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【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】夫に嫌われてると分かりまして。#3

3:初めてのクリスマスです!

「お久しぶりです!」

「やぁ、野乃華ちゃん。お帰り」

「「お帰り~~~!」」

「2回(2週分)も会えないと寂しかったよ」

「えへへ。これ、皆さんにお土産なんですけど、好みが分からなかったのでワインにしました。よかったら飲んでください」

久しぶりに来た料理教室。
生徒さんと先生(皆、男性)にお土産のワインを渡し、紙袋を畳む。

「5本も持ってくるの大変だっただろ?連絡くれたら迎えに行ったのに」

「大丈夫ですよ、これくらい!私、結構力ありますし!」

「あ、この白ワイン辛口だけど人気のあるヤツだ」

「そうなんです!私、ワイン飲めないんですけどこれは美味しかったので、皆さんにも飲んでもらいたくって買ってきました!」

「「ありがと~~~!!!」」

「で、どうだった?船の挙式。あと、船酔いしなかった?」

「はい!大丈夫でしたよ。でも、旦那さんの佐和田くんがかっこよすぎて惚れ直しちゃいました!これ、結婚式の写真(佐和田くんを)見てください!素晴らしい胸筋に素晴らしい肩幅に、もう全てが素晴らしすぎる佐和田くんを堪能してください!!」

佐和田くんが言った通り、豪華客船の地中海を回るコースで、その途中に2人だけで式を挙げた。
ウェディングドレスもタキシードもその場で決め、簡単な流れを聞いてそれに従って式をする。
海外旅行も結婚式も一緒にできる一石二鳥な旅行な上に、10日間も彼を独り占め。
簡単な式だったけどウェディングドレスは佐和田くんが決めてくれたし、常に佐和田くんが隣に居て、幸せ!
それに!それに!私の初めてを貰ってくれたんだもの!(きゃーん!)

「し、幸せそうで、なにより…だよな?」

皆さんが引きつった笑みを浮かべる意味が分からなかったが、私は笑顔で

「はい!幸せです!」

と返事をしてみせた。

だけど、帰って来てから佐和田くんは部署が変わったとかで仕事が忙しくなった。
呼び出されたのかたまに起きた時には既に出社している事もあるし、帰りも夜の10時過ぎる事が増え、会話がほとんどない。
朝はギリギリまで寝ているので起きたら準備してすぐに出て行くし、夜は飲んで帰ってきたり食べて帰って来るのが殆どで、家でご飯を食べる事は稀だし、休みの日は昼間まで寝ている。
休みの日はお昼ご飯は市販されているパンとヨーグルトと牛乳を飲むので作る事は無いし、食べたらすぐにドライブに行かないか、と誘われて家を出る。
運転中、コンビニに細目に寄って目新しい物を必ず買って食べてるし、必ず半分私にくれ感想を聞いて来る。
それが週末の過ごし方になっていて夕食を作る事すらない。
出していても一口二口食べて、ご馳走様、とお風呂に入りに行く始末。
やはり、私の手料理は食べられたものじゃないんだ。

「ふおおお~~!必ず美味しかったよって言わせてみせるぞ~~~!頑張るぞ~~!先生、今日は何を作るんですか!?」

それだけを目標に料理を勉強するのだった。

***
そして、初めてのクリスマス。
私は朝からテンションが高かった。
だって、佐和田くんが定時になったら帰って来るのだ!
それだけじゃない。
明日から年末の休みに入るので8日間も家に居る!
もう、年末は腕によりをかけてお節作っちゃうぞー!きゃー!

そ・の・ま・え・に。
今日のクリスマスの準備しなくっちゃ。

ケーキはちょっと大人なビターチョコを使ったショコラケーキ。
料理教室で簡単だけど手抜きに見えないローストビーフの作り方を教わって来たので早速それを作ってみる。
サーモンは佐和田君が好きだから絶対に外せないけど、ローストビーフがあるからここはカルパッチョでいこう。
ピザの生地も佐和田君の好みに合わせてふっくらしたモノで。

そうして私は朝からトイレに行く事も忘れ、準備に勤しんだ。

ふ、と時計を見ると5時半。
定時を迎えた時間だ、と思うと急に落ち着かなくなって来る。
だって、だって!今日は私のご飯をまともに食べてもらえる日で、そして、明日から8日間もそばにににににっ!(いや、家に)
嬉しくって嬉しくって、天にも登る気持ち!

「よ〜し!ローストビーフもサーモンのカルパッチョも盛り付けは終わっているから、後は、佐和田くんが帰ってきたらピザをオーブンに入れたらOK!」

独りでポーズを決める。
そして、佐和田君をすぐにお迎え出来るようにサンタさんのコスプレをして玄関で待機をするのだった。

そうして夕方6時になり、本当に佐和田くんは帰って来て、早々に私達はクリスマス会を始めた。
たくさん食べてくれる佐和田くんに、気が狂ってしまいそうな程嬉しくって、やだ、泣きそう!
クリスマスの不思議な力に感謝!

ほんの少し飲んだシャンパンのせいなのか、興奮のせいなのか分からないけれど、嬉しくって私はクリスマスソングを歌いまくっていた。

それに、佐和田くんが珍しくいろいろと話をしてくれて。
内容は頭に入ってこないけど、頷きまくる。

「聞いてんのかよ、お前」

「きいてるよ~!今度、お友達の処に出産祝い持って行かなきゃね!」

「んー、そうだな。お前は近所のショッピングモールで待っててくれていいから」

「えぇ!?私も行くーーー!赤ちゃん見るーーー!佐和田くん、好き好き、大好きーーー!」

「あーはいはい、はいはい」

呆れ返った返事だけど多分、照れ隠しだ!
最近、こんなに笑った事、あっただろうか。
料理教室の皆さんがクリスマス会に誘ってくれたけど、行かなくて正解だった。
佐和田くんと過ごせる楽しくて、幸せな時間と引き換えになんてできない。

ピザを頬張り少しシャンパンを飲む。

「おい、もう飲むの止めた方がいいんじゃねーのか?朝、起きれなくなったら大変だろうが」

「あ、そうだよね。うん、もう止めとく」

「残りよこせ。俺が飲むから」

「やん!間接キス!(ハート×10)」

「ガキみてーな事、言ってんじゃねーよ」

鼻で笑う佐和田くんは何時もより柔らかく笑ってくれる。
そんな些細な事が嬉しくって幸せになる。

暫くして佐和田くんが真っ直ぐに私を見詰め、急に箸を動かすのを止めた。

「あー、あのさ、料理教室っていつまで通うんだ?」

料理教室の事を聞かれるとは思ってもみなく、驚いて目を丸くする。

「いや、通ったら悪いって言ってるんじゃなくってな、その…なんつーか、な」

「…?」

「その、あれだ。お前、凄い料理上手いからもう行く必要ないと思うっていうか、」

「ね、私の料理、美味しい?口に合う?毎日食べたい?外食したくなくなる程!?ね!?ね!!?」

私の勢いに押されて反り返りそうになりながらも、佐和田くんは

「お、おう。お前、本当に料理は上手い。お世辞抜きで上手い」

真面目に答えてくれ、嬉しさの余りぴょんぴょんとそこら辺を飛び回った。

「やったーーー!佐和田くんに上手いって行って貰えたーーー!嬉しい!頑張った甲斐があるよ!じゃあ、もう今月で退会するね!あ、ビールお替りは!?」

鼻息荒く振り返ってビールを注いであげる。
一気にビールを飲み干すそれを眺めていると、何なんだよ、と照れている。
照れる顔が可愛い、なんて言ったら失礼になるだろうから心の中で言って

「いい飲みっぷりだな~って思って」

とほほ笑む。
すると、佐和田くんは何か思い出したように自分の部屋に戻り、大きな箱を持って出て来た。

「食べる前に渡すつもりだったのに、忘れてた。クリスマスプレゼント。開けてみて」

「え?え?え!?わわわわたしに!?」

「それ以外誰が居るんだよ。本当、面白いな。お前は」

目を細めて楽しそうに笑われて、顔を真っ赤にしながら箱を受け取りる。
その箱を開けてみると中には鍋が。
それも、T-falの調理時間・火加減お知らせタイマー付き圧力鍋!

「うわわわー!どうしよう!欲しかった圧力鍋だ!でもでも、これ高かったでしょ!?ア○ゾンでも1万4千円はするのに!っていうか、何で欲しかったの知ってるの!?」

「あーそれは、お前、ア○ゾンのホームページ開いたままにしてただろ。欲しい物リストにも入れてたし。まぁ、何時も旨い飯作ってくれる礼だ」

「え~~~、どうしよう…。ごめんね、私、佐和田くんに何も用意してないのに…。でも、ありがとう!本当、嬉しい!これでお節の角煮を作るね!佐和田くん!だーい好きだよー!」

こんなサプライズがあると思ってもみなかったので嬉しさは一入。
嬉しさは表現すべき、と先日料理教室の先生に教わった事を実行しようと佐和田くんに思い切って抱き付いてみたが、鍋を抱いている事を忘れていてた。

「ぐおぅっ!!!」

どうもみぞおちに鍋が突っ込んだようで、佐和田くんは口を押えトイレへ駆け込み、……暫くトイレの住人になってました。


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