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【最新作公開】 AI時代に「私たちはどう生きるか」 ーなぜジブリの 「宣伝"なし"戦略」 はうまくいったのか?


ジブリの 「宣伝なし」戦略 から分かること

2023年7月、宮崎駿監督作品としては10年ぶりとなる『君たちはどう生きるか』が公開されました。

ジブリといえば宮崎駿さんや、高畑勲さんなどの超天才クリエーターを擁している一方で、鈴木敏夫さんの「一人広告代理店」とも言える巧妙で強力な広告戦略とコピーライティング能力も有名です。

・「生きねば。」(風立ちぬ)
・「生まれてきてよかった。」(崖の上のポニョ)
・「姫の犯した罪と罰。」(かぐや)

これらのコピーだけを見ても、いかに鈴木敏夫さんがいかに観客の心を掴むのが上手いのかお分かりいただけると思います。

ジブリは鈴木敏夫と宮崎駿、2つの才能がぶつかり合うことで、各作品がヒットしてきたという歴史があります。
つまり、アニメ界の歴史だけではなく、エンターテインメントにおける広告戦略の歴史を塗り替えてきたことにもジブリの凄さはあるのです。

そんなジブリ。

本日公開の最新作の『君たちはどう生きるか』では「広告を一切しない」という戦略を発表し、話題になりました。つまり、これまで数十年のやり方を捨て、鈴木敏夫さんの能力は使わずに、宮崎駿さんの才能ど直球勝負とも言える戦略を取ってきた訳です。

一見、時代と逆向しているように見えるこのジブリの「広告なし戦略」ですが、実はAI時代における最先端のマーケティング・広告戦略だと言えます。

そこで、ジブリの最新作『君たちはどう生きるか』の「広告なし」戦略が、なぜ最先端のマーケティング戦略であると言えるのか、ということを解説をしていきます。

宮崎駿作品としては『風立ちぬ』以来、10年ぶりの新作が公開されたジブリ


新作のジブリは広告をしない!?

冒頭でもお伝えしたように、10年ぶりの宮崎駿最新作は「広告なし戦略」を採用しました。
これまで、エンタメにおける広告戦略の先陣を切ってきたジブリが「広告を一切しない」という決断をしたのは驚きです。

鈴木さんが以下のように「広告をしない」と決めた経緯や考えについて語っています。

「事前に内容を伝えないという方針は最初から決めていました。これまでと同じことはやりたくなかったんですよ。(中略)映画の大宣伝を繰り広げたのも僕でしょう。その反省にのっとってやるというのが、僕にとっては今回の大きなテーマ。自分で始めておきながら、今の映画の宣伝状況はどこかで1回ストップさせなきゃいけないと思ったことは確かです」

「僕は映画を当てる人だと思われているようですが、これまで博打をやったことがないんです。ものすごく手堅い。映画館ごとにどれくらいお客さんが来るとかをものすごく考える。それだと、決まりきった興行収入しか見えてこないんです。これを突破したいと思った。今回、僕は生まれて初めて博打をやってみようかなと(中略)ミヤさんも、最初のうちは、『大丈夫?』って言っていたけれども、だんだんその気になってきて、『鈴木さんの丁半博打に俺も乗る!』って」

ジブリ謎の新作映画「君たちはどう生きるか」鈴木敏夫Pに単独インタ


広告などに無頓着そうな宮崎駿監督自身も「大丈夫?」って聞いたってエピソードは痺れますね(笑)
でも、宮崎監督が心配してしまうほど、奇抜な戦略であることは間違いありません。鈴木さんご自身も「賭け」であるということは認めてるぐらいですからね。

ただし…鈴木さんが意識的に採用したにせよ、無意識に採用したにせよ、今回の「広告なし戦略」は、AI時代のマーケティングを先取りした事例であると言えます。

それは、なぜでしょうか?
この記事ではこの点について、分かりやすく解説していきますのでぜひ最後までお読み下さい。


なぜ「広告なし」が最先端だと言えるのか?

さて、なぜこのジブリの「広告なし」がAI時代の最先端のマーケティング戦略であると言えるのでしょうか。

結論から言ってしまいます。
その理由は「AI時代は圧倒的に"質"の勝負」になるからです。
これだけ聞いても「???」だと思います。

そこで、まずは確実に起きる未来であるAIによる検索サービスの変革から話をはじめていきます。

まず、私たちが考えるべきことは「SEOの終焉」です。
ChatGPTの登場と共に、Googleの検索サービスが危機的な状況にあるということが主張されるようになりました。実際にGoogleもこの事態に「コードレッド(緊急事態)」を発動し、AIの開発と検索サービスへの組み込みを急速に進めています。


なお、2023年7月現在では、完全にAIを使った検索の形が完成している訳ではないですが、この形が私たちの日常生活に浸透していくと、人の検索行動は本質的に変わることになります。

AIが検索サービスに組み込まれることによって進むのは「プロンプトの検索クリエ化」です。
つまり、これまでの「キーワード」を考えて打ち込む時代から、AIを会話しながら自分の検索したいことを伝える(プロンプト検索)時代へと変化していくということです。

この変化の要点は「検索エンジンがユーザーのニーズをどのぐらい汲み取れる」ようになるのか、ということです。プロンプト検索に変化することで、その人のニーズに寄り添った検索結果が表示される世界がすぐそこに来ているということです。

では、これが何を意味するのか?
その答えこそが、この記事の結論である「マス・マーケティングの終焉」と「質による勝負の時代の到来」です。


「プロンプト検索」が引き起こすこと

先述の「プロンプトの検索クリエ化」はGoogleがすでに実装し始めているように、ほぼ確実に進む未来であると言えます。

そして、私は「キーワード」から「プロンプト」へと検索クリエが変化することで、マス・マーケティングが終焉すると思っています。つまり、大人数を狙った商品展開は意味をなさなくなるということです。

これまでマス・マーケティングが成り立っていたのは、ある程度、大掴みにしかターゲットを捉えられないというテクノロジーの問題と、それを許さざるを得なかった消費者の意識があってのことでした。

つまり、テレビCMやキーワード検索により、多くの人を対象にした情報を得るという行為は、テクノロジーがその人のニーズを捉えることができないという前提と、自分の希望やニーズを詳細に伝えようと思っても難しいという常識が成り立っていた時代に特有のものであるということです。

友人と会話するように、自分の検索ニーズを伝えることができるようになったことで、これまで許されていた大掴みなターゲティングでは顧客のニーズは捉えられなくなるはずです。



例えば、これまでお店を選ぶ際には、例えば「銀座 雰囲気の良い イタリアン」といったキーワード検索が基本でした。

「雰囲気が良い」という言葉の中にも、「居心地が良い」「客層」「店主が気さくである」など様々な要素が含まれていますが、私たちはこの微妙なニュアンスの違いを無視して検索をし、その結果表示された食べログやランキングサイトなどで、更に良い店を「自力で見つける」努力が必要でした。

しかし、プロンプト検索が基本になるとこれが一変します。

パーソナライズされたAIに検索してもらうため「明日のデートで使う、自分にも彼女の好みにも合ったレストラン」という前提情報はすでに検索エンジンが把握している上、「銀座で雰囲気が良くて愛想の良い店主がいて、ニンニクを使わないイタリアンレストランを教えて」といった検索をすることができます。しかも、AIが出してきたレストランが気に入らなければ会話を繰り返し、自分の望んでいたレストランを見つけることができるようになるでしょう。

こうした変化は、新しいスニーカーを探す時、自分好みのYouTuberを見つける時、自分に合った音楽を探す時など、検索を通じて商品やサービスを見つけていたすべての分野おいて起きることです。

このような時代に変化してしまった後、あなたは「キーワード検索」時代のような精度の低いレコメンドを許すでしょうか?
おそらく許さなくなると思います。

これが、AI時代に、ある程度のニーズの精度で許されていたマス・マーケティングが通用しなくなっていく理由です。

これまでのテクノロジーはより自由に、よりパーソナライズされたものに変化してきた歴史です。AIの進化はやはり、この延長線上にあり、したがって、テレビCMやキーワード検索の時代に成り立っていたマス・マーケティングは終焉すると考えられるわけです。

そして、このようにマス•マーケティングがその効力を失った時代においては、まさに商品やサービスの"質"が求められるようになります。

ちなみに、この質とは何でしょうか?
次の章ではAI時代の商品やサービスの質について考え、私たちはどうすべきか?ということを解き明かします。

AIの時代における"質"の勝負の本質とは?



AI時代に「私たちはどう生きるべきか」

では、マス•マーケティングが終焉する時代への変化は、私たちにとって絶望なのでしょうか?…それとも希望なのでしょうか?

それを理解するために、AI時代における「質」というものを考える必要があります。そもそも、商品やサービスにおける「質」とは何でしょうか?

当然、業界や商品によって「質」は大きく異なるでしょう。単純な品質やコスパ、あるいはコミュニケーションや人の能力など多くの答えが想定できます。

しかし、少なくともAI時代においてそれは突き詰めると、以下のことを指していると考えられます。

AI時代における"質"とは…「(商品・サービスが)消費者のニーズを捉えている度合い」

つまり、AIによって検索サービスの精度が大きく変革した後には、商品やサービスの質は「商品やサービスの質は消費者のニーズを捉え、それを満たすことができるか」で測られるようになるということです。

そして、あらゆるニーズの消費者を囲い込み漁のように釣り上げていたマス・マーケティングが通用しなくなることによって、「ニーズを捉えている度合い=質」によって商品・サービスが選ばれるように変わっていくと考えられるのです。

これは見方を変えれば、「キーワード検索」時代に、マーケティング予算が取れないために大きな企業に顧客を奪われてしまっていた小規模事業者や個人事業主・フリーランスであっても、自分の商品のコンセプトに合う適切な顧客ニーズを捉えることさえできれば、顧客とダイレクトに繋がることができるようになったということを示しています。

つまり、これまでのように「無駄なマーケティング費用」や「広告費用」をかけるよりも、商品やサービスの質を高めるためにお金と時間を使うことが重要であり、質さえ磨くことができれば、小規模事業者であっても大きな企業に勝てる可能性や共存しながら生き残ることができる時代が到来するということでもあります。

だからこそ、今回のジブリの「広告なし」戦略は、AI時代の最先端のマーケティング戦略であると言える訳です。

当然、これはマーケティングばかり上手くて、質が伴っていない事業者にとっては、厳しい世界にもなります。だから、AIを使いこなしながら商品やサービスの質を磨き、あくまでニーズを考え抜くという作業がこれまで以上に重要になってきます。

この辺りはこのnoteでも今後、お伝えしていく予定ですので、是非フォローしてお待ち下さい!



そんなジブリの最新作の公開は今日から!


さて、いかがだったでしょうか。

ジブリといえば、独特の世界観とハイクオリティなアニメーションばかり注目されます。しかし、私たち起業家やビジネスパーソンにとっては、鈴木プロデューサーの時代を敏感に感じ取った広告戦略こそ着目すべきだと思います。

その意味で、今回の広告戦略は実際にワークするかは未知数なものの、時代を捉えていることは間違いないと思います。こうやって私が書かされてしまっていること自体が鈴木さんの「広告なし戦略」の術中にハマっているのかもしれませんね(笑)

…さて、ここまで話したんだから、私は早速今からレイトショーで、『君たちはどう生きるか』を観に行こうと思います(笑)

皆さんも是非!

最新作『君たちはどう生きるか』の公開は7月14日(金)からです!観に行きましょう!


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