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【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】夫に嫌われてると分かりまして。#5

5:服装に気を付けます!

それから、私の日課はダイエット中心になった。
まず始め、某メガヒット曲でダンスをしながら体を引き締められるエクササイズDVDでダイエット。
聞きなれた曲はすごく楽しいのだけれども…、運動音痴の私にはダンスの動きがどうも理解出来なくて、盆踊りを踊っているようにしかならない。
一生懸命やっているのだけど、佐和田くんに見られた時、『笑い殺す気かっ!』と大笑いされて、早々に断念した。
次はフラフープをしてみたんだけど、何回も回せない上に床に落ちたら煩くってすぐに止めてしまった。
このまま止めてしまうのは簡単だけど、絶対に痩せたい。

「うぅぅぅ~~~、次、どれをやってみよう…。あ、バランスボール忘れてた…」

買ってきていたバランスボールを思い出し、空気を入れて乗ってみる。
…するとどうでしょう!なんと!運動音痴の私にでも乗れるではありませんか!

「ふおおー!乗れた!ってか、面白い!」

その日からバランスボールに始まり、バランスボールに終わる日々を過ごした。
だって、バランスボールって腹筋を鍛えるだけじゃなくって、お尻も太股も鍛えてくれるんだもの!

「よっしゃーーー!体重3キロダウン!太股1センチダウン!!くっ!ボールの分際で、私を痩せさせるとは!お主、なかなかやるなっ!」

月1回する測定で減ってる事が嬉しくって、私は一喜一憂しまくっていた。
バランスボールに乗り出して、2ケ月頃から佐和田くんも

『あれ?痩せた?』

と聞いて来た程。
ありがとーーー!バランスボール様!!!

体重もサイズも目に見えて減って来るっていうのは、本当に楽しい。
それに、好きな人から『痩せた』と言われるほど嬉しい物は無く、仕事もしていないので私はダイエットにのめり込んで行った。
でも、佐和田くんの為のお菓子作りは定期的にします。

***
この日は大学の友達と定期的に女子会をする私は、昼過ぎから久し振りのお洒落をして、何時も待ち合わせをしているbarに向かった。
毎回5人で集まるのだけど、私以外は独り者なので(もう1人の既婚者の子は子どもが出来たので暫く不参加だそう)何時も遅くまで話し込んでしまう。
前回、深夜の3時半まで付き合ったので、今日はちょっと早く帰りたい。
まぁ、どんなに遅くなっても佐和田くんは怒った事が無いので本当に助かるけど、実はちょっとだけでも気にして欲しいなぁなんて思っている。

皆が揃ったら乾杯を済ませ、ひとりずつ近況報告をしていく。
何時も進行役の子が報告を済ませると、皆の目が一斉に私に向かい、ちょっと身構えてしまう。

「ね、ね!野乃華!痩せたね~!」

「それも健康的な痩せ方!」

「うんうん!それに一層、可愛くなった!」

「「「佐和田のお蔭だよね~!」」」

怒られるのかと思っていたので、安堵して肩の力が抜ける。

「う…、うん…」

私は違う意味で顔が赤くなったのに、皆は勘違いをしてどよめいた。

『デブってしまって、三行半突きつけられたとは言えないのです(それは思い込み)』

口に出せなくて曖昧に微笑む。
すると

「…佐和田、夫になっても気が抜けない」

「これは、本当に気が抜けないわ…」

と、友人達はため息を吐き始めた。
何の事か本当に分からずに

「何で?」

首を傾げると

「「野乃華に言っても理解出来ないから知らなくてい」」

だって。

「???」

訳が分かんない。

「…でもさ、野乃華。家ではどんな格好をしてるの?」

「ど、どんなって…。パジャマかジャージかな…。皆、そんなものでしょ?」

「そうだけど、そんな色気の無い格好で居たらダメじゃな~い!」

「え?だって家だよ?」

「もう、莫迦ね~。家だから、よ。旦那さんに見せる為に着飾るの」

「でも、ちょっとのお洒落がいいんだよ。コテコテに化粧するんじゃなくってね」

「そんなモノなの?」

「「「そんなモノよ」」」

「贅沢言えば、下着も奮発するのをおススメするよ」

「うんうん!オトナな下着だよ?野乃華」

「ん?う、うん…」

きゃあきゃあ、と盛り上がって行く3人。
やっぱり服装も気を使わないといけないのだろうか。
家に居る時は基本、ジャージかパジャマ。
出かける前に着替えるだけなので、言われてみれば色気がない。
私にはイマイチ理解しがたい事だったけれど、皆が言う事に間違いは無いだろう。
折角、ダイエットも成功したからワンピースや短めのスカートもはいてみたい気もする。
しかし、オトナな下着って何だろう…。

「ありがとう。家での服装も気を遣うようにするね」

後押しをしてくれた友人にお礼が言いたく、にっこりと笑えば

「店員が見惚れるからむやみやたらに笑っちゃダメ」

と意味の分からない事を言われて、私は首を傾げるしかなかった。

「あ!あのさ、私、実は、彼氏が出来たんだよね…」

突然、友達の告白に一同、どよめく。
だって、ずっと『一生彼氏を作らない』とか言っていた人だったし、今迄、彼氏の『か』の字も出なかったのだ。

「つー事は、貫通式済ませたの!?小野寺おのでら!」

「か、貫通式とか言うな!」

「いやぁ、このままヤラサーで迎えて、魔女になるんじゃないかって心配してたんだよ…」

泣く真似をする友人が面白くって、私は笑い転げる。

「ごめんねぇ、魔女になれなくって!」

「で?で?どんな奴?写メくらいあるんでしょ?」

そこからはもう、その子の彼氏の話で持ちきりになり、私はすっかり佐和田君の気が抜けない理由について聞くのを忘れていた。

―――次の日。
結婚する前に買っていたスカートを引っ張り出して、履いてみる事にした。

「これだと、やっぱりニーソ履いた方が可愛いよね~。でも、もう、ニーソ履く年じゃないよ…」

スカートの裾をちょいっと掴んで、ほんの少し上に上げてみる。
その瞬間。
後ろでゴトン!と何か落ちる音。
振り返れば顔を真っ赤にした佐和田くんが。

「お帰りー。今日、早かったんだねー」

「お、おう!ってお前、何て格好!」

「え?変?オカシイ?似合わない?」

「い、いや、変じゃねーし!オカシクねーし!に、似合ってる!」

「ほ、本当!?やったーーー!頑張った甲斐あるよー!」

万歳したままくるくると回れば、佐和田くんは耳をまっかにしたまま足早に部屋に向かって行く。

「ご飯は~?」

「食べてない。…茶漬けでも出して」

「了解なり~~~!」

私は嬉しくってふわふわした足取りで台所へ行き、冷凍の鮭を出してお茶漬けの準備に取り掛かる。
着替え終った佐和田くんは何時になく落ち着きがなく、お茶漬けも流し込むように食べて、そして早々に立ち上がりお風呂の方へ向かって行った。

「何か嫌な事でもあったのかな?」

片付けをしようと立ち上がり不意に目に入った姿見。

「…やっぱりまだ太股が太い気がする…」

私はスカートを裾を持ち上げ、まじまじと眺めていた。
その後姿を佐和田くんが見ていたとも知らずに。

その月、給料日に佐和田くんが大きめの紙袋を持って帰って来た。
中身は私が愛用しているメーカーの服で、もう、大喜び。
早速次の日、その服を着ると佐和田くんも嬉しそう。
それから、給料日になると毎回、紙袋を持って帰るようになった。

それが楽しみになったのもあるのだが、店で付けられるのか、違う匂いにほんの少し不安に思っていると会社の上司とお店に行ってる事が判明。
上司の奥さんも同じメーカーを愛用しているらしく、一緒に行っているのだと。
『他の女の人と行っているのかと心配してた』と口を尖らせると、『心配しなくてもお前の旦那は物凄くモテないから』と真顔で言われた。
佐和田くんは私を安心させようとしてあんな事を言うんだから。
本当に優しい人。(ハート)

そんなこんなで、あっという間に2月14日。
2回目の結婚記念日がやってきた。

出掛けに佐和田くんが靴を履きながら

「…晩御飯さ、外で食べねえ?ホテルのレストラン予約してんだ」

私を見遣る。

「れ、レストラン!?」

「おう。今日、結婚記念日だろ?」

「覚えててくれたの?」

「当たり前だろうが。1泊しようと思って部屋もとってるからさ、俺の服も持ってきて。7時に駅前のホテル集合な。じゃあ、行ってきます」

ひらひらと手を振って佐和田くんは玄関を出て行く。

「ぷぎゃーーーーーーーー!!!!」

私は初めての外食の誘いに驚いて、その場に座り込むと近所迷惑な奇声を発していた。


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