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【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】夫に嫌われてると分かりまして。#1

【あらすじ】
ずっと好きで追っかけた彼。結婚して貰えたのはいいけど、どうやら私、嫌われていた様です。
本編11話+番外編


1:決戦は金曜日です!

恋は突然やって来るというが、本当に私の恋も高校2年生の2学期に突然やって来た。

ホームルーム開始のチャイムが鳴って直ぐ、教室に入ってくる担任の後から、一目でスポーツをしているだろうと分かる躰つきに、短く刈られた清潔感を漂わせる髪型の男の子が入って来た。

がっちりした身体つきが何とも男らしく、思わず見入ってしまう。

先生に促されて軽く頭を下げた彼は

佐和田さわだ知嗣ともつぐです。よろしくお願いします」

少し照れたように笑い、自己紹介した。

その爽やかな笑顔と白い歯に私は一瞬にして恋に落ち、先生が教室を出て行くと同時、勢いよく立ち上がった。

目指すは彼の許。

「さーわーだーくーーーーん!」

「…えっと、何?」

「好きです!付き合って下さい!」

「………いや、えっと、…俺、彼女いるから無理」

ホームルームが終わって、次の授業が始まる前にあっけなく玉砕した。

「…っていうか、誰?」

「あ、私、野乃華。小間こま野乃華ののかっていうの。宜しくね!」

断られたって友達になって好きになってもらえばいい。
友達になって、という意味で手を出したのに、佐和田くんは迷惑そうに席を立ち、教室から出て行った。

「………素っ気無い態度も、素敵…」

***
友達も少しずつ結婚をしていく中、私はよそ見もせずに佐和田くんだけを追っかけて、追っかけて。
彼が引っ越してきて早10年経ち、私は27歳になっていた。
トクンッというそんな可愛い胸の高鳴りなんかじゃなく、私の胸は馬が駆け回る程、五月蠅い高鳴りは今も健在だ。
会えば会う程、好きになっていく。
どうしてあんなにカッコいいのかな、なんてスーツ姿の佐和田くんの写真を眺め、毎晩悶えながら眠りに就く。
入社式の日に無理言って撮って貰ったツーショット写真は私の宝物である。

そろそろバレンタインが近づいて来たこの日、結婚が決まった友達の前祝で皆で集まっていたのだが、私の頭の中は今年はどんな告白の仕方をしようか、という事で埋め尽くされていた。

「野乃華!聞いたよ!会社の人に告られたって!?」

「ん?あ、うー?告られたっていうか、“付き合っている人がいなければ一緒に水族館に行かない?”って聞かれただけだよ?」

「で?そのお誘いは勿論行ったんでしょうね」

「行かないよー。だって、その日は佐和田くんの社会人バスケの試合だったんだもん!」

「でもさ、佐和田のヤツ、野乃華に見に来るなって言ってるんでしょ?」

「うん。だから変装して行って来たの!PFの佐和田くんってすっごいかっこよくってね、もう、惚れ直しちゃった!」

「アイツPFなの?」

「貫禄あるしそれっぽいね」

「転校してきた時から熊だったけど、アイツ更に熊化してない?」

「く、熊なんかじゃないもん!佐和田くんは王子様!世界一格好いいの!」

「野乃華…眼科行って…」

「…ねー。もうさぁいい加減、諦めて他の男にいけば?」

「野乃華、あんた美人だし元ミス○大なんだから男たっくさん寄って来るでしょ?そうそう、今度ね弁護士と合コンするんだ。おいで!っていうより来て!」

「ってアンタも野乃華使って男をおびき寄せようとするんじゃないの」

「そ、そんな事無いよー!私は野乃華の為を思って!」

「つーかさ、相手もしてくれない男を10年も追っかけまわして、よく飽きないわね」

「「うんうん。右に同じ」」

「やっぱりさ、女は愛されてなんぼだよ?野乃華…」

「…んー。でも、佐和田くんがいいの。追っかけてる時が一番楽しいんだもーん」

えへへ、と笑えば友人たちは半分呆れ顔で笑い大きく溜息を吐く。
もう何を言ってもダメだ、と諦めたのか

「それでさ、」

と次の話題に花を咲かせるたのだった。

確かに、佐和田くんは私の事を見てくれない。
それでも私は毎年、バレンタインに告白をしに彼の家に訪れた。
お蔭で佐和田くんより彼のご両親と仲良くなって、お菓子を作ってはお茶会する仲に。
大学は何処に行くのか佐和田くんに聞いても教えてくれないので、ご両親に聞いて同じ大学を受験。
無事に合格して大学まで追っかけた。
佐和田くんは大学生になって更に身長が伸びて素敵になっていく。
バスケ部(同好会だったかな?)に入って友達も増えて、そして女の子とも話している処を見る事が多くなった。
『私もバスケしたい』と言ってみたら即答で『駄目だ』と言われて断念せざるを得ず…。
まぁ、球技苦手だし、見てる方が性に合ってるから、佐和田くんはそれを分かって言ってくれたんだと私は思ってる。
だから差し入れを持っていくだけで我慢しようとしたのに、それも『駄目』と。
流石に凹んでいたら佐和田くんは夜、『小間の菓子は美味いからあの場にもって来られたら俺の取り分が減るだろ。だから家で食いたい』とメールを送ってきてくれた。
私の作った物は自分以外の人に食べさせたくない、独り占めしたいと思ってくれているのだと嬉しくて差し入れに行く事は我慢。(勿論、試合は変装してでも見に行く)
勝手な勘違いだとも分からずに、追っかけまわす大学生活を送り続けた。
4年生になり、いつの間にか佐和田くんの就職先が決まっている事を彼のお母様に聞いて慌てた私はその会社の面接を受けに行った。
けど、流石に採用されず、私は県内でも有名な建築資材を扱う会社の事務員に就職した。
勿論、仕事を優先しないといけないので仕事を放り出して行く事は無いけど、きっちり定時になったら帰る。
就職が決まったお祝いで佐和田家でご飯を食べた際、彼に懇々と『仕事を投げ出さない』『ずる休みをしない』等々言い聞かされて約束したから。(でも、no残業を押し通す)
仕事が終わった後、即行で家に帰るとお菓子作りに勤しむ。
そして、旨く作れたら佐和田くんにメールを送って彼の家で待機するのが約束となっている。
佐和田くんが就職した会社は(方向音痴の私には)難しい場所にあって、社会人になりたての頃、一度途中まで行って迷子になって迎えに来てもらった事がある。
その時、しこたま怒られ彼の家で待つ事を約束させられた。
だからお菓子作ったとメールしておくと『何時頃帰れる』と返事をくれるし、本当にその時間に帰って来てくれるし、彼のそんな態度が十分嬉しかった。
ここ3年程、仕事が忙しいみたいで、作っても食べて貰えない事が多かったけど、年末くらいから落ち着いたようで以前のように食べて貰える回数も増えたっけ。
でも、流石に10年追いかけてたら、周りはどんどん恋人が出来て結婚していく。
子どもが出来てる友達も居る。

…もしも、彼が他の女の人と急に結婚してしまったら、私は心の底から祝福できるのだろうか。
そして、新しい恋に向かって歩き出せるのだろうか。
…少しずつだけど、私の中で焦りが出始めていた。

まだ、27歳だと思っていたけど、もう、27歳。
未来というものを見据えていかなければいけない年齢になっていた。
今年で10年目。
…そろそろ潮時かもしれない。

「今年…、今年を最後にしよう。ダメだったら、もう、諦めよう。本当に諦めよう」

10年を目途に。
フラれたらこの恋を終わりにさせよう、と心に誓った。

そして、決戦のバレンタインデー。
私は何時もの様に佐和田くんの家で恒例の夕食を頂いていた。
彼の帰りは20時15分。
ご飯を頂いてその時間に合わせて彼の部屋で待機だ。
これで最後だと思うと、何故か緊張してしまいそわそわと部屋の中を忙しなく歩き回ってしまう。
駄目だったら、断られてしまったらもう、この家にも来ないと心に決めたのだ。
最後になるかもしれないので、頑張って部屋の中を頭にインプットしていく。
すると、下から佐和田くんが、『ただいま』とご両親に挨拶をしている声が聞こえ、少し会話を交わすと一直線にこの部屋に上がって来る。
そして、ゆっくりとドアノブが回された。
部屋に入って来た佐和田くんは疲れているのか少しだけ目の下にクマが出来ている。
それはそれで更に彼をかっこよくさせていて、胸がドキドキしてしまう。

「おかえりー!佐和田くん。えーっとねぇ、えーっとねぇ。今年のバレンタインチョコはちょーっと趣向をこらしてみましたー。私のねお母さんが大好きな栗〇先生のね、しっとりチョコレートケーキっていうやつを調べて作ってみたの!結構上手く行ったと思うの!お義母さんとお義父さんにも先に試食してもらったんだけど、美味しいって言ってくれたから多分大丈夫!さ、さ、召し上がれ!甘い物食べたら疲れも吹っ飛んじゃうよ!」

彼のスーツの上着を受け取り何時ものハンガーに掛けると、タイミングよくドアがノックされお母様が紅茶を持ってきてくれた。
お礼を言ってテーブルに置き、箱からケーキを取り出すとお皿に取り分けると彼に差し出す。
佐和田くんがケーキを食べている間、緊張しっぱなしで私は落ち着きが無く延々としゃべり続けるが、彼は声を発する事無く黙々とケーキを食べ続ける。
彼は意外と甘いものが大好きで4号くらいならひとりで食べてしまう程。
カチャン、とケーキ皿にスプーンを置くと

「ごちそうさん」

満足そうにため息を吐いた。
それが嬉しくって私はネジが外れたお喋り人形の如く、延々とケーキの作り方を佐和田くんに話して聞かせる。
勿論、彼はスマホを触ったり株の本を読んで、返事したり相槌を打ってくれたりする事はまずないんだけど。

―――彼が帰宅して1時間。
そろそろ御暇しないと、佐和田家にご迷惑になってしまうし、私の両親も心配してしまう。
ぐっと両手を握りしめて、一呼吸置き

「あ、あのね!佐和田くん!あ、あの…、ずっと、ずっと好きでした。いやいや!10年間ずっと好きでした。これからもずっと変わらずに佐和田くんの事だけが好きです!それで、あの、結婚して下さい!私の夫になって下さい!死ぬまで側にいてください!私だけのモノになってください!」

佐和田くんの前に正座して、思いっきり腕を伸ばして用意して来た婚姻届を差し出した。
駄目だった時は笑顔で、ありがとうってお礼を言って部屋を出よう、そう決めて。

……手が震える。

1分程だっただろうか。
ふう、と息を吐く佐和田くん。
やっぱり駄目か、と腕を下ろそうとした瞬間。
手にあった婚姻届が奪い取られていた。
彼は立ち上がるとスーツの胸ポケットから印鑑を出して、名前を書き込み、上下の確認をしてから印鑑も押した。

「―――ん。名前書いたから挨拶行こうか」

「え…?ど、何処に?」

「小間の両親だろ?あ、その前に俺の親にも話して行ってもいいか?」

何が起こっているのか全く脳が処理しきれていない私とは反対に、少しキリッとした顔で佐和田くんはまた、上着を羽織ったのだった。


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