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【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】夫に嫌われてると分かりまして。#10

10:独りで生きていくんです!

からからからから………。
音を立ててキャリーバッグを引き摺って、私は途方も無く歩いていた。

昨日の今日で、カップルや家族連れが多い。
告白が上手く行った人たちが早速、ラブラブしているんだ。
本当だったら、私も佐和田くんとラブラブ出来てたかもしれないのに。
何度も来るなと言われていたのに会社まで行った私が悪いんだ。
昨日の事を思い出して鼻の奥がツンとする。

「ダメダメ、思い返したって時間が戻る訳ないんだから…。しかし、」

ぐぐぐぐぐ~~~、と物凄い音をさせてお腹が鳴り、足を止めてお腹を擦る。
すると、その音に通りすがりの男性が驚いて振り返って私を見るので恥ずかしくって、小走りに通り過ぎた。

「うう~心もお腹も寂しいよ~。…家を出てからもう2時間かぁ…」

考えたら昨日のお昼から何も食べていないし、そろそろ何か口に入れときたい。
お腹空きすぎて倒れたりしたら恥ずかしいし。

「あ、ここ、駅前だったんだ…。って事は、」

キョロキョロと辺りを見渡せば24時間営業のファミレスが。
前に嬉-ちゃんと一度だけ入った事のあるファミレスだ。
独りファミレスなんてした事が無いから、ちょっと恥ずかしいけど…。

「暫く考える時間も必要だし…。よし!」

そう決心し、私は独りファミレスをする事とした。

店に入ると店員さんにカウンターを進められるが、ボックス席がいい事を告げると快く奥のボックス席に連れて行ってくれた。
時間も時間だったし、座れる事なんてラッキーだ。

「はぁ~。1日ぶりの食事だから何でもお腹に入っちゃいそうだけど…、目移りしちゃうなぁ」

メニューを見ているとバイトの子だろうか。
注文を聞こうとしているのか、男の子が机の側から離れない。
これって、早く注文しろって事、だよね。

「注文いいですか?」

「は、はい!」

「えっとですね、このランチとBセット。ご飯じゃなくってパンで。それと、ドリンクバー1つ」

「か、かしこまりました!あ、あの、デザートなどは!?当店の一押しはこのパフェなんですけど、こちらのチーズケーキも人気で、」

「あ、えっと、デザートはランチ食べてからまだ食べられそうなら頼みますね」

入りたてのか、緊張しているバイトの子が可愛くって思わず笑ってしまうと、顔を真っ赤にして頭を下げ厨房の方へ行ってしまった。

「うーん、若いなぁ。可愛いなぁ。…ふふふふふ、これで長時間居ても文句は言われないぞ。…さてさて、これからどうしよう。…あ、実家に帰ると心配するから帰れないよね。それに、離婚の原因とか聞かれそうだし、そんな事聞かれたら何て答えたらいいか分かんないし…。だからと言って友達の処も無理だしなぁ…。そうだよ、甘えちゃダメ!独りで生きて行かなきゃ!私、迷惑ばっかりかけちゃうから、ダメだよ…」

独り言を言いながら手帳と財布をカバンから取り出してテーブルに置いた。
所持金は50万円。
アパートを借りる頭金はこれで足りるのだろうか。
独り暮らし用の部屋だったら足りたとしても、その後の生活の事を考えると…心許無い。

「独りで生きていくって決めたんだから、泣き事言っちゃダメ。あ、よくドラマとかで旅館とか住込みの仕事ってあるよね。あれってどうやったら分かるんだろう…。求人って出るのかなぁ…?」

そういった求人があるのか見てみよう、とスマホを触って私は目を丸くした。
大量の不在着信とメール。
不在着信は佐和田くんと嬉ーちゃんだった。
そういえば、出産予定日近かったような気がする。

「え?え?佐和田くんから?何で?それに、嬉-ちゃんからも来てる。でも、どうしたんだろう…。も、もしかして、嬉-ちゃんの赤ちゃん生まれた?産まれちゃった!?だから電話してきたの?でもでも、産まれたら知らせるのメールとかだよね?」

着信履歴を見ていたら、ここ最近電話ばっかりだったから、久し振りに嬉ーちゃんに会いたい。
でも、会ったら今回の事とか言っちゃいそう。
産まれて少し落ち着いたらちゃんと連絡あるだろうし、それまではこちらから連絡するのは止めておこう。
それにしても佐和田くんが電話掛けてくるなんて…。
何かあったんではないだろうか、と不安になるが、もう、私は佐和田くんの奥さんでは無いんだ。
未開封のメールを開けようとしたその時、タイミング良く着信が入った。

「わわ!」

習慣と言うのは恐ろしいもので、無意識に通話ボタンを押してスマホを耳に当てていた。

「はい、もしもし」

『っ、野乃華!?野々華か!?』

「っ!?さ、佐和田くん!?え?え?仕事中じゃないの?」

『馬鹿野郎!誰が離婚届なんか置いて出て行ってんだ!今、どこだ!』

「え、あ…その、」

『どこに居るか言え!』

「え、えっと、駅近くのファミレス、です…」

『ファミレス出て駅前の本屋の前で待ってろ!5分後には着くから。ブツ、ッー、ッー、』

一方的に電話を切られて私はポカン、とした顔でスマホを見詰めた。
仕事中なのに、何故、離婚届の事を知っているのだろう。

「家に戻ってるって事?お仕事は?……って、5分後に本屋!?」

パニックを起こして挙動不審者のようにキョロキョロと辺りを見渡すと、横の席の人が私を見ていてここがファミレスだという事を思い出した。
こんな場所で電話するなんて、迷惑で非常識だ。
恥ずかしくって、わたわたと手帳とスマホをカバンに突っ込み、立ち上がる。
5分で本屋まで行かなければ。
そして、レジにいたウェイトレスさんに注文のキャンセルを伝え、1000円札(多分足りない)を押し付けて店を飛び出した。

キャリーバッグのタイヤがけたたましい音で鳴っているが、そんな事構っていられない。
涙目になりながら、必死で本屋を目指した。

会うのが怖いのに怒ってくれた事が、探して迎えに来てくれた事が嬉しくって、息を切らせ走った。

本屋に着き、辺りを見渡しているとスーツ姿の男性がこちらに向かって歩いて来るのが見え、私の足はそちらの方向へ無意識に歩き出していた。
すると急に佐和田くんの方が走って来て、数秒後には抱き締められ

「莫迦野郎、いきなり居なくなるなっ!ずっと俺の側に居させてくれって言ったのは野乃華の方だろうが!約束、破んなよ!」

震える声とは反対に抱きしめている腕には力が籠められていた。

「さ、佐和田くん、お仕事、」

「今日は休みだ!」

大好きな佐和田くんの胸に顔が押し付けられ、嬉しくって涙が溢れる。
それだけで嬉しくって私は、必死で躰を抱き締め返していた。

「…昨日は悪かった。あんな言い方した俺が悪い。折角、俺の好きなチョコ作って来てくれたのに」

「私こそ、ごめんなさいっ。約束守らなくって、」

「それはそうと!あの手紙!お前の事が嫌い?どんな勘違いしてんだ!」

「だ、だって、佐和田くん嫌いって言ったし…」

「考えなしな処って言っただろうが!いっつも勘違いしやがって!俺はお前が好きだ!お前以外の女なんて目に入んねーよ!」

「え…?」

「お前はどんどん綺麗になっていって、他のヤローに見せたくねーから友達ダチも同僚も家に来るの断り続けて…。お前が勤めてた処の副社長とか井之頭の旦那とか見たら、俺の顔はどう考えても程遠い顔立ちだし次元が違うし、お前に好かれてんのか不思議でたまんねーし、俺がお前を好きとかおこがましいんじゃねぇんだろうかって、」

そんな事を考えていたとか驚きで、勢いよく顔を上げる。
しかし、大好きな旦那様の顔は変わり果てていて

「っていうか、何で顔が腫れてるの!?」

素っ頓狂な声をあげた。


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