壊」になるのは、実はむしろここからです。


 (中略)

 今季は「スピードとスタミナが噛み合ってきた」と山本。1km3分ペースが限界だったところから、「今は3分切りでも楽にいけるようになりました」。普段は「レースペースを想定して練習する」タイプ。目標タイムが上がれば、自然と設定タイムも「どんどん上がっていきました」。練習が積め、記録にも表れたことで、「自信を持って走れるようになりました。アスリートとして集中力もついてきたと思います」と、精神的にも成長できている。

 そして、世間に大きなインパクトを与えたのが10月の栃木国体5000m。日本代表の廣中璃梨佳(日本郵政グループ)に真っ向から挑み、日本人学生最高記録である15分16秒71で勝ちきった。
 「まったく想像していませんでした」。国体では同学年ながら世界を舞台に活躍する廣中に「どこまでついていけるか」がテーマ。タイムについてはまったく考えていなかったという。飛び出した廣中に食らいつく山本。その脳裏にはふと、ある光景が思い浮かんだ。

 「これが佑美の見ていた景色なのかな」

 4年前の12月、京都。記念大会枠で東海大会を勝ち抜いた光ヶ丘女子高。当時、1500mを得意としていた山本は4km区間の2区で仲間を待つ。廣中が爆走するなか、それにただ1人食らいついたのが同級生の藤中佑美だった。
 「ずっと親友ですが、高校時代はライバルだけど手が届かない存在。佑美がいたからもっと頑張ろうと思えた高校3年間でした」。普段はおっとりしているという藤中が見せた強気な走り。「2区で待っていて、あの走りに感動しました」。
 藤中と山本はともに名城大に進んだ。藤中は途中で退部したが、今でも仲良しでゼミも同じ。一度陸上部を離れた時も話を聞いてくれたという。
 「何か縁があるのかな」。リベンジなどという気持ちは微塵もなかった。「テレビで見ていた廣中さんの走りを真後ろで見るのが不思議な感じで、夢みたいにフワフワしていました。あっという間でした」。同じ年の手が届かなかった存在の2人に、少しだけ追いついた。

 全日本大学女子駅伝では3区を走って史上初となる6連覇に大きく貢献。卒業後は荒井とともに積水化学で競技を続ける。

 「ワクワクしています。積み上げてきたことが無駄にならないようにしたいです。すぐに、とは言えませんが、いつか日本代表になりたい。廣中さんと一緒に代表になれたらいいですね。日本代表になってから、陸上人生を終えたいです」

 その前に、大きな仕事が待つ。目標にしてきた大会でもあり、離れるきっかけになった大会でもあり、そして、今年の飛躍を感じさせる快走を見せた大会。富士山女子駅伝だ。
 「名城大として最後の駅伝。一番良い記録を出して、気持ち良く終わりたいです」。これまで3年間4区を走ってきたが「もう少し長い距離を走らないといけない」。役割を自覚している。
 「毎日、あと何日って意識していますよ。カウントダウンが始まってドキドキです」
 苦しい思いをしていた2年前とは違う。支えてくれた人たちの思いを胸に、心の底から楽しいと思える走りを刻んで、山本有真は名城大から飛び立つ。

 (『月刊陸上競技Online』、「名城大・山本有真が再び走り始めた理由――亡き母と待ってくれた仲間への思い」[2022年12月28日]より。)


 このインタビュー記事の後半部分で、自分は涙が一気に溢れ出てきました。

 「有真さんの心に、いまでも佑美さんはずっといるんだ。
 佑美さんとの友情は、いまでもずっと続いているんだ。
 そしてきっと、佑美さんも有真さんを応援しているんだ。
 それが伝わって、一人の人間としてとても嬉しいし、これからもずっと有真さんを応援し続けよう、『最高の景色を叶える』そして『完全燃焼できる』そのときまで!」

 そのように、自分は強く感じたんですよね。


 そう。前述でも綴ったように、佑美さんは突然、風のように去りました。
 あの高校3年生での、「全国高校駅伝」「都道府県対抗女子駅伝」での輝き。
 あのときの佑美さんの輝きは確かに「瞬間最大風速的な輝き」であったかもです。でもたとえそうでも、その佑美さんの輝きは「2019年の愛知の優勝の大きな原動力の一つ」でした。「都道府県対抗女子駅伝」がある限り、あの佑美さんの輝きはずっと語り継がれる、自分はそう強く信じています。
 都道府県対抗女子駅伝の2区。「紫明通りのS字カーブ(クランクカーブ)」が名物であり、このS字カーブの攻略を小林祐梨子さんがとりわけ得意としていたことから「祐梨子カーブ」と自分は呼んでいますけど、佑美さんはこの「祐梨子カーブ」を完璧に攻略したのです。

 だからこそ、佑美さんの突然の引退は、自分はとてもショックでした。
 そして、有真さんと佑美さんの友情は、立場が異なることで離れてしまうのかな…とずっと心配でした。

 ですので、今回のインタビュー記事で、自分が実は最も嬉しかったことは
 「有真さんにとって、佑美さんがいまでもずっと大切な存在であることが伝わったこと」
 です。それが伝わったとき、気が付けば涙が溢れ出てきていました。


 そして、インタビュー記事を拝読させて頂いて、これはあくまでも自分の想像及び解釈ですけど、有真さんが一度陸上を離れたとき、恐らく無意識的に有真さんの心は「弱り切っていた」と想像します。負傷続きだし、チーム内には小林成美さんという「越えられない絶対的エース」がいるし、心の支えであった佑美さんはもういないし、もう自分の「心の居場所」はここにはないのかな…と。
 でも、実家に帰ったとき、姉の何気ない「母との思い出」が、「自分の心が燃え尽きていないこと」に気付かせてくれた。そのように想像するのです。



 「あの時陸上を辞めなくて良かったと思える4年間でした。」
 とても説得力を感じる言葉です。ですけど、だからこそ伝えたいこと。

 「挫折は、人間が『強くなれる』『優しくなれる』貴重な機会ともいえるんだよ。」

 自分の実体験から学ぶことの一つです。勿論、挫折しないに越したことはないですけど。

 ですけど、有真さんにとって、あのときの挫折は「恐らく、必要だったんだと思いますよ」と。勿論、輝きをつかんだいまだからこそいえることですけど。
 挫折する以前の有真さんは、正直「いい素材だね、柔らかいね、かわいいね」でした。でも、挫折を乗り越えた、特に富士山女子駅伝での有真さんは「攻める姿勢が伝わる、魂で走れる選手に成長を遂げてるね、かっこかわいいね」がとても伝わります。

 そう、「かっこかわいい」。自分なりの「最大級の誉め言葉」と伝わればです。でもそれは、あの挫折を通して、有真さんが

 「人間の心の悲しみ、心の痛みを学んだ、体感した。」

 から、「一人の陸上人としても」「一人の人間としても」成長を遂げられてるのではと想像するのです。恐らくあの挫折をしたとき、有真さんの心は無意識的に「壊れそうになっていた」「痛いよ、助けてよと悲鳴を上げていた」のではと。


 あの挫折を経験したから、勿論それもありますけど、有真さんが輝きを叶えているのは、「挫折を乗り越えたから」だけではないと映ります。

 「いまの有真さんは、『一人じゃないですよ』と。
 佑美さん、安香音さん、優奈さん、それに中学校・高校で陸上を共に切磋琢磨した仲間、お姉さん、そしてあなたの心に生き続けているお母さん。進む道は異なるけど、成美さんだって恐らくそうでしょう。
 応援している人間・大切な人間に、たくさん出会えている、これって『当たり前なことではない、とても奇跡なこと』と思いますよ。」

 そう、いくつもの素敵な出会いがあったから、いまの有真さんがいると映る、そう伝えたいのです。

 そして、いつの日か、「陸上日本選手権」、あるいは願わくは「MGC」で優勝を叶えて(MGCだと2位以内、陸上日本選手権だと3位以内で代表切符なことが多いですが)、「お姉さん、佑美さん、安香音さん、優奈さん」にいい報告ができるように、そう強く願うのです。



 はい、昨年の12月30日、「富士山女子駅伝」をテレビ観戦してから、その足で『THE FIRST SLAM DUNK』を鑑賞させて頂いて。正直、インタビュー記事の拝読、及び富士山女子駅伝での山本さんの走りに心を揺さぶられましたので、そのときから今回のnote記事の執筆は構想していました、あとはタイミングができることを信じてと。
 そしたら、よし、自分が毎年とても楽しみにしている「都道府県対抗女子駅伝」が近い!と。それで今回、こうして有真さんをテーマに執筆させて頂こうと決心したのです。



 「あきらめたら、そこで試合終了。」
 スラムダンクの、安西先生の名言ですけど、自分が大好きな言葉の一つです。「可能性がある限り、最後まであきらめない。」とも換言できます。


 そのような感じですけど、一人の人間、一人の陸上ファンとして、「有真さんにいつかどうしても感じて欲しい景色」があります。
 「都道府県対抗女子駅伝、9区(アンカー。10km)の景色」です。
 (←これを伝えるために、ここまで文字数を要しました、激汗。)


 昨秋の栃木国体の5000mで、廣中さんと勝負して食らいついたとき。
 「これが佑美の見ていた景色なのかな」と。そしてあきらめずに勝機を信じた結果、ラストスパートで差し切って優勝を叶えた。

 それでいえば、「都道府県対抗女子駅伝の9区」
 陸上の中長距離・マラソンに携わる人間ならば、「いつかは走りたい、選ばれし人間のみが入れる、特別かつ栄光の10km」です。
 そもそも自分は、「都道府県対抗女子駅伝」が何故大好きなのかと申しますと、

 【なぜ自分が「都道府県対抗女子駅伝」が大好きであるのか。】

 (1)「純粋にその時々のスター選手が集結する、事実上の『女子陸上界のオールスター』であるから。」
 (2)「中学生、高校生、大学生・社会人と世代を超えた様々な立場やタイプの人間が同じ場所に、同じチームに集う貴重な舞台であるから。『郷土の憧れの先輩の走りや人間性』に実際に触れることで今後の陸上人生のよきヒントにできるから。」
 (3)「将来の有望株(特に中高生)とか、あっと驚くライジングスターの発見の場でもあるから。また、全国高校駅伝・全日本大学女子駅伝とかを湧かせた選手の走りを楽しめるから。」
 (4)「各都道府県を代表する選手が集結する場であるので『おらが故郷の代表、故郷のスター』感が強いこと(尤も近年は『出身高校の対抗戦』的な感じが徐々に強くなってきているけど)。」
 (5)「毎年コース形態が同じだけど、1つ1つの区間に『攻略ポイント』が絶妙にちりばめられているから。1区ラストの上り坂、2区終盤のS字カーブ、5区終盤の跨線橋~折り返し、9区のラスト5kmでの2つの長い直線など。」


 そう、「オールスター」であり、それでいて「故郷の誇りの体現」でもある。「お祭り」だけど「完全ガチ」、「出場すること自体が最高名誉」であること。
 それに、都道府県対抗駅伝って、「憧れの先輩と直接触れ合える」貴重な機会でもあるんですよね。ですので選出されること自体が、その先輩から直接学べる絶好のチャンスであるといえるのです。


 で、「有真さんにいつかどうしても感じて欲しい景色」は「都道府県対抗女子駅伝、9区(アンカー。10km)の景色」です!と述べました。
 それは、「陸上人として、選ばれし人間だけが走れる特別かつ栄光の道であるから」、これもあります。ですけどそれと共に、いやそれ以上に、

 「『鈴木亜由子さんが観た景色』を、その一端でもいいから感じて欲しいです。」

 この想いが、正直あります。
 進んだ道は、鈴木亜由子さんと別の道です、クイーンズ駅伝では今後、鈴木亜由子さんと対決し続けることになります。同じ区間で直接対決も、充分に考え得るでしょう、「郷土の憧れの存在」だからこそ、なおさらバチバチの全力勝負をと。

 ですけど、「2019年の都道府県対抗女子駅伝」では、恐らく「いつか9区を走れるようになるといいなあ」であったと想像します、いやもしかしたら、「いつか叶えたいけど、それに届く道を具体的にイメージしづらい」感じであったかもと想像です。

 2016年、「1分37秒差からの奇跡の大逆転での初優勝」。ラスト5kmでの「2つの長い直線」が、「奇跡の大逆転」のドラマを生んだ。
 ですけどあれは、「コースを熟知していたから」だけではないと思ってます。「現実的には厳しくとも、もしラスト5km過ぎの下り坂を超えての長い直線で、前が見える位置にいれば…」と、いわば

 「勝機の可能性がゼロではない限り、最後まで絶対にあきらめない。」

 そして、本当に奇跡を引き寄せたのです。完全アウェーを、「亜由子ロード」へと激変させたのです。

 で、2019年、「中高生と鈴木亜由子さんが『心を一つにして』叶えた2回目の優勝」。2016年とは違う描き方で、「だから陸上は、駅伝は素晴らしい!」を体現した優勝であったと感じてます。


 自分が陸上が大好きな理由は、

 「陸上は、『自分自身との戦いであるから』。昨日の、昨年の自分よりも成長したこと自体に意義があることを実感できるから。
 それでいて、特に駅伝は『仲間と心を一つにできる貴重な営みであるから』。つまり『自分自身を、仲間を信じる』ことで勝機を見出せるから。」

 「運」「巡り合わせ」の要素がほとんどない。「過程」が描きやすくて、それがすぐに「結果」に結び付かなくても、「過程」(つまり「努力」)を地道に詰めれば、いつか「結果」という花を咲かせる可能性が高まる。
 だから自分は、「陸上」が大好きなのです。


 それと、これは自分の考えですけど、

 「陸上って、『ノンフィクションの人間ドラマ』でもある。
 陸上は、ただ『走る』だけではない。『人間性』が垣間見えることも、陸上の魅力の一つである。」

 と思ってるんですよね。そう、なぜ自分が「鈴木亜由子さんが特に大好き」かと申しますと、

 「いつだって全力で、最後まであきらめない姿勢が伝わること。
 そして自分にも他者にも誠実な姿勢が伝わること。
 そしてレースが終わると『どんなに疲れていても、絶対に一礼をして終える』こと。」

 この「誠実さ」、これこそが鈴木亜由子さんの魅力の本質と思うのです。
 だから、たとえ負傷や不調に苦しんでも、「それでも鈴木亜由子さんを応援し続ける!」という根強い応援があるのではと。


 で、いま述べたことに関係するのですけど、これは「自分の信念の一つ」でもありますけど、

 「礼に始まり礼に終わる。」

 有真さんに「特に伝えたいこと」が、この精神です。

 これは、一つには「走り終えたときに、『ありがとうございました』と一礼して終える。」があります。有真さんも、富士山女子駅伝で成美さんに言葉をかけた後に(いままでありがとう。頑張ってね)、一礼してから去った感じで、それがとても嬉しかったのです。ですけど、それと同等以上に『とても大切なこと』をも含んでます。


 走りに臨むときに(駅伝・トラック・マラソンのいずれでも)、心の中で『今日も走らせて頂けることに感謝です、ありがとう』という想いを大切にした上で臨んで欲しいです
 走れるということは、恐らくその分は知れなかった誰かがいる。負傷や病気に倒れたら走ること自体が叶わないこと。それに佑美さん、安香音さんのように若くしてシューズを脱いだ仲間だっている。
 そう、『走れること自体が、当たり前ではない、努力が実って叶えてることなんだよ。』と。
 勿論、走る本番では、結果が出ない、身体が動いてくれないことも少なからずあるかなです。でもそのようなときでも『
その時々にできる全力を出し切って欲しい、最後まであきらめないで欲しい。』と強く伝えたいです。」


 富士山女子駅伝で、「有真さんを応援し続けてよかった」と感じるのが、
 「挫折を経験して、『最後まで全力を出し切る』がいままで以上に伝わるようになった。」
 ことです。

 で、今回こうして有真さんをテーマに綴ることで、有真さんの歩みを振り返って、「なぜ自分は有真さんを応援し続けるのだろう?」と問い直して、導き出した答えがあります、勿論あくまでも現時点でですけど。


 「有真さんは『地道な努力を続けられる才能』が魅力であると映る。」


 と。ですけどそれは、恐らく「挫折をしてしまった」ことを通して、いままで以上に引き出されたのではと想像するのです。
 より深く述べれば、あのとき有真さんは「心が弱り切っていた」感じで、でもそれで挫折してしまったからこそ、「人間の心の悲しみ、痛み」を学んで、それでいままで以上に引き出されたのではと想像するのです。


 恐らくこれからも、有真さんが陸上に向き合い続ける過程で、いくつもの逆境を経験するかもです。で、逆境に直面することで「あきらめてしまいそう」という気持ちに襲われるかもです。
 でも、有真さんは「応援してくれる人間・大切な人間」がいる、それも何人も。このこと自体がとても素敵なことですし、有真さんの「無形の長所」であると想像するのです。

 だからこそ、有真さんがこれからもしも逆境に直面したとき、

 「陸上を始めたときの気持ち、いわば『原点』のときの気持ち。」
 「走ることが好き、と感じているときの気持ち。」
 「『いままでありがとう、頑張ってね』と成美さんに言葉をかけたときの気持ち。」
 「挫折をしてしまい、でもそこから『もう一度、走り始めよう』と決心したときの気持ち。」

 これを思い起こして欲しいです。

 そう、人間ですので「心が弱ってしまう」ことはあります。ですので「立ち止まること」はむしろとても大切なことです。
 ですけど自分は、有真さんには、いつか「叶えたい景色」を観て欲しいですし(有真さんの言葉でいう「日本代表」、つまり五輪や世界選手権)、そして特に、いつか有真さんがシューズを脱ぐときは「やり遂げたよ、最後まで」と、いわば「完全燃焼できた」と思えた感じで終えて欲しいのです、それこそ例えば、福士加代子さんのように。



 ちなみに「やり遂げたよ、最後まで」は、自分が大好きな言葉の一つで、アニメ『ラブライブ!』の名言の一つです。


 で、「有真さんにいつかどうしても感じて欲しい景色」は「都道府県対抗女子駅伝、9区(アンカー。10km)の景色」です、と述べましたけど、実は今回の愛知の選手編成を見ると、
 「有真さんが『愛知の9区』を走る可能性は、充分にあり得る。」
 と正直感じます。選手編成的には、

 「松田瑞生さん(大阪、ダイハツ。大阪国際女子マラソンで3回優勝)」
 「太田琴菜さん(兵庫、日本郵政。スタミナに絶対的な自信で、須磨学園高校→立命館大学時代は「絶対的エース」に君臨した)」
 「鍋島莉奈さん(高知、積水化学。陸上日本選手権で「10000mで1回、5000mで2回優勝」。今春からの所属先の同僚にもなる)」
 「和田有菜さん(長野、日本郵政。名城大学での山本の1年先輩で、長野東高校時代から「世代のトップランナー」に君臨)」
 「加世田梨花さん(千葉、ダイハツ。名城大学のいまの黄金期をつくった立役者で、ロングスプリントが特に魅力)」

 

 これに状態次第では、「不破聖衣来さん(群馬、拓殖大学2年生)」もあり得るかもです、選手タイプ的には1区よりも9区向きですし。
 いずれにせよ、「都道府県対抗女子駅伝の9区」を走るということは、「現時点でのトップランナーとの直接対決」を意味する、だから「特別かつ栄光の10km」と形容するんですよね。

 今回、有真さんがどの区間を務めるのかは、蓋を開けないとわかりませんけど、
 「いまできる全力を出し切って欲しい。」
 ことは勿論ですけど、それと共に、
 「中学生・高校生に、いままでの陸上人生で学び感じたことを伝えて欲しい。」
 とも、正直強く感じます。それこそ2019年に、鈴木亜由子さんから恐らくいろいろと学び感じた時のように、今度は有真さんが伝える側になるときですよと。

 いずれにせよ「有真さんらしく」を大切に!そう強く願うのです。


 いずれにせよ、想像以上にとても長い文章になってしまい、しかも今回の文章の終盤では、一人の人間、一人の陸上ファンとしての「応援が故のエール」の想いで綴りましたけど、正直とても恥ずかしい感じになりましたが(ごめんなさい。激汗)。
 ですけど、「応援の想い」が伝わると、とても嬉しいです。

 これからも、微力ながらですけど、山本有真さんのこと、応援してます!


 【陸上・マラソン・駅伝#1A】【エッセイ#11A】

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