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【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】夫に嫌われてると分かりまして。#2

2:思い立ったが吉日です!

佐和田くんが婚姻届けに名前を書いてくれた。
婚姻届けに名前を書いてくれた。(ここ重要なので2回言っておきます)
もうそれだけで私はパニックを起こしてしまって、挙動不審な動きのまま佐和田くんのご両親に挨拶。
『俺等もいい年だし、その、小間と結婚しようと思う』
私からがっついたとは言わず、2人で話し合ったような感じでご両親に話をしていく佐和田くん。
もう、そんな優しい処が大好き!と更に私の好きメーターが上昇していく。
佐和田くんのご両親は『2人が決めた事だから反対はしない』と快く結婚を承諾してくれ、お母様にいたっては『これで漸く本当の娘になるのね!』と喜んでくれた。
こんなヘンチクリンな私を喜んで迎えてくれるのだから、本当に心の広い方々だ。佐和田家の皆様…(ほろり)

家に帰れば彼の家と同じようなやり取りをしたが、違っていたのは父が佐和田くんに平謝りだった事。
『お父さんは佐和田くんに何か悪い事したのかしら』と私と母は訳が分からず一緒に首を傾げて2人を見ていた。

とりあえず、私の一世一代の逆プロポーズは大成功。
証人の欄も両方の父親が署名してくれたし。
嬉しさの余り、『このまま婚姻届け出しに行きたい!』と言ってみれば佐和田くんは嫌な顔一つせず、連れて行ってくれ、この日、私達は夫婦になった。

「ね、ね、佐和田くん。これからどうするの?」

送ってもらう車内で私はこれからの新婚生活をどうするか目を輝かして聞いてみる。

「…そうだな…。とりあえず明日、不動産回ってみてすぐ入れる処あったら契約するか」

「うん!そうだね!じゃあ、明日は何時に行く!?」

「あー…、昼からでいいんじゃねぇ?昼飯食ったら迎えに行くわ」

本当は朝早くから出かけてご飯食べたり不動産屋さんに行く前にちょっと映画なんて見たりして、デートしたいなぁ…なんて思ったりしたけど、今までわがまま言い放題だから流石にそんな我儘言える訳なくって、言葉を飲み込む。

「う、うん!了解です!待ってるね!」

それでも、佐和田くんと夢にまで見た2人でお出かけに胸が弾む。
そして、これから毎日顔が見られる事、一緒に居られる事を想像するだけで嬉しくって気がどうにかなりそうなのだった。

次の日、佐和田くんと不動産屋さんに行けば、去年建ったばかりのマンションを合わせた4件を紹介してもらい物件を見て回ることになった。
1件目は数年前に出来たショッピングモールに車で5分で着くけど、築年数がちょっと経ってるマンション。場所はいいけどちょっと年期が入っててパス。
2件目は築年数は8年だけど、すぐ側にお墓があって佐和田くんが速攻パス。
3件目は小学校に近くて静かな処だったんだけど、スーパーマーケットが遠くて車が運転できない私には厳しいので、今度は私がパス。
4件目、待ちに待った去年建ったマンションに。
長身の佐和田くんが部屋を移動するのに頭を毎回下げなくていいし、他の物件と少し間取りが変わってていいんだけど、値段が…。
流石に新しいし、交通の便も良いし、近所には大きくは無いがショッピングモールに西〇屋・ツ〇ヤだってある。
その上、南向きで日当たり良好!となれば案の定な値段。
『ちょっと失礼します』と不動産屋さんが電話に出ている間、佐和田くんと家族会議。(なんて素敵な響き!)
だけど、会議中に戻って来た不動産屋さんの言葉に、私達はなんて運がいいのだろう、と飛び跳ねたくなった。
先程の電話、このマンションのオーナーで、1階のモデルルームを売ってもいい、と言ってきたらしいのだ。

その部屋を見に行けば、角部屋ともあってかなり明るく広い印象を受けた。(物が入るとまた違ってくるのだろうが)
話を聞くと、1階なので庭まで付いているのに特典として庭の前に駐車場が2台分着くのだと。
部屋の中を見て回っているとオーナーがやって来て、早速、交渉を始めた。
始めはオーナーが家具も家電も新しい物をつけるので売り出した値段でどうか、と。
しかし、佐和田くんは購入者はこのモデルルームを1泊出来る特典があった事を口にするとオーナーさんの顔色が変わり、そこから押しまくりムード。
『確かに全世帯が泊まってなくても、半分の方が泊まってるとしたら2ヶ月から3ヶ月はこの部屋を使ってるって事ですよね?…値段がよければすぐにでも買っちゃうのにな…』
佐和田くんとここに住みたくって、友達から教わったおねだりの上目使いを発動。
すると途端にかなりの値引きをしてくれ、私達は1も2も無く購入する事に。
その後は契約をしに不動産屋に戻り、話を進めていく。
幸い、メンテナンスも済ませた後だったので即、入居できるのだが、家具・家電が昼から搬入される事になっているので、それに合わせて私達も荷物を運びこむ流れになった。

昼から始まった物件探しは無事、終了。
折角だし夕食を食べて帰らないか、とお誘いしようと思ったら母がお寿司を買って待ってるとの連絡があり、私はふくれっ面のまま家に帰った。

次の日。
指定された時間に行くと、オーナーさんと不動産屋さんが笑顔で出迎えてくれ、新居となる我が家へ入っていく。
荷物が届くまで立ち話をしている最中、気が付いたことが。
ただニコニコ笑っている私と違って、佐和田くんは不動産屋さんと世間話だけどちゃんと話をしている。
横顔を見ていると小じわを見つけ、黒髪の隙間に白髪を見つけた。
出会った時の、高校生の時とは違い大人になったのだと改めて……恋に落ちました!(きゃー!)
すると丁度そこへ電気屋さんが来て、手際よく段ボール箱から家電を出して設置していく。それが終わると数分もしないうちに家具屋さんが。
家具も家電も私が思っていたソファーやTV台ではなかった。
けど、無料タダだから文句は言わない。でも、ちょっとだけ残念に思ったのは内緒。
ソファーの位置等を指示していると両家の親が来て、楽しそうに部屋を見て回っている。
指示も終えて皆の許へ行けば、ローンの話をしていて何故か残りを両家が払う事で纏まっていた。
佐和田くんは『自分達で払っていきます』と何度も言っていたけど、親の見栄の張り合いに負けてしまったのだと。

皆、帰って行き漸く、漸く2人っきりになれた。
私は2人で食器を選ぼうと張り切っていたのだが、荷物を解いている佐和田くんに声を掛けると『ガス屋が来るし、それ待ってたら遅くなる。時間が勿体無いからひとりで買って来て』と。
一緒に行きたかったのだが、佐和田くんがそう言うんだから仕方がない。
ひとりの方が気を使わずに済むしゆっくり出来るから、ま、いっか。

夕飯はここで食べる約束をして私は財布を掴むと近くのショッピングモールへ繰り出した。

彼とこれから一緒に居られる時間が増える。
日当り良好のお庭で佐和田くんとまったり日向ぼっこしたり、お菓子食べたり、お昼寝したり。
他愛も無いお喋りしてダラダラと2人だけの時間を過ごす。
妄想は何処迄も広がり、幸せな気持ちになって、ニヤケ顏をそのままに私は鼻歌交じりでショッピングモール内をうろつく。
食器を選ぶとショッピングカートを押して生鮮コーナーから見て回り、いろいろとカゴに放り込んで行き、精算を済ませエコバックに材料を詰め込んだ。

「あ、ベッド用のシーツ買っておかなきゃ!」

慌ててカートを押し、寝具売り場へ向かう。
ダブルベッド用のシーツを見ていると目に入った色違いの枕。

「やだやだ~(ハート)新婚さんみたい!」

手に取ってみると『買わなきゃ!』という心の声に逆らえなく、レジへ持って行った。

頭の中がお花畑で本当に何も考えていないのだ、と思う。
店の外まで出て、私は自分の買った荷物の量に唖然としてしまった。
歩いて5分程の距離でお金が勿体無いけどタクシーに乗って帰ろうか。
それとも3回くらいに分けて歩いて持って帰ろうか。いや、食器の段ボール箱を持って帰る事はちょっと難しいかも…。
少し迷っていると店のロゴが入ったジャケットを着ている男性にどうしたのか、と声を掛けられ、ひとりだし車も無いから荷物をどうやって運ぶか悩んでいる事を伝えると、その男性は店の車を出して来てくれた。
マンションに着いても部屋の前まで荷物を運んでくれ、頭の下がる思い。
お茶だけでも飲んで行って貰った方がいいのだろうか、と悩んでいると玄関が開いて佐和田くんが出てきた。

「ただいま!あのね、実は、買い物しすぎちゃって、荷物をどうやって運ぼうか悩んでたらお店の人が車出してくれてねここまで一緒に運んでくれたの!本当、優しい人もでね、」

「はぁ?つーか、何で独りで行ってそんな持てない量の物を買うんだよ。…ったく。持って帰れねーんなら電話すりゃーいいじゃねぇか」

「あ…そ、そうだよね…。ごめんなさい…」

「……荷物、玄関に置いてもいいのかな?」

送ってくれたお店の人が私達を見て困った顔をしている。

「あ、ごめんなさい!」

「…ありがとうございます。ここに置いて下さい。ひとりで行かせて悪かった。後は俺がするから部屋で休んでろ」

と、部屋に押し込まれてしまった。

「…お礼言い損ねちゃった。けど、佐和田くんが言ってくれたしいいよね?」

後は佐和田くんに任せる事にして私は台所で夕飯の準備に取り掛かっていると、数分して部屋に入って来た。

「…………」

食器を入れた段ボールを台所に運んでくれる佐和田くんはすこぶる機嫌が悪い。
機嫌が悪い時は眉間に皺が寄って唇を噛む癖があるのだ。

「佐和田くん、何か、手伝わせてごめんね?」

一度手を止め彼の側に駆け寄れば、私を見下ろしこう言った。

「あのさ、結婚式は2人で船の中で挙げる。報告とかも帰って来てから葉書送る事にする」

「え…?じゃ、じゃあ、皆呼んで式はしない、の?」

「しない。…何か問題あるのか?」

結婚式を挙げるものだと思い込んでいた私はちょっと話に付いて行けず、必死で頭を働かせる。
皆に祝福されたいし、お色直しを3回はやって佐和田くんの御両親に花束を渡したい。
その後披露宴を終えたら2泊3日くらいの新婚旅行に出かけてる。
ワンパターンだろうけどそう夢見ていた。 いや、計画していた。
でも、佐和田くんの言う通り、挙げない事に問題は無いのだ。

「…問題なんて無いよ。…佐和田くんがそう決めたんなら、それでいいよ」

「じゃあ、飯出来たら呼んで。俺、荷物解いてるから」

「うん。ご飯出来たら声掛けるね」

隣の部屋に向かう彼の背中を見詰め、戸が閉まると思わずため息が出てしまう。
自分の意見が言えなかった、というより意見を聞こうとしてくれなかった事が悲しくってため息が出た。
しかし、そんな落ち込んでたって佐和田くんの気持ちが変わる訳ない。
思いっきり楽しめるように頑張ればいいのだ。

…切り替え切り替え。

「よし。ご飯作ろ」

パタパタとスリッパを音立てて台所へ向かった。

引っ越し蕎麦だけでは物足りないので天ぷらも揚げて、上に乗っければ天ぷら蕎麦の出来上がり。
天かす・小ねぎなどの薬味も忘れずに小鉢に入れて運ぼうとすると、匂いに釣られて佐和田くんがリビングに出て来た。
声を掛ける前に出て来てくれた事が嬉しくてついにやけてしまう。

「天ぷら自分で揚げた?」

「うん。お母さんが上手な揚げ方教えてくれて」

「へー上手いな。店の天ぷらみたい」

誉められて思わず顔が赤くなる。

美味うまそうな匂い」

椅子に腰かけて、いただきます、と手を合わせて食べ始める佐和田くん。
感想を聞きたくって、顔をじーっと見詰めていると

「うぇっ…、まじぃ…」

心底不味そうな顔をして、コップに注がれた水を一気に飲み干した。
甘い物を作って行った時は一度も、不味い、など言われた事は無い。

私、甘い物は作れても料理はてんで駄目なんだ…。

『ど、どうしよう…料理が下手だから結婚無しにしようなんて言われたら!』

慌てて席を立ちスマホで料理教室を調べれば、先程行ったショッピングモールの反対側に料理教室がある事が分かった。
お休みは火曜日で夜9時までやっているのだと。
今、7時になったばかり。

「料理教室通って来る!」

「え?!あ、ちょ、」

佐和田くんが何か言っていたけどもう、私の耳には届いておらず。
印鑑と通帳と身分証明を持って飛び出していた。


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