市井の人

主に日本近代美術、画壇に関する記事を書いていますが、たまに美術以外の話題を取り上げるこ…

市井の人

主に日本近代美術、画壇に関する記事を書いていますが、たまに美術以外の話題を取り上げることもあります。記事に関する御意見・情報提供はコメント欄または下記のメールアドレスにお願い致します。 dyi58h74@yahoo.co.jp

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巻頭の辞

私は主に日本近代美術の資料収集をしている者です。本職の研究者でも何でもない一介のアマチュアに過ぎませんので「研究」とは敢えて書かず、「資料収集」にとどめておきます。 私が美術に興味を持つきっかけとなったのは1987年、9歳の時に自宅にあった『大日本百科事典』21巻「世界美術名宝事典」(小学館、1972年)という本をたまたま手に取ったことです。それを読んでルネサンス以降から20世紀前半までの西洋美術の主な画家はあらかた覚えました。 次の転機となるのは1989年、11歳の時に小

    • ジャズをテーマにしたブルーを基調とする瀟洒な作品を描く洋画家・岸本凌幾氏

      岸本凌幾氏(1943〜)という洋画家がいます。まずは経歴と作品を幾つか掲載致します。 岸本凌幾氏はもともと横浜市の消防・災害部門の職員で、絵画は「横浜の良さを見つめ直すきっかけになる」という理由で在職中に本格的に始めました。横浜が日本のジャズの発祥地ということもあってジャズをテーマにしたブルーを基調とする瀟洒な作品を数多く描いており、二紀会では有数の才能ある画家だと感じます。 この記事を読んで岸本凌幾氏の作品をご覧になりたいと思われた方は毎年秋に国立新美術館で開催される二

      • ジョルジョ・モランディや坂本繁二郎の影響の下、静謐な人物画や静物画を描く洋画家・河本昭政氏

        河本昭政氏(1959〜)という洋画家がいます。主な経歴は以下の通りです。また、作品図版を幾つか掲載致します。 河本昭政氏はジョルジョ・モランディや坂本繁二郎の影響の下、モノトーンの静謐な人物画や静物画を描いています。人物画を描く際のモデルは夫人です。画才では日展洋画部門でもトップクラスですが、現状、ほぼ無名に近いです。東光会の常任審査員で岡山大学大学院教授ですから洋画壇ではそれなりのポジションにいるのですが、大手美術マスコミが団体展作家を等閑視している現状では知名度が低くな

        • 猥雑な下町風景を個性的な筆致で描く洋画家・三浦順子氏

          三浦順子氏(生年未詳)という洋画家がいます。経歴については青森県在住で、2019年に主体美術協会会員に推挙されたこと、地元の黒石市を中心に活動していることしか分かりません。まずは作品を幾つかご覧下さい。 ご覧の通り、三浦順子氏はスナックや小料理屋のひしめく路地裏など猥雑な下町風景を極めて個性的な筆致で描いています。この風景はおそらく地元・青森のものでしょう。三浦氏は以下のサイトに「怪しいながらも夢、希望が満ち溢れていた時代「心の癒し」を絵画の中に永遠に残していきたい。」とい

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        • ジャズをテーマにしたブルーを基調とする瀟洒な作品を描く洋画家・岸本凌幾氏

        • ジョルジョ・モランディや坂本繁二郎の影響の下、静謐な人物画や静物画を描く洋画家・河本昭政氏

        • 猥雑な下町風景を個性的な筆致で描く洋画家・三浦順子氏

          スペインの写実画家、ホルヘ・ガリェゴ

          以前、以下の記事でヨーロッパ近代美術館(MEAM)所蔵のスペイン写実絵画について言及しましたが、マリア・ホセ・コルテス以外の画家についても紹介致します。 今回紹介するのはホルヘ・ガリェゴです。まずは図録『スペインの現代写実絵画』(ホキ美術館、2019年)に掲載された経歴と作品を御覧下さい。 ホルヘ・ガリェゴの公式サイトがあります。その中から作品画像を数点、紹介致します。 また、氏のフェイスブックとインスタグラムのアカウントもありますので紹介致します。 ※記事に関する御

          スペインの写実画家、ホルヘ・ガリェゴ

          古き良き昭和の下町をモチーフに描く洋画家・長岡一豊氏

          長岡一豊氏という洋画家がいます。主な経歴は以下の通りです。また、作品を何点か掲載致します。 これらの作品を見れば分かるように、長岡一豊氏は昭和20、30年代の夕暮れ時の下町を舞台に土管、ホーロー看板、メンコ、自動車などをモチーフに子供が遊ぶさまを情感豊かに描き、今の洋画壇では屈指の個性派です。 この記事を見て長岡一豊氏の作品に興味を持たれた方は毎年春に国立新美術館で開催される光風会展と毎年秋に国立新美術館で開催される日展(洋画部門)を御覧になって下さい。 ※記事に関する

          古き良き昭和の下町をモチーフに描く洋画家・長岡一豊氏

          「日本の素朴派」とも言える洋画家・鈴木英子氏

          鈴木英子氏(1946?〜)という洋画家がいます。経歴は以下の通りです。また、作品を数点、紹介致します。 以下の記事で鈴木英子氏について紹介されていますので全文引用致します。 「市内で洋画家として活躍している鈴木英子(えいこ)さん 中央区上矢部在住 67歳」(『タウンニュース』2013年11月21日) 鈴木英子氏は正規の美術教育は受けておらず、中年になってから本格的に絵を描き始め、デフォルメされた少女や動物、生い茂る植物をモチーフにアンリ・ルソーを彷彿とさせる幻想的な世界

          「日本の素朴派」とも言える洋画家・鈴木英子氏

          【朗報】日本画家・落合朗風の久しぶりの回顧展が開催決定

          落合朗風(1896〜1937)という日本画家がいます。経歴を記し、作品を幾つか紹介致します。 森口多里『美術八十年史』(美術出版社、1954年5月)に以下の説明がなされています。 落合朗風に関する主な著作は以下のものです。 『落合朗風遺作集』(芸艸堂、1939年4月) 『落合朗風:魂の叫び(「NHK日曜美術館」幻の画家・回想の画家3)』(NHK出版、1992年7月) 『落合朗風生誕百年展』(平田市立旧本陣記念館、1995年11月) このことから分かる通り、落合朗風は大

          【朗報】日本画家・落合朗風の久しぶりの回顧展が開催決定

          横山大観の贋作を売っていた「共楽美術倶楽部」

          飯島勇編『近代の美術10 横山大観』(至文堂、1972年5月)pp.117-118に横山大観の贋作事情について書かれています。 ここに書かれている「共楽倶楽部」という組織が気になり、グーグル検索したのですが、何も情報が出てきませんでした。 その後、与野冬彦編著『近現代ニセモノ年代記』(光芸出版、2005年7月)という本の「1935年」の項目に以下の記述を見つけました(p.203)。 ここに書いてある「京楽美術倶楽部」は前述の「共楽倶楽部」と同一組織ではないかと思い(満州

          横山大観の贋作を売っていた「共楽美術倶楽部」

          戦前の京都画壇有数の個性派だが再評価が進んでいない日本画家・粥川伸二

          粥川伸二という戦前の京都画壇で活動した日本画家がいます。主な経歴は以下の通りです。 粥川伸二は国画創作協会時代は長崎をテーマとした異国情緒溢れる蘭画風の日本画を出品し、同会有数の個性派ですが、同じ国画創作協会の個性派として知られる甲斐庄楠音や岡本神草らと違い再評価が進んでおらず、回顧展図録も今のところ存在しません。戦前の京都画壇の知られざる日本画家を発掘・顕彰してきた星野画廊ですら回顧展が行われていないようです。 回顧展が開催されていない理由は分かりませんが(現存する作品

          戦前の京都画壇有数の個性派だが再評価が進んでいない日本画家・粥川伸二

          点描画の大変な実力者であるにもかかわらず現状は無名の洋画家・田中惟之

          田中惟之(1935〜2013)という洋画家がいます。主な経歴は「國領經郎に師事。光風会を経て日洋会および日展で活動。日展会員、日洋会理事。」です。作品を幾つか御覧下さい。 田中惟之は生前、横浜市に住んでおり、海が好きで三浦半島の漁港、城ヶ島などの風景を多く作品にしたのですが、これらの絵を見れば分かるように、点描画の大変な実力者です。おそらく、日本の洋画家では岡鹿之助や牛島憲之に次ぐレベルだと思われます。しかし、現状は全くの無名で、わずかに冒頭に取り上げた横浜博をモチーフにし

          点描画の大変な実力者であるにもかかわらず現状は無名の洋画家・田中惟之

          ホキ美術館系のそれとは異質の迫真の写実絵画を描く洋画家・鈴木義伸氏

          鈴木義伸氏という洋画家がいます。光風会会員及び日展会友で、愛知県在住です。生年と詳細な経歴は把握しておりませんが、少なくとも1990年代前半から光風会展及び日展に出品しています。まずは作品を御覧下さい(注1)。 鈴木義伸氏は昨今流行のホキ美術館系の平板なそれとは異質の迫真の写実絵画を描き(例えるならアンドリュー・ワイエスとか三栖右嗣に近い存在でしょうか)、現在の日展洋画部門では間違いなくNo.1の画才を誇ります。鈴木義伸氏に比べたら同じ日展に所属する洋画壇の重鎮・中山忠彦氏

          ホキ美術館系のそれとは異質の迫真の写実絵画を描く洋画家・鈴木義伸氏

          藤田嗣治と親交のあったエコール・ド・パリの洋画家、板東敏雄

          板東敏雄(1895〜1973)という徳島県出身の洋画家がいます。今日、この画家の名前を知っている日本の美術ファンは殆どいないのではないかと思われます。何故かと言うと、若くして渡仏し、そのまま現地の女性と結婚して二度と帰国することが無かったためです。ただ、フランスでは一定の知名度があるようで、ウィキペディアの項目が存在します。まず、出身地の徳島県立近代美術館の公式サイトにある板東敏雄のプロフィールを引用致します。 次に、『毎日新聞』1996年11月2日「四国のびじゅつかん64

          藤田嗣治と親交のあったエコール・ド・パリの洋画家、板東敏雄

          スペインの写実画家、マリア・ホセ・コルテス

          先日、図録『スペインの現代写実絵画 バルセロナ・ヨーロッパ近代美術館(MEAM)コレクション』(ホキ美術館、2019年)を入手しました。これはホキ美術館で2019年5月17日(金)から同年9月1日(日)まで開催された企画展「スペインの現代写実絵画 バルセロナ・ヨーロッパ近代美術館(MEAM)コレクション」の図録です。この企画展の概要についてはホキ美術館の公式サイトに書かれていますので引用致します。また、後掲するこの企画展に関する記事と出品された作品数点もご覧下さい。 「千葉

          スペインの写実画家、マリア・ホセ・コルテス

          近年の石崎光瑤の新発見作品

          来年度、京都文化博物館などで石崎光瑤の大回顧展が開催されることは先日、noteに書きましたが、近年の石崎光瑤の新発見作品について備忘録代わりに書いておきます。 「石崎光瑤 技研究の屛風「扇面散図・観瀑図」を初公開 福光美術館」(『北陸中日新聞Web』2021年1月24日 05時00分) 「石崎光瑤の大作を初公開 福光美術館 帝展出品の「笹百合」」(『北陸中日新聞Web』2021年5月14日 05時00分) 《笹百合》は第11回帝展出品作ですが、このクラスの作品で150万

          近年の石崎光瑤の新発見作品

          【朗報】2024年度、日本画家・石崎光瑤の大回顧展が開催決定。

          石崎光瑤(1884〜1947)という日本画家がいます。まずは作品をご覧下さい。 石崎光瑤は1884年、富山県福光町(現在の南砺市)に生まれました。生家は藩政期から続く名家で、幼い頃から画才を発揮していたそうです。12歳で東京から金沢に招かれた江戸琳派の山本光一に師事し、のちに京都に出て1903年、19歳の時に竹内栖鳳に師事します。 日本画壇では1912年の第6回文展で初入選し、1918年の第12回文展で《熱国妍春》が特選を受賞し、1919年の第1回帝展で《燦雨》が2度目の

          【朗報】2024年度、日本画家・石崎光瑤の大回顧展が開催決定。