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『保護活動とリンゴ』/掌編小説

彼は、とある野生生物の保護活動をしていた。

一般的には嫌われもののこの生物のために、どうしてそんなに一生懸命になれるのか?一度彼に聞いてみたことがある。

「この生物だって、僕や君やみんなと同じ、生き物なんだ。一生懸命に生きているんだよ。」

愛玩動物ばかりが持て囃される世の中へのアンチテーゼだという。
たしかに近年はモフモフと全身を毛に覆われた猫や虎、パンダなどの可愛らしい生き物の保護センターが次々と設立され、民間での保護活動も話題になっていた。宇宙工学の発展やIT革命によって住みかや大地を奪われ、数の減ってしまった旧時代の生き物たちだ。

彼は活動の幅を徐々に広げ、最近は保護生物たちの鳴き声を解析する研究も行っている。この生物たちがなにを伝えたいのか、理解することができれば、その生態や旧時代の様子を解明する大きな手掛かりとなるだろう。

今日は保護した個体に、リンゴという当時生えていたらしい赤い木の実を与えてみる。

「美味しい。」
「美味しい。」
「もっと下さい。」

彼は音声を記録し、データセンターに送った。


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