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生理痛で気づいた、わかってくれないしんどさと、わかろうとしてくれる尊さ

朝起きたらわかる。あ、生理きたなって。

ベットから背中を起こして座ったときの腰の重さ。だるくて眠くて気持ち悪い一週間が始まるんだと思うと、不安で歩きたくもない。

食事は優しいものに。飲み物はカフェインのないものに。仕事はどのくらいできるだろうか。些細な刺激も痛みに変わるのではと今までよりも慎重に生きはじめる。

特にこの3ヶ月は特別だった。

先々月、ある日の早朝、下腹を激痛が襲った。我慢のできない痛みと複数回の嘔吐で、これは何事だとたまたま仕事が休みだった父に、病院へ連れていってくれと声を絞り出してお願いした。その時はまだ生理が来ていなかった。

只事じゃないと判断した父は救急車を呼ぶか?と聞き、私はなんとかうなづいた。

救急隊員が到着し、私に声をかけた。

「症状を教えてくれる?」「どこが痛い?」「ここ?」「すごい汗だね」「歩ける?」「運ぶからね」「妊娠の可能性はある?」

一言で答えられる質問と、頼りになる声かけ、苦しみをどうにかしようとしてくれている隊員とのやりとりに安心し、病院につくまでの救急車の中、少しずつ痛みは落ち着き汗が引いてきた。

救急外来のベッドで横になる頃にはだいぶ落ち着いてきて、2人がかりで救急車に運ばれた私も、座ってパジャマに着替えられるほどだった。看護師の質問に応答しながら、運んでくれた救急隊員の方々に感謝した。

それから採血する。検査に回してくれるんだと思う。待っている間、腹痛の原因は何かと記憶をたどる。昨日食べた鶏肉が生焼きだったような。自分なりの心当たりを探した。以前にも日の経ったおにぎりを食べて夜中、嘔吐と下痢に苦しんだことがある。そのときの症状と似ている。

検査結果を待っている間、1時間くらい横になっていると体調と気分がだいぶ落ち着いてきた。そういえば今日は水曜日。仕事をしたい。症状もよくなったし、おそらく食あたり、もしかするとストレスだろうと思い、検査結果を待たず看護師さんに帰りたいと申し出た。看護師さんも、症状は落ち着いたし結果を見ても原因ははっきりとはわからないだろうと言う。

検査費用もかかるかもしれないし、時間とお金を使って「理由はたぶんこれだけどとにかく安静に」と言われては後悔しそうだと思い、その日はタクシーで帰ることにした。汗で臭う服を洗濯機に入れてシャワーを浴びて少し休み、気分を変えようと午後は自宅を出て近くのカフェで仕事をした。

その一ヶ月後、また同じ症状がやってきた。下腹部の激痛と嘔吐。全く同じ。この日は生理が先に来ていた。朝起きて生理に気づき午前中から気持ち悪く、お腹が痛い、歩くのも辛い。いつもの痛みが激痛に変わったのは、自宅で仕事をしていた午後だった。

あれ、先月とまったく同じじゃないか。もしかして。そう思って生理記録アプリを開いたら、救急車で運ばれたあの日も生理初日のマークがついていた。記憶は曖昧だが、おそらく帰ってからかその晩生理になったのだろう。

この症状は生理だったのか。理由がわかったなら耐えよう。あの日のようにきっと時間が経てば治まるはず。そう思って一人ベッドの上でもがき、自分に大丈夫だと声をかけながら心をなだめ痛みに耐える。

しかし、だめだ。無理。どうしても痛い。そして吐く。気持ちがものすごく悪い。病院に行けば痛みが治まる、というからくりに頼りたくはないが今回は行くべき場所がわかっている。婦人科だ。

たまたま休みだった父、そしてこの日は母も休み。二人で外出していることはわかっていたが、どうしても婦人科に行きたい。なぜこんなに痛いのか、診てもらいたい。二人に電話をして婦人科へ連れていってくれと頼む。

病院へ行くまでの車中、後ろの席に横たわりながら2、3回吐く。汗だくの私を母がうちわで仰いでくれている。総合病院の受付に行くと車椅子を用意してくれた。その日は婦人科がお休みのため、またもや救急で診てもらうことになった。待合室にいる時、対応してくれた30代くらいの女性看護師がものすごく優しく話してくれて、心が救われたことを覚えている。

「婦人科病院に行ったほうがいいかもしれません。近くにあるか調べてみましょうか。行きつけはありますか?」「行き先が決まったら仰ってくださいね」「今日は診察をしていないので料金は不要です。そのまま帰って大丈夫ですよ」

毎日何十人も患者さんを見ている中でこんなにも親身に向き合ってくれる人がいることをありがたく思った。

病院をあとにし、その足で近くの婦人科病院へ連れていってもらった。汗だくの寝巻きのまま、コロナの影響で付き添いはNGだったので一人で医師と話した。

今日から生理になり、痛みに耐えきれず病院に行ったこと。この2ヶ月で今まで以上に生理痛がひどくなり、病院に行くのは先月から続けて2回目であること。加えて嘔吐もある。

症状を伝えると、おそらく60代は越えているだろう男性医師が私に3本の指を立てて話した。

「生理痛を抑えるには3つの方法があります。まず、我慢すること。次に痛み止めを飲むこと。それからピルや漢方で痛みをコントロールすること。」

正直、私はこの時点でげんなりした。

今さっき、痛みに耐えきれず病院に一度行きその足でここに来ているのだ。我慢できていたらまず病院に行かないし、出血多量の生理初日に婦人科に来ない。この緊急性と特別性が伝わっていない。さらに10年以上も生理と付き合っているのだから、痛み止めの存在を知らないわけがない。

この医師は何を言っているのだ。

「嘔吐というのが今までになかったことなんですが、これは生理痛の症状の一つですか?」そう聞くと「ピルなどを飲めば、生理痛をコントロールできるから症状はよくなると思いますよ。」

「痛み止めもありますけど、処方しますか?」と聞かれたので「ピルや漢方とどう違うんですか?」と聞き返した。「ピルを飲むと生理の日が安定したり、量が少なくなったりします」とのことだった。

私はこの10年経験してこなかった症状がいきなり出てきたことに対して不安を抱いていた。

「体質が変わって症状が変わるということもあるんでしょうか?」と聞くと「そういうこともあるでしょうね」と医師。

痛むのはわかる。これまでも腹痛と腰痛はあったし、その何十倍も痛いけどなんらかの原因で強度が増したということだろう。でもなぜ嘔吐したのか。吐くことなんて食べ物にあたったときか、お酒を飲みすぎた次の日くらいだ。それくらい嘔吐という出来事は私にとって非日常的であることのバロメーターだった。

症状をとにかく治めようとする医師と、症状の原因を知りたい私ではあまり会話がかみ合わなかった。

「私はどうしたらいいんでしょう?」と思わず聞くと「あなたがどうしたいかですよ」と言われた。さっきまで苦しんでいた人にかなり自立した質問をするもんだと思ったが「原因を知りたいです」と答えると、「では検査をしましょう」と医師が立ち上がった。

看護師が来て、下着を脱ぐよう指示を受け検査台に座る。子宮がん検査を一度したことがあるので、この後どういう手順があるかは把握している。

生理初日で子宮内は真っ赤かもしれないが今気にしている場合ではない。あちらもプロだし、遠慮なく委ねよう。とにかく、今そのまま薬を渡されて帰ることに納得がいかなかった。なにせ数時間前まで痛みに耐え、ここに今日、来たのだから(笑)。

検査具を子宮に入れられ、エコー?を一緒に見る。「ここにポチッとしたものがある」と少し触れられると痛んだ。

検査後わかったのは、通常お腹側に傾いている子宮が私の場合は背中側に向いているらしい。

「背中側に向いていることによって何か変わったことは起こるんですか?」と質問すると「普通はお腹側なんだけど、背中側に向いている。こういう人もいます。子宮内膜症の可能性があるかもしれない」と言われた。

子宮内膜症の検査を受けることになり、血液をとってもらった。子宮内膜症であると生理の症状が人より辛かったり将来妊娠の妨げになったりすることがあるらしい。とにかく一週間後、また来ることになった。

それからの一週間は、いつもの気持ち悪さと眠気と戦いながら、生理を終えた。ハッシュタグで子宮内膜症を調べ、ピルを飲むことのメリット・デメリットについて調べていた。

検査結果の日。この前と同じ医師。「結果は陰性でした。また痛くなったら痛み止めなどもありますから」

言い渡されたのはそれだけだった。結果は判明したが私の疑問は解消されないままだ。

「わかりました。でも、あの痛みと嘔吐はなんだったんでしょうか。」

「今は陰性でも将来的に陽性になることがありますから、定期的に見た方がいいでしょう。他に質問ありますか?」

「ピルや漢方を試した方がいいんでしょうか?」

「それもありだと思いますよ。他に聞きたいことはありますか?」

「これから気をつけられることはありますか?」

「今は陰性だけど陽性になるという可能性もあるということ。質問はありますか?」

なるほど。もう質問したいことは何も出てこなかった。カルテを書きながら「質問はありますか?」と何度も聞かれると、なんだか責められているような気持ちになった。私の子宮が悪いのか?こんなにも不安になる私が神経質なのか?

検査結果は何も異常がなかった。だから医師としてできることはないということなのかもしれない。

原因のわからない不安、来月もまた同じ症状が来るかもしれない恐怖は、医師が解決してくれるものではないのだ。少なくとも今目の前にいる医師は。自分自身で工夫しなければならない。体質改善や他の婦人科に頼るなど、これからまた違う手段をとるべきか?

そんなことを考えながら、会計を待っている間、涙が出てきた。苦しさが伝わらないことはこんなにも悲しいことなのか。医師はカウンセラーではない。1日に何名も診ている中、原因不明の患者の悩み相談や不安に付き合ってはいられないのかもしれない。よくあるドラマの熱血研修医のように一人ひとりに情熱を注ぎまくっていたら体力が持たないだろう。

それでも、私は「質問は?」ではなく「辛いね」「気になっていることはある?」と言ってほしかったのだろうと思う。

救急車の中で声をかけてくれた救急隊員のように。総合病院で話を聞いてくれた優しい看護師のように。

この日の会計は300円ちょっと。料金にあった診察をしているのかと嫌味な考えも出てきたが、もう文句は言いたくない。悩みを聞いてくれと胸にすがりたくもない。生理初日にも関わらず検査してくれたのは感謝している。医師は医師の役割をしただけなんだと思う。

でも、わかってくれないことはこんなにもしんどい。そして、わかろうとしてくれることは当たり前じゃない。こんなにも尊いのだ。そんなことに気づけた一件だった。

あれから一ヶ月、今月もやってきた生理初日になんとなく記録しておきたいと書いた。数週間前からコーヒーを控え、体を温めるようにして睡眠と食事に気をつけている。あの痛みが来るのが怖いので早めに痛め止めを飲んだ。

今日はどんな日になるだろう。



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